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【詩】仰向け

森のほとりの草地に
ゴロリと寝ころんで
空を見あげている
目を閉じて、耳を澄ませば
素肌を、やわらかい風が撫でてゆく
見えない景色が、通りすぎる

線路をたたく電車の音が
軽やかに聞こえてくる
用事を急ぐ人をのせ
都心に向かっているのだろう
救急車のサイレンが
けたたましく通りすぎる
傷ついた人を励ましながら
病院に向かっているのだろう
はるか上空を飛ぶ飛行機が
ジェットの音を響かせる
いや、ちがう
機体は音もなく滑っていく
響きは後ろをついていく
旅を楽しむ人とともに
西へと向かっているのだろう

なぜ人は、じっとしていられないのだろう
自分の居場所に満たされず
絶えず、行き先をさがしている

かけてゆく、足音がする
何を、急いでいるのだろう
何を、求めているのだろう

あかい、あつい、ひざしを浴びて
つよく、はげしく、動悸が揺する
耳もとで、脈を打ち
波立ってゆく、しぶきの波紋
からだが、揺れている
大地に、吸いこまれながら
鼓動を高め、耳をふさぐ
意識を、遠ざける
あぁ、いまにも、こわれてしまう!


©2022  Hiroshi Kasumi

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加澄ひろし|走る詩人
お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。