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①Mikipedia:科学少女ミキのお悩み相談室





【第1章】あの子が教えてくれたもの


 人生とはマシンガン。

 そんな言葉を聞いたことがある。どこの誰が言ったのかは覚えてないけど。

 どんな意味で言ったのかは知らないけど、人生は基本的に「数打ちゃ当たる」らしい。狙いすました一発に賭けるより、とにかく銃を構えて乱打すべき。どんどん打ちまくっちゃえば、いつか何かに当たるんだって。「何か」って何だろーね?

 誰もが凄腕のスナイパーになれるわけじゃない。

 誰もが一球必当いっきゅうひっとうのピッチャーになれるわけじゃないから、一発に全てを賭けるなんて真似はしちゃダメなんだって。あ、わたしが言ったわけじゃないよ?

 きっと、どっかの国のエラい人が言ったんだろーね。

 えら〜い立場にある人ほどお喋りさんだから。上にのぼり詰めた権力者ほど、ご高説たれる傾向にあるよね(※個人の意見です)。

 小学生の頃の校長先生のお説教よろしく、ただ長いだけで全く心に響かない人生訓。わたしが小学生のときに聞いた校長先生の話、高校生になった今じゃ1ミリも覚えてないよ。強い雨が降ったあとの川の流れみたいな勢いで、右から左にスルーっと聞き流しちゃってたもん。

 ごめんね、校長先生。

 わたしね、お説教って正直あんま好きじゃないんだ。というより、むしろ積極的に遠慮願いたいくらい。

 話してる側だけが気持ちよくなっちゃう系の話、わたし基本的に全部スルーするようにしてるの。相手側からしたら実のある話をしてるつもりなんだろうけど、言葉の端々に謙虚けんきょさの皮を被った自慢が見え隠れしててイヤ。あらあらぁ、もうカクレンボするような年齢じゃなくってよ〜?(皮肉)

 わたし、もう高校生だから。

 今年の春、入りたかった高校に無事入学できたの。入学祝いはアマギフ1万円分だった。わぁい、やったぁ〜。

 いつまでも子どもだと思わないでよね。もうすっかり大人の事情も察せちゃう年齢だから、校長先生が話すキレイゴトも見透かしちゃうんだよ。校長講話集こうわしゅうという名のカンペを丸暗記しただけじゃ、小学生の多感なハートは動かせないんだからねーっ?

 えぇっとぉ〜、わたし今なんの話してたっけ。

 ものすっごい脱線した気がする。JRだったら非難ひなん轟轟ごうごうだろうね。ひとりごと回送電車で良かったねー?

 あ、そうそう。

 人生は機関銃って話だったね。たしか、とりあえず数打ちゃ当たる的な話してたはず。だ、だよねっ?(汗)

 人生はマシンガン。

 一発必中のヒットマンは、おとぎ話の中だけの存在。およそ現実にはいない架空の人物。

 ほとんどの人は数を打つしかなくって、トライしたぶんだけ成功確率も上がる。当たりクジを引きたいと思ったら、まずクジを引かなきゃ始まらない。ボールを蹴らないことには、サッカーは上手くならない。

 そんなこと分かってる。

 みんな分かってる。ちゃんと分かってるはず。

 まずは打席に立たないと始まらないなんてこと、誰に言われなくたってちゃんと分かってるもん。

 だけど、ついつい夢を見ちゃう。

 こつこつ努力するなんてお断りなんだけど、勝ったときの喜びは浴びるように味わいたい。みんな誰だって勝利の美酒に酔いしれたい。

 自分イチオシの選手がピッチ上でゴールを決めたら、まるで孫が産まれたみたいな勢いで喜ぶサポーター。応援してるチームが勝ったとたん自分のことのように喜ぶのは、グラウンドに立つ野球選手と自分自身の気持ちを重ねてるから。夢を見るのは人間だけの特権だもんね?

 だから、今日も人が集まる。

 まるでスーパーの安売りセールのときみたいに、たくさんの人たちがわたしのもとに押し寄せる。人波が四角い箱に押し寄せる。

 みんな人生の勝率を上げたいだけ。ただ失敗したくないだけなんだよね。

 たった1人で決断するのはちょっぴり怖いから、占いにあやかって不安を安心に変換してもらう。科学という名の占い師に背中を押してもらう。科学という名の神さまにサイコロを振ってもらう。

 わたしは占い師。高校生占い師。サギ師。

 や、ほんとは違うけど。わたし、他人さまから一回もお金もらったことないし。

 ぜんぶ無償だし。お金なんて取ってないし。あやしげな街の一角にネギ背負ったお客さん引き込んで、詐欺師よろしく相談料ふんだくったこと一度もないもん。ほ、ほんとだからねっ?(焦)

 わたし、たんに科学が好きなだけ。

 どこにでもいる(?)なんの変哲もない科学好き。時間があればネットで論文検索に勤しむ毎日。なぁんて幸せな日々なのでしょお〜。

 科学は形を変えた占い。

 わたしが思うに、科学って新しい時代の占いみたいなもの。客観的なデータに基づいた現代のスピリチュアル。

 不安を安心に換えたいのは皆んな一緒。わたしだって自分が抱えてる悩みを解決したい。実験データっていうタロットカードで、この先の運勢を占ってもらいたいもん。不安な気持ちをずっと持ち続けるのってツラいもんね?

