「人生という旅」でのできごとを、どう受け入れ、どう接し、何を創るのか
私(森)は出不精で、休みの日に家から一歩も出なくても全然平気。一方で、妻は行動的でお出かけが大好きです。
この前、猫とゴロゴロと幸せな時間を過ごしていたら、妻が「もう~猫ばっかり大事にして! 猫に介護してもらってね。 ね。」とつぶやいていました。
怖すぎる!
私だって、妻を旅行に誘うこともあるし、妻を大切にしているつもりなのですが。
なんとかうまくやっていけているのは、きっと私の謙虚で優しい性格によるところが大きいのだろうと思います。
それにしても、コロナ禍で出かけられない昨今の状況は、妻にとっては、私以上にストレスがあるはずです。
というか、誰にとってもすごいストレスですね。こんな時期を、もっと楽しむうまい方法はないものでしょうか。
そう思っていたら、私が好きなライターさんが本を出版しました。
「0メートルの旅 日常を引き剥がす16の物語」岡田悠(著)
本書の旅の舞台は、16の国と地域。
日本から1600万メートル、
地の果て南極から始まり、
だんだんその距離は近づいて、最後は
「自分の部屋の中」で完結します。
「遠くに行くこと」だけが旅ではない。
日常の中に非日常を見出し、
予定不調和を愛する心があれば、
いつでも、どこでも、旅はできる。
読めば自分だけの物語が始まる。
これからを生きる人に贈る、
新しい旅のエッセイです。
岡田さんが、モロッコで電車の二等車に乗った時のことを、少し引用します。
「0メートルの旅」
目を覚ますと1時間以上が経過していた。幸い寝過ごしてはいないようだ。ガイドブックを取り出そうと、棚に乗せたバックパックに手を伸ばしたところ空をつかんだ。冷たい予感が背筋に走る。慌てて立ち上がって確かめると、そこにあるはずのバックパックはなくなってい た。防犯のため幾重にも巻きつけておいたチェーンは見事にすっぱり切断されている。盗まれたのだ。
あれだけバックパッカーに憧れた僕は、早々にバックパッカーではなくなった。
(中略)
藁にもすがる思いでその見知らぬ男に事情をぶちまけた。話だけでも聞いてもらいたかった。男は何度か頷いたあと、俺の家に来いと僕を誘った。
バックパックが盗まれなかったら、決して出会うことはなかったであろう人々と出会い、面白くて、そして感動的な体験をします。
そして、それは旅行先だけでなく、近所でも家の中でも・・・。
本を読み終わったら、「日常の中に非日常を見出し、予定不調和を愛する心があれば、いつでも、どこでも、旅はできる。」と実感できるでしょう。
この本に触発されて、私も旅のことを、日常の中の非日常のことを書いてみたくなりました。
微笑みの国タイで、私たち家族は感動の渦につつまれるのか?
私が今の会社に転職し、妻が医療系の専門学校に通っていた頃は、なかなかの貧乏でした。
食費をできるだけ切り詰めていたのは言うまでもありませんし、妻は交通費を節約するために専門学校までの片道7kmを毎日自転車通学。私の作業服は、新聞紙や服などの資源回収の仕事で出たものでした。
誰かが病気になったら終わるかも、という感じの数年間でしたが、やがて、妻が学校を卒業し、就職して間もないある日のことです。
妻が、ある団体が主催する「里親募集」の広告を見つけました。タイの恵まれない子どもたちへの学費の支援です。
「これ、やってみたいね」と妻。
まだまだ我が家には経済的な余裕などありませんでしたが、妻のキラキラとした目を見ていると、とても反対できない雰囲気です。まあなんとかなるかな、面白そうだし、と妻の名前で里親募集に参加することにしました。
支援が始まってしばらくすると、タイの里子Aちゃんからの手紙が届きました。写真も同封されています。
とても純朴そうな女の子で、一所懸命に書いてくれた手紙を読んでいると、やっぱり支援することにして良かったと、心から思ったのです。
手紙の返事を書き、里親である妻の顔写真を同封して送りました。あまり華美にならないよう気を使って撮った、とても優しそうに見える写真です。
そして・・・
支援期間が終盤に差しかかったころ、主催団体からタイの子どもたちに会いに行かないか、というお誘いがありました。
高い旅費を出して会いに行くよりも、そのお金で、もっとたくさんの支援をしたほうがいいような気もしましたが、会ってみたい、という気持ちが抑えられません。
結局、なんとかお金を捻出して、家族3人で参加することにしました。
・・・
タイに到着した夜はパーティーで、子どもたちが歌や踊りを披露してくれました。とっても可愛かったです。
私たちの席には、里子のAちゃんも同席してくれましたが、お互いに緊張しているし、言葉もわからないしで、あまり会話は弾まず。そこはちょっと残念でした。
翌日は、3組の里親がバンに同乗し、各家庭を順番に訪問しました。Aちゃんの家には、一番最後に行くことになっています。
1軒目のお宅に到着。小さな小さな平屋のお家で、里親さん、担当者さん、通訳さんの3人が入っていきました。
外で待つこと小一時間。
3人がお宅から出てくると、里親さんの目が真っ赤です。ずいぶん貧しい暮らしのようで、ご家族からすごく感謝され、思わず泣いてしまったとのことでした。
2軒目のお宅も同じような状況でした。
いよいよ、次は我が家の番です。私は、娘の保育園の卒園式で号泣してしまい、あの人誰?と噂になったくらい涙もろいので、やたら緊張してきました。
でも、よく考えてみたら、里親は妻ということになっているので、黙って涙ぐんでいればいいや。
「この家です」
うん?
