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【詩】ミラノにて(夕暮れ)

メトロの出口を抜け出すと
広場は金色の夕陽につつまれていた
足早に通り抜けていく者たち
くつろぎを探して立ち止まる者たち
出会いを求めて彷徨う者たち
人と人が交錯し、足音を残した一日が
慌ただしく、暮れようとしている
 
イタリア、ミラノにそびえ立つ
巨大なドゥオモの正面の
広々とした空間を
夕暮れの風が、吹き抜けていく
日中のにぎわいは、熱気を奪われて
立ちこめていたざわめきが
路地の暗闇に、吸いこまれていく
 
羽ばたき放つハトの群れは
屋根のすき間のねぐらに向かう
彼処をねらう灰色カラスは
真昼の名残りをついばんでいる
くすみ始めた青い空にそそり立ち
沈黙する、荘厳なファサードが
まばゆいばかり、かがやいている
 
地下を走るメトロの風
路面を叩くトラムの車輪
ため息をつくバスの扉
道を急ぐタクシーの爆音
遠くで呼ぶ、叫び声が聞こえる
鐘の音が、石畳に響きわたる
 
黄昏は、なぜこんなに寂しいか
旅の途中の、わたしは
ただ、ひとり
広場の真ん中に、立ちつくす
通りすがりの、あの店先で
アペリティーヴォに酔いしれて
宵のやるせなさを、やり過ごそうか
 
ガッレリアに明かりがともり
食器の音が、騒ぎはじめる
ニンニクとオイルの匂い
汗のように、まとわりついて
舌に打ち寄せる、ワインの記憶
テーブルに集う人影が
狂おしく、目に映る
にぎにぎしさが、まぶたを襲う
 
わたしは、暮れてきた空を見上げて
虚空に、明い上弦の月をみつけた
ドゥオモが、ライトアップに浮かび上がる
鐘の音が、空気を切り裂いていく
人波の絶えぬドゥオモ広場に
まもなく、とばりが訪れる


©2022 Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。