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チャーリーとチョコレート工場のお父さんについて 小話


 ティム・バートン監督『チャーリーとチョコレート工場』を何気なく観た。Netflixのマイページに登録されていたのと、なんとなくハロウィンのイメージがあったので。
再び観た感想といえば、あの何とも言えないジョニー・デップ演じるウィリー・ウォンカの不気味さと、工場で繰り広げられるグロテスクな演出が、意外に怖いなという感じである。あとやっぱりチャーリーのお父さんが素敵。
 この映画を見る前、私が覚えていたのはふわっとしたハロウィン感と歯磨き粉の製造工場で蓋を閉めているチャーリーのお父さんだけだった。今回きちんとチャーリーのお父さんと向き合って、彼の美しさの再評価をしたいと思う。

 チャーリーのお父さんはチャーリーとお母さん、祖父母4人の計6人を養う一家の大黒柱。自身は歯磨き粉工場で最後に歯磨き粉の蓋を閉める仕事をしている。物腰柔らかで、妻と息子を愛し、家族を大切にする貧乏なお父さん。「歯磨き粉の蓋を閉める仕事」を数年間続けているお父さん。あっさりと機械に仕事を取って替えられて、無職になったお父さん。キャベツしか具の無いスープを、文句ひとつ言わずに食べて、誕生日にはウォンカのチョコレートを息子に与えるお父さん。あらゆる行動が家族に直結していて、貧しいものだけが持つ、純粋な美しさが彼を纏っている。私はチャーリーのお父さんを清らかで美しい人間だと感じる。
 

 私は、というか今の人々はきっと、歯磨き粉の蓋を何年も薄給で続けることなんてできないし、斜めに傾いた部屋で暮らすこともできない。自分の親を義親も含めて4人も養えなんて言われたら、人生終わったとすら思う人だっているのではなかろうか。
 映画の中で、お父さんはほとんど出てこない。最初の導入部分と工場をリストラされた場面、そしてチャーリーが最後の場面で工場の経営権よりも家族を選んだシーンで少しでるくらいで、トータルの時間で言えば30分もないと思う。それでも、主人公の選択に重要なトリガーになっていることは間違いないし、仕事一筋のウォンカの父親と対照的になっているのも映画のテーマに関連しているのだろう。
 多分、小さい頃の私はあの歯磨き粉の蓋を閉める仕事にとても魅力に感じていた。仕事のことを何も考えず、家族と息子のチャーリーのことだけを考えられる仕事。ウォンカの工場のように、技術を盗まれて損害がでるわけでもない仕事。リストラされても、新聞を読んで、金のチケットを当てた子供がいないかを気にかけていた。どんなに貧乏でも、心の中に余裕と愛が詰まっている人って、素敵だな。

もし彼のような人間に会えたら、チョコレートを渡したい
とびきり甘い、チョコレートが最高にぴったりだと思うの。

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