ゲームブック『死のワナの地下迷宮』で遊ぶ
ゲームブックとは、通常の小説とは異なり、読者自身が主人公となり、物語を進行させていく本のことをいう。本文には段落ごとに番号が振られており、これを番号順に読み進めていくのではなく、文章に書かれた選択肢、例えば「○○を選ぶなら136へ。△△を選ぶなら57へ進む」といった具合に、指定された番号が書かれたページへと移動しながら読み進めるのがルールとなる。敵と戦うか、逃走するか、宝箱を見つけたら開けようとするか、無視して通り過ぎるか、人によってたどるルートは変わっていき、読む人それぞれの物語を体験できる、本の体裁をしたRPGといったところ。
敵と戦う際や、運試しをする際はサイコロを振って状況がどう変動するかを決めることもあり、それらの行動記録を残すための「冒険記録紙」が用意されている場合もある。
もともとは「テーブルトークRPGを本でプレイする」という着想から始まったジャンルの本らしく、日本では1980年代後半から1990年代初頭にかけて流行していたそう。私はむかしドラクエのゲームブックを読んだことがあるのだけど、これはサイコロや冒険記録紙等は必要のないもので、おそらくゲームブックの中ではライトな作品だったのだと思う。そんなわけで、ゲームブックはほぼ初心者だったのですが、この度『死のワナの地下迷宮』という本で遊んでみることにしたのでした。
『死のワナの地下迷宮』は1984年にイギリスで出版されたゲームブックで、モンスターが登場するファンタジー世界を舞台とした作品。
あらすじは以下の通り。
ファングという町の領主であるサカムビット公は世にもめずらしい大迷宮を作り上げ、この町の一大イベントとして盛り立てていた。「迷宮探検競技」と銘打たれたこのイベントは毎年5月に開催されており、様々に仕掛けられたワナをくぐり抜け、モンスターで満たされた迷宮を突破することで金貨一万枚とこの地方の永久統治権が手に入ることが約束されていた。しかしこれまでこの地下迷宮を突破した者はいない。主人公である「きみ」は各地から集まった挑戦者とともに、危険を顧みずこの巨大なダンジョンに挑むことを決意する。果たして今年こそ迷宮を突破する者は現れるのか――。
ゲーム開始
というわけで、ここからは実際に遊んでみた様子を書いていく。
まずはサイコロで自身の基礎能力を決めるところからゲームは始まる。
技術点(攻撃力)のサイコロの目は「2」。低い。後々わかることだけどこれはほんとに低い数字で、このせいで迷宮攻略の難度がグッと上がった。というか、たぶん技術点は本ゲームブックにおいて最重要とも言える能力値で、「2」が初期値ではよっぽど運が良くない限り迷宮突破は出来ない気がする。
次の体力点はサイコロを2回振って決めることとなり、結果は「5」「5」。これはかなり良い。中々死なない身体になれた。
最後に「運試し」の際に必要となる運点で出た目は「6」。最高。
それぞれの能力は冒険の道中下がることもあり、どれかひとつだけ能力を回復する薬を最初に選ぶことができる。私は体力を回復させられる「力の薬」を選んだ。
いよいよ迷宮探索へ出発
地下迷宮の洞窟に入ると一番最初から選択肢が用意されている。参加者の分だけ用意された箱を空けて進むか、無視して進むか。空ける場合は270へ。無視する場合は66へ進む、といった具合である。
進んだ先にはワナが仕掛けられている場合もあるためうかつに進んでいくとピンチをまねいてしまうが、サイコロを振り自分の技術点と勝負することで生き抜く可能性が与えられる。
でも中には即ゲームオーバーになる選択肢もあるんだよなあ。本書を読み進めていくとわかることだけど、適当に配置された選択肢の中にも論理性のようなものはあって、考え無しで進むと死にやすいし、かといって臆病な行動ばかりしていると後々苦労するように出来ている。とはいえ初プレイ(初読)の際は、作者がどういう按配で本書のワナを仕掛けたのかがわからず何度も理不尽に思える死に方をした。なので自分ルールとして、死んだらふたつ前の選択肢までは戻ってもいいという「中間セーブ」を設けて遊んでました。ぬるいプレイヤーを許してくだせえ。
他にも冒険中は運試しを強いられる場面があり、その際はサイコロで勝負することとなる。例えば宝物らしきアイテムを手に取ると弓矢が発射された!サイコロで運試しに勝てば弓矢を回避。運試しに負ければ弓矢でダメージを受ける、といった具合。私は一番最初の運の設定が上限の「6」だったため基本的には有利なのだけど、運試しは1回行うごとに運点が減っていく、という仕様なため、運試しはすればするほど後半負けやすくなるのだ。いちいち厳しい……。
モンスターとの戦闘
迷宮内にはモンスターも各所に配置されていて、こいつらと遭遇した場合はサイコロふたつを2回振って、出た目の小さい方がダメージを受ける、という「戦闘」を行わなければならない。これをどちらかの体力が「0」になるまで繰り返して勝ったら先に進めるというルールとなっている。
そして私の場合「技術点」の初期値が低いため毎度かなり苦戦を強いられた。おそらく初期値「3」以下はハードモード。よっぽどサイコロ運が無いとクリアは不可能だと思う。というわけで毎回戦闘でちょっとずつ体力が削られ、雑魚っぽいモンスターでさえ無傷で倒すことは出来ず、這う這うの体となっていた。