 まぁ、科学の世界にはオーラとかないけど。

 科学のチカラで宇宙の声を聞けたりはしないけど、粒子の存在確率を数値化する波動関数は存在する。数字で分かる素粒子物理学ぅ〜。

 なにかとスピリチュアルの人たちに好まれがちな量子力学は、じっさいに大学で勉強すると数字と数式まみれのお堅い学問。シュレディンガー方程式は粒子の振る舞いを数学的に記述してくれる一方で、宇宙の波動をシャワーみたいに浴びた人たちの振る舞いは説明してくれない。この世の中には粒子みたいに不可思議な挙動をする珍しい人もいまぁす。『多様性』って便利な言葉だよね?

 データはウソをつかない。

 人間関係は不確かだけど、数字は確かでいてくれる。だから好き。

 よくメンタルのことで他人さまから相談されますけれど、うさんくさい占いとは一線を画すものと自負してますわ。

 今日も今日とて、文明の利器の助けを借りて参考文献をレッツ☆検索。この不肖わてくしめ、根拠のないお話は校長先生の長話と同じくらい遠慮願いたいの。占い師はサギ師の異母いぼ姉妹しまいでしてよ?

 はぁ。

 わたし、こんな考えだから友だち少ないんだろうなぁ。

 まぁ、自業自得な気もするけども。「いない」じゃなくて「少ない」って言うあたりに、わたしなりのささやかな抵抗が垣間見える気がするね。

 知り合い以上、お友だち未満。

 廊下ですれ違ったときに社交辞令よろしくお礼は言われても、お昼休みにランチ一緒に食べるかって言われたら答えはNO。

 もう仲良しグループが出来上がってるから、今さら新しくメンバーを追加したりはしない。とくに女子は男子よりもグループ同士の派閥争いがスゴいから、どこかのグループに属してなきゃ基本的人権すら奪われかねない。

 法治国家の基本原則すら覆す、女子高生たちのジェノサイド。

 同調圧力という名のナイフがターゲットを切り付ける。シカトという無言の暴力で、学内の少数民族を村八分に。や、さすがに誇張し過ぎた感あるね?

 まぁ、それはいいとして。

 わたしが1人いつものように考えごとをしていると、教室の前方にある1つ窓のドアが滑るように開いた。

「ミキぃ、お待たせ〜」

 ガラガラと音を立てて扉を開けたのは、わたしの数少ない友だちの1人だった。

「ごめんねぇ、遅くなってー」とアンナが言った。「お掃除のとき、クラスの子たちと話し込んじゃってぇ。みんな本当よく喋るよね〜?」

 こちらの返事も待たずに、アンナはひと息に話した。いつも通りヒマワリのような笑みを湛えながら。

 や、知りませんけど。

 わたし、アンナが誰と喋ってたのかも知らないし。今のところ、具体的な情報ほぼゼロなんだけどーっ?

「お疲れさま。誰と話してたの?」

 アンナの労をねぎらいつつ、わたしは彼女に訊ねてみた。本日のお掃除メンバーはどなたかしらーん?

「んっとねー、メイちゃんとマリンちゃんっ」とアンナは言った。「2人とも一度話し出すと止まんなくってね〜。笑いすぎてアゴ外れちゃうかと思ったぁ」

「へ、へぇ……?」

 え、グロ映像。

 あご外れるとかマジめっちゃグロテスクなんですけど。

 女子高生のアゴ外れさせる話術にもビックリだけど、アンナのがく関節かんせつが思いのほか弱いことにもビックリ。マスクみたいに底なしのアゴじゃ老後が心配だよ。ちゃんと毎日ガム噛んでるぅー?

 アンナはわたしの傍まで寄って来ると、近くにあった四つ足のイスに腰かけた。

 アンナがスカートをお尻の下に敷くようにして座るのを見たあと、わたしは机のうえに置かれているノートパソコンに視線を移した。

 パソコンの画面には先ほど開いたページが表示されている。全文英語びっしりの文献検索データベース。PubMedパブメド

 タッチパッド上で指をスイスイ〜っと滑らせて、わたしは画面に表示されている矢印を動かした。カチッと1クリックしてリンクから関連文献のページへと飛ぶ。れっつ☆じゃんぷ。

「あぁー、また難しそうなの読んでるぅ」

 わたしが普段どおり文献漁りに勤しんでいると、いつの間にかアンナが画面をのぞき込んでいた。このプライバシー全盛の時代、デジタルデバイスの覗き見はマナー違反だよー?

