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本が出ます・卒業します・合格しました

すっかりばたばたしていて、個人noteにお知らせを書きそびれていました。

本が出ます

初小説集『さみしがりな恋人たちの履歴と送信』(いぬのせなか座叢書8)が3月1日から全国書店で発売されます。版元は、もちろんいぬのせなか座。

【言葉に恋する新時代の物語撰集】
笠井康平『さみしがりな恋人たちの履歴と送信』(いぬのせなか座叢書8)
町屋良平、山内マリコ推薦。「いぬのせなか座」「作家の手帖」など多方面で活躍する著者待望の初小説集。人々は変化するメディア環境のなかで、どのように自分のための物語をつくり、それを支えに生き、あるいは失敗してきたのか。中世の和歌文化から近代の歴史物語、近未来の観光・医療まで……いくつもの時代のカルチャーとともにめぐっていく、短編小説・詩・エッセイetc.から成る画期的20編。

特設サイトより

推薦文は、町屋良平さんと山内マリコさんが引き受けてくださいました。版元通販サイトやオンライン書店の商品ページでも読めますが、とても気に入っているので紹介します。ずっとうれしい。

この本は言葉への恋愛小説だ。恋は苦しい。まるで人生みたいに? 恋は醜い。まるで人間みたいに? 恋は美しい。まるで世界みたいに? 恋は重い。まるで生死みたいに? 私は言葉より早く死んじゃうのに、どうしてこの小説は言葉を愛せると信じさせてくれるのだろう。

町屋良平(小説家)

若さという足かせ、時代という苦難、増殖するノイズ……それらを「言葉」で超克しようと格闘した日々の全記録。東日本大震災からコロナ禍までの“極私的な自粛期間”に創作されたすべての作品は、信じるに足る、永遠の宝物だ。

山内マリコ(小説家)

おふたりの思い出話は、長くなりすぎるので割愛。要は「私淑」です。

ひるがえって、世間一般や出版業界どころか、文章芸術のアートワールドでさえ、笠井康平(=ぼく)はまだ無名の書き手です。新人賞をとったわけでも、雑誌で好評だったわけでも、名門を襲名したわけでも、SNSで大バズりしたわけでも、投稿サイトのランキング上位に入ったわけでも、楽曲・映像作品の原作でも、パターン配本対象でもない本です。わりと分厚いし、決して安くはなくて、しかも、なんか難しそう。

そういう本の届きづらさは書店員時代にたっぷり味わったから、拙著に棚を空けてくださる文芸書担当のみなさまにはお礼の言葉もありません。すでに100店舗超から注文が来ているようだと知っても、まだ実感が湧かない。前著『私的なものへの配慮No.3』は初版50部(手製本)だったからねぇ。

せっかくの初小説集ということで、マーケティング・PR施策も、版元(山本くん)の大いなる尽力のもと、基本のものから風変りな仕掛けまで、楽しく遊ばせてもらっています。あらゆる芸術がグローバル・ポップとローカル・インディペンデントに二極化する時代ですし、後学のためになればと思い、これまでにやってみたことをピックアップしておきます。オープンウェブではすっかり嫌われものになっちゃったけど、広告って、楽しいですね。

特設サイト:

直販サイト:

著者インタビュー「作家・笠井康平をつくった100冊」(全3回):

その他にやってみたこと:

巻頭作の無料公開@カクヨム
・試し読み冊子「体験版」を展示即売会で限定販売
読書感想アンケート(抽選応募キャンペーン)
・店頭ポップ、書店向けFAX DM、BookCellar広告、プレスリリースメール、ECメルマガ、本の名刺、チラシ、ポスター、バナー各種
・直販特典冊子(取扱説明書)、書店特典冊子(選書リスト+エッセイ)
・電子書籍の制作(配信準備中)
・献本を口実に、お世話になった方や友人、後輩に久しぶりに連絡する
・著者サインの考案、練習と本番
・X(Twitter)やBluesky、Mastodon、Discord、mixi2などに顔を出す
・Instagramで「なんば千日通りにある回転寿司の看板」を投稿する
・会う人会うひとに話す

これからやること①:

(※2025年3月1日に情報解禁予定)

これからやること②:

(※2025年春・夏に順次発表予定)

卒業しました

これは余談なんですけど、東京大学大学院人文社会系研究科の修士課程(文化経営学)を修了しました。

研究イシューは「作者の報酬とは何か」。修士論文では、人文情報学の手法を援用しながら原稿料(広義)の歴史を2000年くらい辿り、3,000件くらいの事例を収集しながら、ついでに所得税・著作権の制度史を概観したうえで、21世紀初頭の「雑誌」ライターがいかなる経営戦略を選びとってきたか分析し、いわゆる「文化資本」概念を国際統合報告フレームワーク(IIRF)にマッピングするという無茶をしました。

所属先の文化資源学研究室は、毎年定員の半分ほどまで社会人を受け入れるところで、長期履修制度や休学を組み合わせれば、最大6年まで在籍できます。つまり、2年で出るのは大変でした。前職のみなさんにもご迷惑をおかけしました(ぼくの名前でパブサすると、当時の編集仕事が出てきます)。

合格しました

応用情報技術者試験に受かりました。2025年度終期試験は合格率28.6%/平均年齢28.9歳だそうです(出所:IPA)。高度試験と比べたら若手向けの資格で、ぼくの年齢からすると遅めの取得です。とはいえ国家資格保持者(一応)になれたので、知人・友人がぼくを紹介するときに説明しやすくなったと思います。「なんかITとかデジタルの免許持ってるやつです」みたいに。

それと、先週に東京大学大学院人文社会系研究科の博士課程(文化経営学)にも合格しました。来年から(最短)3年間かけて、「『作者』の経営学:コンテンツ産業における日本語テキストデータの流通過程に関する研究」と題した研究を進めます。流行りのAI周りっぽいことも多少しますが、研究計画書では「著述業の社会集団に対するフィールドワーク」云々とも書いています。もし道ばたで困っている著者を見かけたら、出版業界の思い出話とか、コンテンツ産業の苦労譚、情報社会の将来見通しなどを聴かせてやってください。

先んじて3月中旬には、文化政策学会@青森県八戸市で「若手クリエイター発掘の長期効果:大正期の小説家アンケート調査を用いた再解析の試み」と題した口頭発表を行います。いわゆる萌芽的研究というやつです。春・夏には数件の学会出張もありそう。旅行するたびいつもそうだけど、最寄りの書店めぐりをしたいですね。アンケートを寄稿した『ユリイカ2025年3月号 特集:自炊』も発売されたことだし。

あれはコロナ禍のとある日だったか、「いろいろ詳しいのに肩書がないからナメられるんだよ」と助言され、そういうことならと、いかにも詳しそうな肩書を得てみたら、今度はやたらと遠慮されたり、警戒されるようになりました。作者のプロフィールが増えることで、作品の受容のされ方も否応なく変わるでしょう。すべてが思うほどうまくは行かないみたいですね。それもまた、人生。

小説集を出すことにしたのも、つきつめれば、「読んでほしいから」でした。次回作は(とくに発表の当てがないまま)書き溜めています。死なないだけで大変な時代に、文章なんて読んでいられない夜ばかりですが、拙著が災厄の世紀にぴったりな息抜きになればと思います。

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