ラブクラフト『狂気の山脈にて』より『祝祭』の感想
新潮文庫のラブクラフト短編集『狂気の山脈にて』より『祝祭』の感想をお送りします。
故郷を遠く離れた東の海にあるキングスポートの街にたどり着いた主人公(語り手)が、クリスマスの夜に遭遇した恐るべき出来事の物語です。
今回は、振り返って出来事を語るスタイルではありません。
語り手(主人公)は東の海に魅了され、先祖が暮らしていた土地を訪れます。キングスポートと呼ばれるその街には、恐るべき秘密がありました。そしてその秘密は、主人公の先祖とも深く関わるものだったのです。
自分の先祖が実は恐ろしい存在であったと判明する流れは、『インスマスの影』とも似ています。
主人公の逃避行がはらはらさせられる展開として描かれた『インスマスの影』に比べると、こちらは手堅くまとまった小品といった短編です。
キリスト教の祝祭であるクリスマスが、実はキリスト教以前の古代の宗教の祭りユールの祝祭と分かち固く結びついている。その古代の祭りに引き込まれる事件が、この短編の一番のクライマックスです。
クトゥルフ神話大系では有名な『ネクロノミコン』も出てきます。
個人的には、恐ろしさや奥の深い雰囲気よりは、生理的な嫌悪感をもよおさせる描写が今回はおおかったなという、印象ですね。
主人公が否応なく恐怖の場へ連れられて行く場面は、心理描写にリアリティがあり見事でした。実際に、このような心理状態はあり得ると思わされ、思わず感情移入してしまう書き方でした。
それでは今回はここまでです。読んでくださってありがとうございました。
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