「んん〜、英語ばっかりで全然読めないや。ちんぷんかんぷーん」

 パソコン画面を覗き込んだアンナは、なにやら難しそうな表情を浮かべた。

「たんに慣れの問題だと思うよ」と、わたしは言った。「論文って研究用のおカタい言葉で書かれてること多いから、英語の長文みたいに頻出単語だけ覚えておけば案外イケるよ。アンナ、英語の成績いいし」

「困ったときは翻訳アプリもあるもんねー」 

「そうそう」

「まぁ、読まないけど〜」

 読まないんかいっ。

 意外と好感触かなと思ったら、こっちに話合わせてただけね。とんだ肩透かし食らっちゃいましたわ?

「何か面白そうなのあったら、ミキが教えてくれるもんねー?」

 いつの間にかアンナの顔がコチラを向いていた。くりくりとした丸い瞳が何かを訴えかけている。「何か」って何だろーね?

「論文ひとつにつき10円でいいよ」

 わたしが冗談を口にすると、アンナはからからと笑った。

「あは、破格のお値段〜」とアンナは言った。「ミキはビジネスあんまり向いてなさそうだねぇ。そんなんじゃ商売あがったりだよー?」

「や、べつに利益得ようと思ってないし。友だち価格だから」

「んふふ、そっかぁ。ミキはNPOのほうが向いてるかもだねー?」

「ど、どうだろーね……」

 アンナの切り返しに対して、わたしは曖昧な返事をした。ごにょごにょと口ごもってお茶を濁す女子高生の図。

「将来、あたしと一緒に社団法人たち上げよっかぁ?」

「考えとく」

「あは、考えといてくれるんだぁ」とアンナが返した。「あたしが理事で、ミキは副理事ね。前向きに考えといて〜?」

「ん、前向きにね」

 わたしは学校法人が運営する教室の片隅で、アンナと口ばかりの約束事を取り交わした。これにて契約締結。

 アンナ、わたしの就職斡旋でもするつもりかな。

 もし将来わたしの面倒見てくれるなら、空き時間は目いっぱい研究に使いたい。アンナという傘の下にもぐり込んだあと、心ゆくまで研究に時間を費やしたいなぁ。


 将来の夢


 1ねんCぐみ ななみやミキ


 わたしは将来、他人からお金を出してもらう研究者になりたいです。

 国という大きな傘の下に入って研究費をもらう既得権者よろしく、わたしも資本家たちのマネーを使って研究ばっかりしてたいです。

 資本主義の甘い蜜をちゅーちゅー吸う世渡り上手な研究者にはなりたいけど、たいした研究成果あげられてないせいでTVに出るしか選択肢がなくなった似非コメンテーターにはなりたくないです。ヤツらは研究職の面汚しだと思います。研究する者の風上にも置けないです。まる。

