そこに立つひと
ある日の暑い午後。
その人は、電信柱のすぐ隣にいた。
その人は、ずいぶんと年を召した方のようだった。
その人は、全身黒い服装で、喪服にも思えた。
その人は、全身を硬直させ身動きひとつしなかった。
その人は、猫背気味に杖をついていた。
その人は、まるで、この世には他人など存在しないかのようにただ立っていた。
と、その時。目が合った。
その人は、どことなく、不気味だった。
その人は、なんとなく、寂しげだった。
その人は、その人だけは、そこで時が止まっているかのようだった。
この暑さに、あの喪服。しかもおじいさん。
大丈夫か?と思いながら振り返った。
その人は、いなくなっていた。
誰もが、何事もなかったかのように、各々過ごしている。「その人」を見たのは、自分自身以外、他に誰もいないみたいに。
その人は、あの世とこの世を行ったり来たりしているのかな。
その人は、もうすぐお盆だから現れたのかな。
その人は、幽霊だったのかな。
そこに立つひと、そういえば、足が……。