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【サスペンス小説】その男はサイコパス 第15話

 さて、これからどうするか。このまま泳がせてもっと接触してくるのを待ち、ストーカー行為で通報してやるか。
 それとも水樹に心当たりがないか訊いてみるか。こちらから何か御用ですか? と尋ねてみるか。
 
 最も面白そうなのは、警察にも水樹にも何も言わず、見ていること。次にこいつは何をしてくるか。

 いやいや。知也は自分で自分を引き止めた。自己客観視ができる者にはこうしたこともできる。これには仕事が絡んでいるんだ。俺にならまだしも、水樹に対して何をするのか分からないのなら、まずあいつに知らせておいた方がいい。

 知也は十字路の角に立ち止まる。スマートフォンで水樹に電話をした。

 セキュリティの点で問題がありそうなタイプのメッセンジャーアプリは、人気があっても使わない。別のメッセンジャーアプリだ。こちらは特にビジネスユーザーに定評がある。水樹を始めとする数少ない友人とのやり取りもこれを使っていた。

 水樹が出なければメッセージを残すだけにする。できれば今すぐに話を聞きたいが。
 
 幸い、水樹は出てくれた。

「何だ? 緊急の用事って?」
「メッセージに切り替えるぞ。声を聞かれたくない」
 一方的にそう言って、水樹の返事を聞かずにメッセージを送る。

「この男を知っているか? 俺を付けてきている」

「跡を付けてきている? こいつは従兄弟の真先(まさき)だな」

「従兄弟ってことは、時道爺さんの孫か。俺の推測は当たりだったな」

「何かあったのか?」

「報告書の提出で職場の近くにいるんだ。ビルを出てから見張られているのに気がついた。四ツ井の名を出しているメディアがある。多分、それでだろう」

「四ツ井に頼んだのはうちの一族も、祖父の会社の重役や顧問弁護士も知っている。会社の話ではなく身内の事だから、遺産相続については会社の顧問弁護士には頼まないと言っていて。それで反対もあったんだけど」

「ああ、そうだったのか。でも俺をどうこうしても爺さんの気持ちは変わらないだろう? 俺がお爺さんの立場なら、やっぱりこの真先とやらに遺産は残したくないね」

「そう言ってやるな。可哀そうな奴なんだよ」

「可哀そうって?」

「小中学といじめられていたんだ。中学2年で私立のフリースクールに通うようになって、ようやく元気になった。でもそこでも友達は少なくてね。今は通信教育でプログラミングの勉強中だよ。リモートワークでできる仕事を探すらしい。僕は幸運な方だった。祖父もそれは分かっているはずだ」

「ふうん。なら、おこぼれにくらいはありつかせてもらえるのかな」

 オンラインでやり取りするリモートワークは、実際には直に会う仕事よりもコミュニケーション能力を必要とするらしいが。知也はそう考えたが、ここでする話でもないと判断する。別に真先とやらがどうしようが知ったことではないとも思う。

「全く何も残さないとは思わないよ。おじいさんもそんなに薄情じゃない。だけど問題は……誰に何を、どれだけ残すか」

「水樹はもらえるもんはもらっとけよ。遠慮なんかしてる場合か」

「でも、資産家を祖父に持つのは僕の実力ではない。努力の結果でもない」

「弁護士になったのは?」

 そのやり取りの間、真先はずっと上目使いに知也を離れた位置から見ていた。やれやれ、これで気づかれないとでも思っているのか? 知也は呆(あき)れていた。

「真先はいじめられていたそうだが、自分から何か人に害を与えるような真似はしていたか?」

「嘘を付く癖があったな。何となく陰気に見えてしまうのもあって、なかなか友人が作れなかった。嘘と言っても他愛のない嘘だけど、何度もやられると気に触る奴もいたみたいで。クラスの大半はそれほど気にしていなかったけど、何人かが暴力を振るい始めた。誰も止めはしなかったんだ。先生も含めて」

 そこは民事で賠償請求はできないのか? 冗談半分にそう言いたかったが言わないことにした。水樹には冗談だと分からないだろう。分かれば不謹慎と思われるだけだ。

 だが賠償請求が本当にできるならその方がいい、遺産に執着しなくて済むかも知れない、とも考えていた。

「分かったよ、俺が言いたいのは、いじめられる理由があるなら仕方ないって話じゃない。今俺は真先に付けられているし、多額の遺産が絡む話だ。だから訊いた」

「真先が君に危害を加えるかってことか? それはまず無いよ。良くも悪くも、そんな度胸はないんだ」

「そうか、ならこのまま放っておこう」

 そうメッセージしつつも、知也は水樹の言をまるごと鵜呑みにはしない。

 人間は多額の金が絡むと豹変する。そんな事例は多い。水樹は真先を不憫に思いかばっているようだが、跡を付けられている身にもなれとも思う。

「さて、どうするか」

 試しに『尾行』をまけるかやってみよう。

 知也は駅とは違う方向に向かった。

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