 まぁ、冗談は置いといて。

 夢見がちなわたしの妄想をさえぎるように、再び教室前方にある扉が滑るように開いた。

「アンナ、やっぱりココにいたぁ。探しちゃったじゃあーん」

 開口一番、教室に入ってきた女の子はアンナの名前を呼んだ。先頭にいる彼女の後ろには、女の子が何人か控えている。

「やっほー、お疲れ〜」

「おつー」

 続けざまに挨拶をする女の子たち。後半になるにつれて、だんだんと挨拶が素っ気なくなる不思議。

「あれぇ、レイちゃんたち。どしたのー?」

 室内に足を踏み入れた女子高生ズの視線は、わたしの左隣にいるアンナに注がれている。ちょっぴり疎外感。

「さっきね、ユカたちと放課後どっか遊びに行こっかって話してて。アンナも誘わなきゃと思ってさー」

「えー、ありがとぉ」とアンナが返した。「ってか、スマホに連絡してくれたらいいのにー。わざわざ教室まで来てくれたの?」

「アンナ、今朝『スマホの電池やばい』って言ってたじゃん。いま電源きれてるっしょ?」

「あっ……」

 レイちゃんに言われて気付いたのか、アンナはポケットに手を差し込んだ。なにやらゴソゴソしてる。

 スカートのポッケからスマホを取り出すと、アンナは目の前の画面と睨めっこを始めた。ちらっと見えたスマホの画面には、バッテリー切れの表示が出ていた。

「やっば、ごめぇん。電池きれてるの忘れてた〜」

「だから、わざわざ教室まで来てあげたの」とレイちゃんは言った。「けっこう探したんだからね。アタシらの広ぉ〜い心に感謝してよー?」

「あは、自分で言う〜」

 レイちゃんの冗談を受けて、アンナはからからと笑った。ころんっと鈴を転がすような笑い声だった。

「アンナって、いつもミキちゃんとセットだよねー。バリューセットかー?」

「ミキちゃんって普段なにしてんのー。基本いつもパソコンひらいてるよね?」

 レイちゃんの後ろに控えている2人は、こちらに立てつづけに話しかけてきた。とつぜん話を振られて焦るわたし。

「し、調べものしたり、とか……?」

「あは、ウケる。なんで疑問系?」

 わたしの返事が可笑しかったのか、アリスちゃんは楽しそうに笑った。オレンジ色の笑い声が室内にこだました。

「そういえば、ミキちゃんって相談のってくれるんでしょー?」とユカちゃんが言った。「あたし今ちょっと悩んでることあってさー。ミキちゃん相談室、今日は営業してる?」

 ユカちゃんはコチラに話しかけながら、近くに置いてあるイスに腰を下ろした。すぐ隣にいるアリスちゃんもまた静かにイスに座った。

「し、してるけど……」

 わたしは少し口ごもりながらも、ユカちゃんに営業中だと伝えた。

 相談を受け付けている旨を伝えたとたんに、わたしの前にいる女の子の目が輝き出した。まるで、陽の光を受けた宝石がキラキラときらめくかのように。

「じゃあさぁ、ちょっと聞いて欲しいんだけど……」とユカちゃんが言った。「あたしさぁ、最近ちょっぴり便秘ぎみなんだよねー。あんまり大っきい声じゃ言えないけど〜」

「じゅうぶん大っきい声だけど〜?」

 すぐさま、ユカちゃんの隣に座るアリスちゃんが茶々を入れてきた。まぁ、たしかに控えめな声量ではなかったけど〜。

「心なしか、おなか張ってる気もするしさー。どーしたらいいかなぁ?」

 アリスちゃんの横槍にも構わず、ユカちゃんは便秘の旨を伝えた。持ち前のスルースキルを惜しげもなく発揮する女子生徒の図。

「最後に便が出たのって、具体的にどれくらい前?」

 わたしがラスト排便日について訊ねると、ユカちゃんは口元を隠すように手を当てた。彼女の手の隙間からわずかに口角が上がっているのが見えた。

「えー、それ今ここで聞いちゃう?」とユカちゃんが言った。「みんなの前で言うとか公開処刑じゃん。あたし、おシモの話に開けっぴろげ過ぎない?」

「じゃ、じゃあ耳打ちで……」

「いや、耳打ちでも恥ずいけども」

 わたしが自分の耳に右手を添えると、ユカちゃんは照れくさそうに笑った。まぁ、気持ちは分かるけども。

「大体だけど、数日おきにしか便意こないんだぁ」とユカちゃんは言った。「今朝もトイレで5分くらい格闘しててさー。あたしのお腹ん中どうなってんだろーね?」

「そ、そうだね……」

 ユカちゃんの同調を求めるような言葉を受けて、わたしは先ほどと同じように曖昧な返事をした。

 や、知りませんけども。

 今のところ、ユカちゃんのお便さまが外に出たがらないってことしか分かりませんけれども。新しいタイプの引きこもりかな?

 わたしの前にいるユカちゃんは自分のお腹をさすっている。胃腸の具合を気にする気持ちのほうが勝ったようで、乙女らしい恥じらいは彼方へと飛んでいったもよう。便秘で悩むのも年頃の悩みらしいと言えばらしいのかなぁ?

「ってか、ウチら学校でこんな話してんのヤバくなーい?」

 ユカちゃんは口元を隠すように手を当てながら笑った。

 もうすっかり恥じらいを捨てたようすのユカちゃんが笑うと、彼女に同調するかのようにレイちゃんたちも笑い声をあげた。きゃっきゃと弾んだ声が教室内に溶け込んでいく。

「ほんとだよねー。『ここ学校なんですけどー?』みたいな」

「自分のクラスじゃ話せないもんねー。旅の恥はかき捨て的な?」

「あは、それ意味ちがうくなーい?」

 からからと楽しそうに話す女子高生ズを横目に、わたしは隣に座るアンナのほうをチラッと見た。彼女もまた周りに合わせるように笑っていた。

「んでさー、便秘の解消ってどうしたらいいかなぁ?」

 ようやく笑いがおさまったらしいユカちゃんがコチラに訊ねてきた。笑いを交えて若干ぼかしてはいるものの、お腹の調子で悩んでいるのは本当らしい。

「んー、どうかなぁ。ユカちゃんの体質にもよるけど……」と、わたしは言った。「朝食にヨーグルトとか食べるといいかもだよ。もし乳製品がダメだったら、納豆とかキムチなんかでも」

