「選挙に行こう」と言われても「選挙に参加する方法」を知らない若者たち
今期も大学で演習『プロモーション』という授業の非常勤を務めています。タイミングよく選挙があったので「プロモーションの視点から立候補者を見てみよう」と話をしたのですが、学生との対話から驚きと学びがありました。
若者は政治に無関心?
10名にも満たない20代前半の受講生ですが、半数近くが今回投票をしていないそうです。予想していた通り「住民票を移していないから」というものですが、不在者投票制度については「知らない」とのことでした。そのため、大学進学後に投票へ一度も行ったことがなく、何をするのかも知らない学生もいました。
そしておおよそほとんどの学生が居住エリアの「小選挙区の区割り」について知らず、立候補者についても「おじさん/おばさん」という認識で、どの政党からどんな人が出馬しているかも知りませんでした。当然ですがどんなイシューを掲げているか、投票日の4日前でさえ知らなかったのです。サステイナビリティやジェンダー平等などに問題意識がある学生でさえです。もはやプロモーション「以前」に課題があることがわかりました。
調べ方を学ぶと進んで試す学生たち
とはいえ、「郵便番号から選挙区を調べられるよ」、「政党マッチングや政治家マッチングにこういうのがあるよ」と伝えてその場でやってみせると、選挙に無関心なように感じた学生たちが進んで調べているのです。「えー、こんなの政策に賛成/反対してたらダメじゃん」とか、「自分の選挙区に若い人が誰もいないのヤバい」とか口にするわけです。
「選挙に行こう」と声を大にしても戦後ワースト3番目の投票率になったのは、そもそも政治に無関心なのではなく、その政治的なイシューや選挙との向き合い方を知らないだけなのではないかと僕は推測します。レコメンドやタグづけをタップすることで情報に触れることができる今、主体的に物事を調べたり、推察する経験がままならない若者に「選挙に行こう」とだけ伝えてもどれだけの人が動くでしょうか。
分からないから参加しない、なんとなく見たものを書いている?
よくわからないなりに投票へ来たものの、話題になりにくいローカルな立候補者が何を発信してるのかも知らないし、自分たちにどんな影響があるかもわからない。リストの1番前に名前があるからとか、どこかで見たことあるからと記入する若者が一定数いるのでしょう。それが10代、20代の「自民党支持率が高いこと」や、大阪エリアに限定して「維新の支持率が高いこと」とつながっているように僕は思えて仕方ありません。また、選択的夫婦別姓の問題を合憲と判断した裁判官の罷免要求が突出していたのも、よくわかっていないけどSNSなどで目にする人が多かったからそうした結果になったのかもしれません。もちろんきちんと考えて行動した人もいるでしょうがあまり多いとは言えないのではないでしょうか。
手取り足取り教えるタイミングはいつ?
今回の選挙結果を省みて、「選挙に行こう」と投げかけるだけではあまり若者に有効でないことがわかりました。むしろ「選挙に行くってどういうこと?」を手取り足取り教えて、自分たちで考え、投票することを実際に体験してもらわないといけないのです。僕は「プロモーション」という演習授業があったから話すことができたけれど、家庭や仲間内でそうした話がおきなければ、何も体験しないまま若者が選挙権を得ることになるのです。
ですので選挙権を得る以前、つまり義務教育中に「政党や政治家、政治的イシューの調べ方」を学ぶことが政治参加につながるのではないかと今回の結果を見て強く思います。もちろん小・中学校で政治の基本的な仕組みなどを学びますが、そうではなくて具体的な政治家や政党のマニフェストをどのように調べることができるかを教えるのです。一昔前なら小中学校で政治信条に関わることなどすべきでない、家庭ごとにできるのではないかという批判もあったかもしれませんが、現状の低い投票率から見ても一律に教育することが重要ではないでしょうか。
プロモーション以前から価値共創を
僕が担当する授業「プロモーション」では、自身の思い入れや社会課題への問題意識から生まれる活動の価値を、利害関係者とともに高めて向き合い続けていくための「自己紹介」を考えてもらっています。パブリックイシューを取り扱う選挙はその成果を考える上で良い材料になるなと思ったのですが、「プロモーション」以前の教育やコミュニケーションのあり方に課題があると気がつきました。
プロモーションの型として調査・分析・表現の仕方を伝えているのですが、それ以前にどのような状況なのかを理解して、適切な学びを提供することの重要性を理解することができました。そしてどのような未来をともに思索することができるのか、僕自身も引き続き考えていきたいと思います。
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