季刊誌『ナイトランド』より『ピックマンの遺作』感想
ラブクラフトのクトゥルフ神話体系は、後世の様々なクリエイターたちによって新たな作品の題材とされました。
ここでご紹介するのは、ホラーとダークファンタジーの季刊誌『ナイトランド』ナンバー2からロン・シフレットによるクトゥルフ神話の短編です。
タイトルは『ピックマンの遺作』。以前にご紹介したラブクラフトの『ピックマンのモデル』を元ネタにした物語です。
私立探偵カーニーが主人公で、彼の三人称視点に固定して展開します。
探偵ものの中でもハードボイルドと呼ばれるスタイルの小説では、一人称視点で展開するものが多数ですが、雰囲気を似せてあるのです。
ハードボイルドぽいが、ハードボイルドではない。そんな作風になっています。
原案の『ピックマンのモデル』が、曖昧にぼやかしてあるゆえの奥行きと不気味さを演出しているのに対し、こちらは明快に敵の正体なども書ききっています。
その代わり、危機的な状況も明瞭に描写され、ハラハラさせられる気分になるわけです。
つまり、怖さの種類が違うのですね。
カーニーは特にインテリでも強いというわけでもなく、小汚い探偵事務所にいて依頼を受けて暮らしています。
彼は、かの悪名高いピックマンの絵画を盗難から守るように依頼されるのですが、警護の夜、読者の予感どおりに悲惨な出来事が起こるのでした。
ピックマンとその絵画については、原案となる小説を知らなくても分かるように、登場人物の会話を通して読者に知らされます。
読者に対する説明、情報提示としての会話シーンは、ともすれば退屈で動きの乏しい場面になりがちです。
しかしこの短編では、書店主ブレナンと主人公カーニー、そして依頼人のパルマーの三人の軽快なやり取りに乗せて、端的に分かりやすく語られます。
すでに『ピックマンのモデル』を読んだ私にも退屈さは感じさせませんでした。
そのあたりの情報提示から、不穏な空気は感じられ、無事に終わるわけがないと読者に予感させています。
ラブクラフトの多くの短編や中編にあるように、振り返って出来事を語るやり方ではありませんが、冒頭の書店での三人の語り合う場面で、先行きがある程度読めるようになっています。
読者は先が気になって、読み進めるというわけですね。
主人公カーニーは依頼を受け、危険な場所に行き、事件が起こり対処してラストへ。その構図はラブクラフト短編と似通っています。ホラーにはよく見られる構成なのだと思います。
怪しげな屋敷や古城に行くなんていうのも昔からあるパターンですよね。探索する『危険な場所』が広ければ、それだけ長いストーリーに出来ますね。
そんなことを考えました。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
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