「えー、あたしキムチ好きっ。発酵食がいいってこと?」

「そうそう」

「じゃあ、今日の帰りにスーパー寄って帰ろっかなぁ。納豆は匂いがダメだからやめとくー」

「う、うん。行動はやいね……」

 わたしがユカちゃんの勢いに押されていると、彼女の右隣に立つレイちゃんが口をひらいた。

「ユカって意外と行動派だよねー。『言われたら即・実行!』みたいな」

「あは、そうかもー」とユカちゃんが返した。「あたし今マジで悩んでるからさー。今朝お姉にも揶揄からかわれちゃったしぃ」

「なんて言われたの?」

 アリスちゃんが問いかけると、ユカちゃんは表情を曇らせた。

「それがさぁ、聞いてよぉ〜」とユカちゃんが言った。「うちのお姉、あたしに『ちょっと臭う気がする』とか言ってきてさぁ。ちょーヒドくなぁい?」

「あはっ、お姉さん辛辣〜」

「でしょおー?」

 からからと楽しそうに笑うアリスちゃんとは裏腹に、ユカちゃんは相変わらず曇った表情を浮かべている。よほど今朝のお姉さんの言葉がこたえたもよう。

「うちのお姉ちゃん、時々デリカシーないんだよねー」とユカちゃんが言った。「あたし今わりとガチで悩んでるのにさぁ。年頃の乙女に『臭う』は禁句でしょお〜っ」

「あは、自分で言う〜」

 再び、教室内が笑いで満たされた。

 オレンジ色の笑い声が辺りに充満して、規格化された無機質な部屋を色づける。まるで、夕焼けが街を茜に染め上げるように。

「ユカちゃん、いつも朝ごはんって食べてる?」

 わたしは笑い声が落ち着いてきた頃を見計らって、正面にいるユカちゃんに食事の具合を訊ねてみた。

「えー、ほとんど食べてなーい」とユカちゃんは言った。「あたし、朝はギリギリまで寝ちゃってるからさ。ごはん食べる時間あんまりないんだよねー」

「そっかぁ……」

「え、食べたほうがいい?」

 ちょっぴり不安そうな顔を浮かべたユカちゃんが訊ねてきた。わたしは彼女からの問いかけに一つ頷いて答えた。肯定を示すジェスチャー。

「できれば食べたほうがいいかなぁ」と、わたしは言った。「朝から目いっぱい食べる必要はないんだけど、ヨーグルトくらいはお腹に入れてもいいかも。朝ご飯がスイッチみたいになって、胃腸の蠕動ぜんどう運動うんどうが活発になるから」

「ぜんどーうんどーって?」

「えっとね、お腹の動きのことだよ。ミミズの動きが一番イメージしやすいかも」

 わたしが胃腸の活動をミミズの動きに例えると、レイちゃんは引きつったような表情を浮かべた。まさしく、苦虫を噛みつぶしたような顔だった。

「ミキちゃん、ヤなこと言わないでよぉ。あたしミミズきらいなんだけどー?」

「ご、ごめん……」

 レイちゃんから例えの悪さを指摘されて、わたしは思わず反射的に謝罪を口にした。ごめんなさい。

 だけど、仕方ないじゃん。

 ほかに例えようがないんだもん。『蠕動運動=ミミズの動き』って相場が決まってるんだもん。かるだもん(?)。

 頭の中でミミズの動きを想像したのか、レイちゃんは自分の腕をさすっている。彼女は相変わらず眉をひそめていて、よほど話が不快だったことが伺える。いびつに歪んだ表情が不快さを物語っていた。

「そっかぁ、朝ご飯ちゃんと食べたほうがいいのかぁ〜」

 ユカちゃんはイスの背もたれに背中を預けて、ひとりごとを呟くかのようにボソっと言った。なにか思うところがあるのか、彼女の目は天井を向いていた。

「かんたんに食べられるものでいいと思うよ」と、わたしは言った。「科学的には朝食抜きにするとヤセるって考えもあるけど、便秘ぎみのときは何かしらお腹に入れるといいかなって。ヨーグルトとかプロテインとか」