2階建てで、めっちゃきれいな家です・・・。一瞬、支援が必要な家には見えないな、と思ってしまいましたが、いろいろな事情があるでしょうし、貧しそうなら納得するというのも不謹慎です。
きれいでよかった、と思うことにしました。
家の中に、そして2階に案内されると、室内はタイの伝統を感じられるお部屋で、すでに20人くらいの人が座っていました。
あれ? めっちゃ賑やかな感じです。
部屋の奥の上座と思われる場所に座るように促され、里子のAちゃんが私たち3人に黄色の花で編んだレイをかけてくれました。
あれ? めっちゃ賑やかで、めっちゃ華やかになりました。
他の里親さんから聞いていたのとは違う、明るい雰囲気に逆に戸惑いましたが、きっとこれから感動のシーンが繰り広げられるはずです。
妻よ、対応はまかせたぞ!
通訳さんが、里親である妻を紹介した、その時のことです。
Aちゃんのお母さんが、妻の方を向いて何か言いました。
「×&%・・・。」
なんて言ったんだろう? きっと里親のお礼だろうなと、通訳さんの方を振り向くと
「男の人かと思ってました、と言っています」
え? そう来たか! このノリ好きかも! こういう時、私は、すんなり言葉が出てきます。
「僕も、男の人かと思ってました」
場内は爆笑の渦!
私は、渾身のジョークが飛ばせて良かったな、わざわざタイまで来た甲斐があったなと、心の底から思ったのです。
この場にいる全員が、もともとの趣旨(感動の対面)を見失ってしまっているような気もしましたが、底抜けに明るい面会が終盤に差し掛かった時のことです。
Aちゃんのお母さんが、「うちで作ったものを、お礼に差し上げたい」と、あるものを抱えて持ってきました。
まさかのゴザです! 幅1m、直径15cmくらいに巻いたものが2本あります。
え?
とても丁寧に作られたものでしょうし、お気持ちは本当にありがたいけど、これから観光もするし・・・日本に持って帰るの?このゴザ。どうしよう、うまくお断りするには、なんて言えばいいんだろうと口ごもっていると、すかさず妻が言いました。
「いただいたら?」
なんだか他人事に聞こえます。それに、いったい誰が持って歩くのでしょうか。
「ステキじゃない!もらっていったら?」
マジで?
「&%#・・・」
おい! まだ、いただくか、お断りするか決めてないのに、まだ通訳するなって・・・
お母さんもAちゃんも、それを聞いてニッコリしています。
遠慮なくいただきました。
お宅を後にして、しばらくしたら・・・妻が「あなたの肌が日焼けして真っ黒だから、ゴザを持って歩いていたらメチャ似合うと思ったんだよね。」と、わけのわからないことを言っていました。
きっと、さっきの「僕も、男の人かと思ってました」の仕返しだな、と思ったのです。
妻の全力プレイに怖れ、そして感謝する日々
妻の性格は、こんな感じです。
家の掃除も、こんな感じで全力。
妻が自転車で出かける時の姿を見ていたら、ずっとお尻を浮かせて全力でペダルをこいでいましたから、たぶん、何をするにも全力でやらないと気が済まない人なんでしょう。
その全力プレイのせいなのか、自転車で銀行の花壇に突っ込んでいったり、工場の塀にぶつかっていって何針か縫ったり・・・
本人は「工場の壁がぶつかってきた」と言っていましたから、なんと申しましょうか、どこまでもポジティブな姿勢に心を打たれたものです。
以前、こんなこともありました。
妻は、とても忙しい職場に勤めていました。
上司は、自分はほとんど仕事をしないくせに、部下にはいろいろ理不尽な要求をする人で、さらには、時間外もまともにつけられなかったのです。
ある日のこと、ついに妻はキレてしまい、上司に向かってこう言い放ちました。
「あなたは、みんなに嫌われています」
それ以来、上司にもっと嫌われるようになった、許せないと怒っていました。
でも、「あなたは、みんなに嫌われています」って言われたら・・・私だったら、たぶん泣いちゃいます。その時、私は、妻には決して無理なことは言わないようにしよう、と心に誓ったのでした。
こんなこともありました。
ある夜の22時頃だったと思います。妻が足を引きずりながら帰ってきました。驚いて、いったいどうしたのかと聞くと「あんまり遅くなると二人(私と娘)で仲良くご飯を食べちゃうじゃん。そう思ったら、なんだか怒れてきちゃって、急いで走っていたら車止めにつまづいて転んだ。」と言っていました。
その夜、妻は痛みで一睡もできず、朝になって病院で診てもらうと、なんと全治3ヶ月の骨折。
そんな足で、どうやって駅の階段を上り下りし、どのようにして自転車を漕いできたのでしょうか?