つうか全然勝てない。冒険が進んでいく程に敵の能力はどんどん上がっていき、の割に、こちらは初期能力からそれ以上強くなる機会がほぼ無いため、後半になる程戦闘が発生すると負けやすくなる。
上記のモンスター鏡の悪魔も物語全体から見ると中盤くらいで遭遇することとなるモンスターなのだけど、何度もボコボコにされてようやく勝てたし。
で、ここら辺(冒険中盤)で不正行為という名の自分ルールを追加することにして、ジブリのサイコロの目で「バルス!」が出た場合強制的にその戦闘は勝ちとすることにした。だってぜんぜん勝てないんだもん。それにこのルールを追加しても負けるときは負けるし(それはもう傘籤がサイコロ運ないだけなのでは?)。
スロムとの出会いと別れ
旅の途中ではライバルと一緒に冒険することもある。私の場合は蛮人のスロムと行動をともにすることになった。ある洞窟では彼が大笑いしたことにより鍾乳石が上から落ちてきて危うく怪我をしたり、ふたりで同穴トロールという敵と戦う場面もあった。何度も一緒に危険をかいくぐっていくとだんだん信頼関係が出来上がり、読者である私自身も「スロムと一緒に迷宮をクリア出来たらなあ」という気持ちになっていた。
そんな感じでスロムとの親交を温めていたのだけど、この後ドワーフのおっさんが出てきて我々の仲を引き裂くような出来事が。試練を与えるという名目をスロムと戦わせられてしまうのだ。なんとか勝ったいいものの気持ちはどんより。おのれドワーフ……!!と思っていたら、ちゃんと「もしドワーフにパンチを一発みまってやりたければ145へ」というプレイヤーの気持ちを先読みしたような選択肢も用意されていたりする。当然、私は145へと進んだのでした。
扉や洞穴を見つけた際の選択肢としてありがちなのが、そこに「入って探索するか」「入らず道順に進むか」である。私はこの選択肢を迫られた場合大抵の場合は探索する方を選んでいた(その方が楽しいから)。そして探索へ向かうと多くの場合モンスターと遭遇して戦うことになったり、罠が仕掛けられていて運試しをするハメになる。が、入ってすぐに即死するようなことは(滅多に)無いし、何かしらアイテムが手に入ったり、回復する機会も与えられる場合が多い。そして重要なのは、そうした遠回りになりそうな行動をしておくと、後に強敵と遭遇した際、手に入れたアイテムや知識を活かすことで有利な状況(選択肢)に進むことが出来るようになるということ。その場では役に立たないアイテム、例えばロープを手に入れた場合でも、後々スムーズに進むために役立つことがある(ただし、必ずしも全てを役立てる機会があるわけではない)。ここら辺の組み立てはよく出来てるなあと感じるポイントだった。
が、ここで正直に告白するが、実は私はこのゲームをクリアできていない。終盤で完全に詰んでしまったから。『死のワナの地下迷宮』は終盤に差し掛かるとノウムのイグバットという最後の競技監督をする者が登場して、手に入れた宝石を見せてくれと迫ってくる。そして、この時点でエメラルド、サファイア、ダイヤモンドの3つを持っていないとそこから先には進めなくなり、ゲーオーバー扱いとなってしまうのだ。私はエメラルド以外の宝石を持っておらず、他の2つの宝石がどこで手に入るものなのかもわからないため、その時点で完全に詰んでしまった。あるいはこのノウムに出会わず進むルートがあったのかもしれない。たださすがに一からやり直すのはしんどかったため、とりあえず3つの宝石を入手していたことにして選択肢の先へと進んだのでした。
遊んでみて
んで、一応クリア。最後は結構あっけなく終わった。迷宮踏破の祝祭を受け、褒美をもらってジ・エンド。エピローグもなくあとがきもないのであっさりしてる。読まずに通り過ぎた選択肢はいっぱいあるし、挿絵のいくつかはどんな出来事が起きてる時の様子なのかわからないまま。しかも使わないアイテムがたくさん手元に残った状態なので、ルートはまだ数多くあるのだろう。出会うことが無かったけど挿絵の中には忍者もいて、そういう奴とはどんなルートを辿れば出会えたのか、あるいは遭遇していたらどんな物語が展開されていたのか想像が広がり、もう一回やってみたくなる。
テーブルトークの要素、あるいはテレビゲームで行うような冒険を、本という形式で遊ぶことができ、なおかつ色んなルートが用意されていて、大きな破綻が無いというのはよく出来てるなあと感じる部分でした。今回はいくつか不正をしつつ一応最後まで遊んだわけですが、ダイヤモンドやサファイアを手に入れる正規のルートを探しながら遊べる、という点で繰り返し遊べるようになっているのも楽しいポイント。ページの要所要所で用意されているイラストはゲームの雰囲気を盛り上げ、「自分が」そこに立ち会っているという臨場感に繋がっています。
これはテレビゲームでは味わえない体験で、想像する楽しさや、実際にサイコロを振り、ペンで行動の記録を取るというリアルと物語が接近する感覚、ここら辺がゲームブック独特の面白さであり、魅力なんだろうなあと思いました。
つまりゲームブックで遊ぶということは、本の作者との対話であり勝負を意味しているのでしょう。ゲームを遊びながら、物語の細部を想像し、製作者と対話する喜び。この本を読んで味わったそれらの体験はとても清新なものでした。
ちなみに下のは本書を読みながら行動記録をつける際に使用した「冒険記録用紙」です。そしてこれはモンスターたちにバルスを撃ちまくった記録でもある。