【詩】干された蛙
田んぼの脇のアスファルトに
ぺしゃんこの蛙が
干からびて 骨をさらけている
乾いた地面に 痩せた四肢を踏ん張り
路面につぶれて 滲んでいる
手も足もなく生まれて
池のほとりに群れをなし
ほどなく芽生えた盛りの棘を
隠すもなく 声をかぎりに喉を鳴らして
畦の向こうで呼ぶ声に
誘われるまま 駆り立てられて
ふやけた手足で 濡れた生身を引き摺った
飛び交う鳶の目をかいくぐり
陽に灼けた陸にあがって
一瞬の出来事であった
世界は暗闇に包まれた
とはいえ 闇を見る暇もなかっただろう
痛みを感じることも なかったはずだ
確かなことは 衝動が終わったことだけだ
鼓動をつかさどる不如意の力も
呼吸をうながす奇跡の意思も
前触れもなく 失なわれていった
去りゆく者は 残された悼みを知らない
憐れみは 届くことなく
見送る側の 慰さめに過ぎない
道ばたに 染みて貼りついた亡骸は
知るもなく 知られるもなく
放り込まれた意識の脱け殻
取り残された醜い破片は
時の流れに解きほぐされて
何もなく 忘れられていくだろう
ただ 通りがかりを引きとめた
不気味な 死にざまだけ
空にむかって 語っているのだ
©2024 Hiroshi Kasumi
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お読みいただき有難うございます。
よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。