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平成八年生肉之年

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第2回逆噴射小説大賞に出したお話の続きを書いています
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2023年11月の記事一覧

平成八年生肉之年--06

平成八年生肉之年--06

承前

神立悟

 峠を上る轟音が夕闇を切り裂く。坂道をヘッドライトがぎらぎらと照らした。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……10台近くのバイクのヘッドライトが一つの光の塊となって廃リゾートを目指す。
 先頭のバイクがエンジンを唸らせる。悟のゼファーだ。吹き付ける突風で白い特攻服がはためいた。峠を登り切るにはあまりにも速すぎる。自殺に似た走行の中、悟はやり場のない怒りをスピードに変換していた。
 ひ

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平成八年生肉之年--05

平成八年生肉之年--05

承前

平岡辰雄

 平岡は観覧車をじっと見つめていた。
 数日前、新たに子どもが行方不明になった知らせが入った。顔剥ぎ事件、虐待事件に続いて署内は色めき立っていた。
 平岡は鉢村を連れて現場の屋上遊園地を捜査していたところだった。
 青空を背景に、黄色いゴンドラがちょうど12時の位置に来ている。ゴンドラの屋根の上には男がいた。男の見た目は奇妙だった。紺の浴衣姿で、顔は肉の仮面で覆われている。
 

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平成八年生肉之年--04

平成八年生肉之年--04

承前

初川千歳

 わあわあと子どもたちの声がこだまする。
 洋月モールの屋上遊園地は、平日も市内の子どもで活気に満ちている。観覧車には親子連れの列が出来ていた。園内では最も見晴らしがいいため、人気のアトラクションのようだ。時折歓声が聞こえた。
 千歳はゆっくりと回るゴンドラを見ながら、もの思いにふけっていた。
 普段であれば平和に見える風景を楽しむ余裕は今はない。
 千歳は息を吐き、頭がぐった

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