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【詩】みそぎ池
音もなく、声もなく
じっと動かない空間を
睡蓮の葉も花も
ゆっくり、揺れてただよい
引きとめられて
池の水面は、静かに流れている
むっとする樹木のにおい
あまい、潮の熱気が
かがやく日射しに
沸き立って
その場に黙り込んで
揺れている
「掛けまくも 畏き伊邪那岐大神
筑紫の日向の橘小戸の阿波岐原に
御禊祓へ給ひし時に生り坐せる
祓戸の大神等 諸々の禍事 罪
穢有らむをば 祓へ給ひ
清め給へと白す事を 聞こし食せと
恐み恐みも白す」(祓詞)
伊邪那岐と伊邪那美を祀る江田神社
みそぎ池のほとりに
立ちすくみ、すわりこんで
トンボとアゲハの飛翔を見ている
まぶたを襲う、静かな波立ちに
想い起こす、過ぎていった日々の
忘れていたはずの痛みが
頭をもたげて疼きだす
禊の水に、穢れをさらして
生い茂る樹々の、濃い影に覆われた地面に
降りそそぐ、木漏れ日のひかり
一ツ葉の砂浜を越えて、吹き寄せる潮風が、
青々とした梢の枝葉を揺らして
足もとに耀く、無数の小さな太陽たちが
浮かびあがり、重なりあって
ざわめくように、躍りはじめる
地面を泳ぐ光の球の
浮かびあがる渦に揉まれて
あるはずのない、動く起伏に
眼を眩ませて、つまずいてしまう
池の窪みに、音もなく響く
異界の呼び声に、引きとめられて
©2022 Hiroshi Kasumi
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