「え、朝ごはん抜くとヤセるの?」

 お通じに悩むユカちゃんじゃなくって、アリスちゃんのほうが話に食いついた。『ヤセる』ってフレーズに反応したのだと思われ。

 わたしはコクリと頷いて肯定を示した。

「いちおう、そういう研究もあるみたいだよ。みんなに通用するわけじゃないけど」

「えー、まじかぁ。ちょっとショックぅ〜……」とアリスちゃんが言った。「あたし朝は割と食べちゃう派なんだけどぉ。今朝もパン3枚くらい食べちゃったしさー」

「や、朝ご飯がダメってわけじゃ……」

 わたしが否定を差し込もうとするも、アリスちゃんはすでに聞く耳もたず。まるで大きな失態を犯したかのように頭を抱えている。

「じゃあ、今日からアリスは水だけ生活ね。飲みみずとミミズだけ許す」

 レイちゃんが冗談を言うと、教室内は笑い声に包まれた。ショックを受けていたはずのアリスちゃんもまた笑っている。みんな楽しそう。

「何それ、拷問か?」

 レイちゃんは笑いながら苦言を呈した。数ある拷問のなかでも特に酷な部類に入りそうなタイプだね。

「ミミズって食べられるの?」

 アンナが口にした言葉をキッカケに、怒涛の女子トーク(?)が始まった。

「や、知らんけども」

「もし食べれたとしても、あたしは絶対お断り〜」

「ふつーにキモいもんね」

「いや、あんま栄養なさそうだから」

「あは、ウケる。健康志向かー?」

「ってかさぁ、セミって食べれるらしーよ。知ってた?」

「んふ、知ってるわけないでしょ。アタシらのこと何だと思ってんの?」

「筋肉のところがエビみたいな味するんだって。今後の参考にしていーよ?」

「いや、なんの参考?」

「そういえばさー、こないだ小学校の給食でコオロギ出たんだって。まじヤバくない?」

「あ、そのニュースあたしも見た。学校ぐるみのイジメかと思ったぁ」

「粉末状にしたコオロギをね、パンに練り込んだんだって。もうマジ発想からしてヤバいでしょ」

「狂気を感じる」

「わかる。まじ狂ってる」

「でもさぁ、昆虫ってタンパク質豊富ほうふらしいよ?」

「や、ふつーに食べたくなくない?」

「まぁね。あたし虫だけは生理的にムリ」

「今日の晩ご飯にコオロギ出てきたらどうしよーね?」

「どうもしないでしょ。コオロギごはん作った親の神経まじで疑うわ」

「でもさぁ、昆虫食ってあるじゃん?」

「さすがに野生の虫は食べないでしょ。食用加工されたヤツだけだって」

「野生の虫ってウケるね。虫って基本的に野生じゃん」

「ペットにしてる人もいるらしいよ?」

「虫に愛着わくのスゴいよね。まったく理解できない」

「虫だしね」

「虫だもんね」

「こないださぁ、お姉ちゃんが『欧米で昆虫食がブームらしい』って話してて——」

「もう虫の話やめてぇーっ。寝る前に思い出しちゃうからぁ〜!」

 どうも虫がニガテらしいレイちゃんは、頭をぶんぶんと振って話をさえぎった。意外なほど盛り上がった昆虫談義に一旦ストップがかかった。

 いちど走り出した列車は止まらない。あんすとっぱぶる。

 よく「女三人よればかしましい」とは言うものの、まさか虫の話で盛り上がるとは思わなかった。ガールズトークらしからぬ盛り上がりを見せた昆虫談義。

「ってか、そろそろ行こっかぁ」とアリスちゃんが言った。「ウチらマック寄ってくけど、アンナも一緒に行くっしょ?」

「うん、行く行くー。あたしミキと話すことあるから、あとから合流するのでもいーい?」

「おっけー。いつもの駅前のマックねー」

「ん、わかったぁ」

 ようやく本来の目的を果たしたレイちゃんたちは、せきを切ったように次々とイスから立ち上がった。ガタガタと椅子を引く音が教室内にこだまする。

「じゃ、またね。ミキちゃん」

「いろいろ教えてくれてありがとーね。今度また押しかけに来るからねー?」

「あは、迷惑客じゃん。ミキちゃん、相談料ぼったくっちゃいな?」

 息つくヒマもなく話す3人に対して、わたしは愛想笑うしかできなかった。

「あは、は……」

 お互いに手を振って別れを告げたあと、レイちゃんたちは教室から出ていった。彼女たち3人は木枯らしが吹いた後のような余韻を残していった。

 教室に残されたわたしとアンナ。

 わずかばかりの静寂。束の間の沈黙が流れた後で、わたしが先に口をひらいた。

「アンナ。よかったの、あの子たちと一緒に行かなくて?」

 わざわざ教室まで探しに来てくれたのに。

 きっと3人ともアンナと一緒に帰りたかったんじゃないかな。マックまでの道のりを一緒に歩きたかったんじゃないかな。

 まぁ、本当のところは分からないけど。画面と睨めっこしてばかりで友人関係に疎いわたしには、レイちゃんたちの意図を推測することしかできないけど。普段のソロ活の結果が如実にあらわれた今日この頃でございますわね?(泣)