怒りでアドレナリンが大量に分泌され、あまり痛みを感じなかったのかもしれません。
そもそも、車止めで交通事故並みのケガをするのは、マネできないなあと思うのですが、この話にはまだ続きがあります。
妻は、片足がギプスで固められていたため、部屋の中の移動はキャスター付きの椅子です。
ゴーーーーー、ゴーーーーーー
全力で動き回っています。
恐ろしい!恐ろしすぎる!
誰がいつ足を踏まれてケガをしたとしても、まったく不思議ではない危険な状況です。
もし、私か娘がケガをしたら、病院でこう言うのでしょうか?
「椅子にひかれました」
ゴーーーーー、ゴーーーーーー、楽しい!
「そ、そ、そんなにゴー、ゴーが楽しいんかい。良かった良かった。」
「ゴー、ゴーじゃない、食事作りだよ!」
やっぱり、どこまでもポジティブです。
しかし、徐々に骨折が治ってきて職場復帰の日が近くなるにつれ、妻の顔色が曇ってきました。
「もう、あんな無理な働き方をするのはイヤかも」
夫婦で話し合い、職場の上司と今後の働き方について相談してみたらどうか、ということになりました。
職場まで電車で行くのは無理だったので、私が車で送っていきましたが、職場の駐車場に着くと、さらに不安そうにしています。
「あんまり口出ししないようにするから、立ち会っていいかな」
「うん」
素直さをちょっと意外に感じましたが、よほど追い詰められていたのでしょう。
面談が進むにつれ、上司がこう言いました。
「要員の補充ができるまで、しばらくパートで働いて穴を埋めたらどう?そうする責任があるよね。」
プチッ
責任って、なんなの? いったいどういうこと? もうちょっと、言い方ってものがあるだろう!
「妻は、精神的に追い詰められているんですよ。仕事を続けることで大変なことになってしまったら、あなたはどう責任をとってくださるんですか?」
・・・これで、退職が決まりました。
もともと、過酷すぎて長くは続けられないと言っていたし、ケガをしたのは、ある意味、退職を決断するための良い?きっかけになったんじゃないかなと思います。
それに、一緒に散歩している時、「あ、あそこに車止めがあるよ。気をつけて。」「あ、道の向こうにも車止めが見える。」とイジるのも、捨てがたい楽しみになりました。
実は、私が、以前に勤めていた会社を退職する時には、妻に助けてもらったんです。
辞表を提出してしばらくすると、上司が家まで来ました。
「こんなに良い会社を辞めるのは、もったいない。世間はそんなに甘くないぞ。それに、辞めると、子どもにいい服を着せられなくなる。」
めちゃくちゃ働いてきたので、これ以上に世の中が厳しかったら死んじゃうなと思っていたら、同席していた妻が突然、こう言い放ちました。
「子どもにいい服を着せられないかどうかは、あなたにはまったく関係のないことです。つまらないことを言っていないで、早く帰ってください。」
上司が帰った後、「あの人、何にもわかってないね、ぎゃははは」と笑っていました。
私の退職は、妻にとっては予想外のできごとでしたし、妻のケガも、当然、予測できたものではありません。
物事が予定どおりに進まない「予定不調和」に、どう向き合っていくのか?
これが、きっと人生という旅を、よりステキにするための重要なキーワードだと思うのです。
人生という旅は、まだ終わらない
誰もが人生という旅をし、自分だけの物語を生きています。
「0メートルの旅」
たとえ地球の裏側に行こうと、通り過ぎるだけの景色もある。ふらりと出かけた散歩で、忘れられない景色もある。
その違いは、何が起こるかよりも、どう受け入れるかにあった。
どこに行くかよりも、どう接するかにあった。
何を消費するかではなく、何を創るかにあった。
私は、63才。もうじき64歳になります。
でも、まだ旅は終わりません。
何をどう受け入れるのか、どう接するのか、何を創るのか
面白く生きるのは、まだまだこれからなのだ。
・・・
片付けトントンは、ブログもやっています。
商売っ気は少なめで、寝る前でもお読みいただけるように心がけていますので、ぜひぜひ遊びにいらしてください。
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