ラブクラフト『狂気の山脈にて』より『ダゴン』の感想
新潮文庫ラブクラフト短編集『狂気の山脈にて』に収録の『ダゴン』の感想をお送りします。
ここでも、短編や中編の中で何度も繰り返されてきたストーリーの型があります。
主人公≒語り手は過去を振り返り語る。危険な場所に行き、探索し、事件が起きて、対処してラストへ。この構図です。
今回は、危険な場所に行った理由が、自業自得ではないのがこれまでとは異なるパターンと言えます。
怪しげな研究に手を貸したわけでも、気まぐれからわざわざ危険な場所に足を踏み入れたわけでもありません。
主人公は船荷を運ぶ定期船に乗る監督人でした。戦争が始まり、敵国のドイツ軍に捕らえられ捕虜となります。
主人公はスキを見て脱出、漂流するうち、恐ろしい事実が眠る島に流れ着いてしまうのです。
ダゴンは、旧約聖書に出てくる異教の神の名前ですね。それが恐るべき悪の神として登場します。
このあたりで少々引っ掛かりを覚えなくもないのですが、物語としてはとてもよく出来ていて素晴らしいのです。
それはやはり、緻密に書かれた主人公の心理描写と情景描写がもたらす効果なのでしょう。
ダゴンを崇拝する者は、主人公の跡を追ってきたのでしょうか? それとも主人公の狂気による幻覚だったのでしょうか? そこはどちらにも解釈出来るようになっています。
クトゥルフ神話体系を成す1篇ですが、かつての海底に潜む邪神を祀る遺跡の描写は、謎めいていて神秘的で、そしておぞましさがあるのです。
この世界観や設定を使って、自分も何かを語りたい。そんなある種の魔力があるかのようです。
今回も良き読書体験でした。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
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