 わたしの当てずっぽうをよそ目に、アンナは花が咲くみたいに笑った。

「いーのいーの」とアンナが言った。「だってぇ、今日まだ少ししかミキと話せてないもん」

「そ、そう……」

 わたしは煮え切らない言葉を返した。はっきり言葉に出されると、ほんのちょっぴり照れ臭い。

「ごめんねぇ、迷惑だったー?」

 一瞬だけ、アンナは不安げな表情を見せた。まるで、こちらの心情を推し量るかのような言い方だった。

「んーん、ぜんぜん」と、わたしは言った。「わたしは大丈夫。アンナの好きにしたらいいよ」

「んふふ、そう言うと思ったぁ」

「なにそれ……」

 両手で頬杖をつくアンナがご機嫌そうに笑った。

 両足がぷらんぷらーんと行ったり来たり。アンナはブランコを漕ぐように足をパタパタさせている。

 わたしは不思議と居たたまれなくなって、なにかから逃げるように視線を逸らした。目を逸らす直前に見たアンナの笑顔が、まぶたの裏にくっきり焼き付いている。

 わたしは何かをごまかすかのように手元のキーボードを叩いた。

 アンナは何も言わない。わたしも何も言わない。ただただ無機質なタイピングの音が辺りに響いた。まるで、この教室が他の音を忘れてしまったかのようだった。

 ほっぺたに熱を感じる。

 自分の頬がやんわりと熱を持っているみたいだった。湯上がりでもないのにのぼせてしまいそう。

 まだ夏本番ってわけでもないのに。

 夏の暑さはシャワーで冷やせるけど、心の火照りはどうしたらいいのかな?

 Google先生なら知ってるかな。ChatGPT大先生に教えてもらうのも良さそう。テクノロジーという名の教師に疑問を投げかけて、まだ名前のない気持ちに座標軸を設定してもらう。どこに向かう感情なのかを教えてもらう。文明の利器ばんざーい。

 どれくらいの時間そうしていただろう。

 しばらくすると、どこからか楽器の音が聞こえてきた。きっと吹奏楽部が練習を始めたんだと思う。

 ようやく音が戻ってきたころには、アンナは手元に何かを広げていた。わたしが誘われるように左隣に目を向けると、彼女はノートを広げて何かを書き込んでいた。いったい何を書いているんだろう。わたしの知ってること、わたしの知らないこと?

 わたしはパソコンで調べものをしながら、アンナがノートに書き終わるのを待った。ペンがカリカリと紙の上を走る音が耳に心地良い。

 アンナ、なに書いてるんだろ。

 わたしの野次馬ゴコロがひょっこりと顔を覗かせた。ほんのちょっぴり気になる。ちょ、ちょっとだけだよっ?

「でーきたっ」

 ようやく何か書き終わったらしいアンナは、手元にあるノートをコチラに広げて見せた。

「……ダイエット、計画表?」

 わたしはノート上部に書いてある文章を読み上げた。

 タイトル横に描かれた落書きが大変かわいらしい装飾になっている。いかにもアンナが描きそうなイラストだと思った。

「そうっ。あたし、ダイエットしよーかなと思って」とアンナは言った。「ここ最近ちょっと食べ過ぎちゃってるからさー。ほらぁ、これから夏じゃーん?」

「夏だね」

「だからさ、あたしもヤセようと思って。一念発起っ」

 アンナの心がけは立派だけど、夏は関係ないような気がする。多分ね、たぶん。

「夏、関係あるのかな……」

 あ、やっば。

 言うが早いか、頭の中で考えていたことが口をついて出た。わたしは慌てて口元を手で押さえた。

 どうやら、わたしの口は言語野と直接つながっているもよう。期せずして、お喋りな舌先とブローカ野がドッキングした。してません。

「えぇー、関係あるでしょおー」とアンナは言った。「海とかプール行ったとき、身体みられちゃうじゃん。ぷよんぷよんのお腹さらせないでしょ?」

「アンナ、べつに太ってないじゃん」

「そーじゃなくってぇ、気持ちの問題なのっ。き・も・ち!」

「そ、そうなんだ……?」

 わたしのフォロー(?)にも構わず、アンナは少々ご機嫌ななめなようす。ぷりぷり怒る姿はエサを横取りされたリスのよう。知らないけど。

 や、ほんと知らないけどね?

「そーだよぉ、にぶちんめぇ」とアンナは言った。「ミキってば、ほんっと乙女心わかってないんだからぁ」

「いちおう、わたしも女なんだけど……」

 わたしの記憶違いでなければね。

 この不肖わたくしめ、目下のところ女子高生の身分であるはずでございますけれども。花も恥じらう乙女のはずでございますけれどもね。えぇ、えぇ。

「また今年も一緒にプール行こうねぇ」とアンナが言った。「あたし、海よりプール派だなぁ。あ、水着も新しいの欲しいよね?」

「夏だもんね」

「あは、ウケる。夏だからね〜」

「わたしも海よりプール派かな」と、わたしは言った。「海だと潮のせいで髪ガシガシになっちゃうもんね。紫外線もヤバいし」

「わっかるぅ〜。室内プールならUV対策しなくていーもんね?」

「そうそう」

「あたし、ウォータースライダー好きなんだよねー」とアンナは言った。「水かき分けてジャバババってするのホントたまんない。流しそうめんの気持ちが分かる気がするぅ」

「そうめんに感情ないでしょ」

「んふ、マジメかっ」

 わたしとアレコレお喋りする間、アンナは楽しそうに笑っていた。2人ぶんの笑い声が楽器の音に溶け込んだ。

 アンナ、楽しそう。

 さっき「話し足りない」的なこと言ってたの本当だったみたい。や、べつに疑ってはないけども。

 お日様みたいな明るさ。水たまりを足で蹴飛ばすみたいな無邪気さ。アンナがわたしみたいな日陰者と話したがる理由はよく分からないけど、まるで年端もゆかない子どものように無邪気に話す姿にはほっこりする。

