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旅先で買ったマグ

結婚11年目。わたしたちには子供がいない。
兄弟のように、友人同士のように、旅行と外食が趣味なふたりをやっている。

先月、バンコクから3泊4日のチェンマイ旅行に行った。
チェンマイ旅行といえば、女性同士でかわいい雑貨屋さんとカフェをめぐるイメージが強い。
タイ在住者の女性からは、「男の人にはあまり面白くないだろうから、女性同士で行くのがおすすめ」とアドバイスをもらっていたけれど、我が家の場合は、夫とふたりでも差し支えない。

お気に入りのオーガニックカフェを見つけて、連日通ったり、ショッピングモールの広場でビールを飲みながら、人々を眺めたり。
ただ、ひたすらに歩いたり、久々に引っ張り出してきた一眼レフのカメラにてこずったり。
思い切り興奮することもないけれど、退屈はしていない。きっと、夫も同じ感想をもっていたと思う。

私たちはチェンマイ についた初日に、散歩の途中で食器屋さんに立ち寄った。バンコクで人気のカフェ食器ブランドだ。
私は、ここの食器がお気に入りで、すでにいくつかのお皿や器を入手している。

素敵だな、と思う品はたくさんあったが、「チェンマイで買わずとも、バンコクで手に入る。ここで買わなければ、荷物にもならず、破損のリスクも負わずに済む」と、夫が考えているであろうと思ったし、私もそれは理解できるので、見るだけで買わなかった。
買い物に関して、夫は私よりも冷静で合理的なタイプだ。

それが、3日目の夕方に「あの店で、記念に何か買ってかえろう」と夫が言った。珍しく夫が、提案というよりは宣言に近い言い方をした。私は素直にそれに乗っかることにした。

選んだのは、取手なしのコーヒーマグ。
コーヒーを飲むときはもちろん、緑茶なんかにもよさそう。
ペアにはせずに、お互いに好きなデザインを選んだ。
それでも、ふたつ横に並べると、しっくりくる感じはある。

旅行から戻った翌朝。
私は、いつものコーヒーをいつもの手順で淹れる。
そのコーヒーを、チェンマイで買ってきたマグに注ぐ。
「なんか、いつもより美味しい気がする」と夫が言った。

夫は、朝ごはんを食べない。
朝は、私が淹れたコーヒーを飲む5分、10分程度がふたりの朝時間だ。

これから先、毎日毎日、このマグに同じコーヒーを淹れる。
そのうちにこのマグも日常にとけこんで、チェンマイを思いながらコーヒーを淹れる日は少なくなっていくだろう。

または、すっかり忘れてしまって、
思い出すときは、うっかり割ってしまったりなんかして
「あ、これチェンマイで買った思い出の品だったのに」
なんて思うときかもしれない。
そのときはきっと、「なんか、いつもより美味しい気がする」と夫が言ったことも思い出すだろう。

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