 わたしもアンナと話すのは楽しい。

 たいていの人は科学の話なんて興味ないみたいだけど、アンナは常日頃わたしの話を楽しそうに聞いてくれる。

 ときどき待ち遠しく思うことがある。「はやく放課後にならないかな」って思う自分がいて、アンナと話すこの時間を待ち焦がれてる自分に気付く。まるで、切なさに胸を焦がすみたいに。それって、なんだか——


 か、彼女か?


 いや、何それ。彼女か?(2回目)

 わたし、こんなに人恋しい女だったっけ。どちらかというと、孤高な一匹狼(笑)と自認しておりましたけども。

 会いたくて会いたくて震えてんじゃん。「彼ピに会いたくって待ち切れないのっ♡」なぁ〜んて腑抜けたこと言っちゃいそうな頭お花畑系の彼女じゃん。やっばぁ、末期症状ぅ〜っ!

 わたしが一人もんもんと妄想を繰り広げていると、アンナが何かに気付いたように「あっ」と言った。

「もう4時だぁ。あたし、そろそろ行くね?」

 わたしはアンナの言葉に誘われるように、教室前方にある壁かけ時計に目を向けた。時計の針は16時前を指していた。

「あ、うん。ごめん、話ちょっと長くなっちゃったね」

「いーえー、ぜーんぜん」とアンナが返した。「あたしが巻き込んだんだから、ミキは気にしないでよろしい〜」

「そっか」

「むしろ、こっちこそゴメンねぇ。ミキの放課後ジャマしちゃったね?」

 アンナは眉尻を下げて申し訳なさそうな顔を浮かべた。不安げな表情が彼女の心の内を鏡のように映し出している。

 アンナの不安をかき消したい一心で、わたしは首を左右に振って否定した。

「ジャマじゃないよ。アンナと話すのは邪魔じゃない」

 わたしが自分の気持ちをハッキリと言葉に乗せると、アンナはチョコが溶けるみたいに頬をほころばせた。

「んふ、そっかぁ。そうなんだぁ〜」

 満足そうな表情を浮かべるアンナとは裏腹に、気恥ずかしくなったわたしは視線を逸らした。

 目を逸らした先には無機質で冷たいパソコン画面があった。わたしの目の奥に宿る熱を冷ましてくれそうなほど無機質だった。求む冷却装置。

「じゃあ、また明日ね?」

 アンナは自分のカバンを持って椅子から立ち上がった。

「うん、また明日」

 ふりふりと手を振るアンナに倣うように、わたしもまた彼女に向かって手を振った。

 お互いに手を振って別れを告げたあと、アンナは教室前方のドアへと向かった。ガラガラと音を立てて開けられたドアは、やがて名残惜しむかのように閉じられた。

 教室のドアを閉める直前、アンナは去りぎわに再度もう一度だけ手を振ってくれた。わたしもまた同じように手を振りかえすと、彼女は満足そうなようすで教室を後にした。お互いの心の内に湧いた気持ちが同じものだと思いたい。そうだとしたら、わたしは嬉しい。

 また明日。

 未来につなぐ約束の言葉。「また明日」は「あなたに会いたい」の言い換えらしい。

 誰が言った言葉なのかは知らないけど、ずいぶんロマンチックな考えだと思う。じっさいに口に出すのは恥ずかしいから、言葉を変えて「また明日」で本心を隠す。うそとホントのかくれんぼ。

 かくれんぼが得意なのはシャイだからかな。

 わたしもどちらかと言うと内向きな性格だと思うから、ついつい言葉を濁しちゃう気持ちは分からなくはない。自分の心を明かすのって勇気いるもんね。

 言葉をまっすぐ届けるのは恥ずかしいから、ちょっぴり遠回しなことを言ってゴマかす。言葉をありのまま届けるのは恥ずかしいから、ちょっぴり曖昧なことを言ってその場しのぎ。恥ずかしがり屋の言葉が心の後ろに隠れる。

 わたしは科学が好きだけど、統計学じゃ心は明かせない。

 心を明かせるのは自分自身だけ。心を明かす準備ができるまでは、かくれんぼが得意なままでいい。どうか、このままでいさせてほしい。

 だから、今はまだ——



 また明日ね、アンナ。


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