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#101 Ticketと同じルーツをもつ、あの語とは?(その2)

前回のあらすじ

ticketとetiquetteは、綴りと意味が異なるけれども、stickの印欧祖語*steig- "to stick"から派生したフランス語に由来する。なぜ同じ語に由来するこの2語はこんなに綴りと意味が異なってしまったのかの謎に迫りたい。

乗車券としてのticketの歴史

OEDを検索したら、ticketは無料で見れる単語だったので、train ticketが何年ぐらいから使われてきたのか見てみる。すると、6.b.に掲載されており、concert ticketやtrain ticketなどとして使われたのは、1642年からとなっていた。定義的には、"A printed piece of paper or card certifying that the holder is entitled to a certain right or service"とされている。

1.aの定義では"Originally: a written notice or sign containing general or public information(もともとは、一般的または公共的な情報を記載した通知または表示)"なので、スーパーによくある「りんご 1個150円」など表示する紙もticketと呼んでいたと思われる。それが、行き先や日時、金額が書かれた電車のチケットを意味するようにもなったのだろう。

Etiquetteの歴史

一方のetiquetteは、1737年からとされる。なぜかOEDでこちらも見れた。良いマナーの意味も当然あるが、1.c.に"The order of procedure established by custom in the armed forces(軍隊の慣習で定められた手続きの順序)"とあるのが面白い。他にも1.e.「特定の社会的または職業的グループ、スポーツチームなどのメンバー同士の慣習的な行動」とされており、1877年の例文で"It is the etiquette among prisoners never to ask a man what he is in for.(囚人の間では、なぜ牢屋に入っているのか決して尋ねないことがエチケットである)"とあるのも興味深い。

なお、Wikitionaryのetiquetteの項目では、次の文言が掲載されている。

The French Court of Louis XIV at Versailles used étiquettes (literally “little cards”) to remind courtiers to keep off of the grass and similar rules. (ベルサイユのルイ14世宮廷では、廷臣たちに芝生に近づかないようにと、エチケット(文字通り「小さなカード」)を使って注意を促していた。)

Wiktionary "Etiquette" (Click) 太字は筆者

これをみると、「(情報が貼り付けられた)小さなカード」から意味が発展していったことが想像される。

2つの単語の共通点

印欧祖語のもつ「刺す」という概念が、情報を「貼り付ける」行為へと変化した。フランスで発展したこの単語が、まず17世紀ごろにticketとして、英語に入ってくる。この時は情報を表示する(小さな)紙、カードとして入ってきて、やがて電車の乗車券を指すようになる。また、フランスで「情報を貼り付ける」ことから、やがては社会のルールを「定める」意味へと発展していったetiquetteも、1世紀ほど遅れて18世紀に入ってくる。

この流れから考えると、この2語が別々の語として成立したのは、最初に入ってきたticketがフランス語の綴りと大きく変わっていたことの影響が大きいのではないかと推測される。もし綴りが同じであったなら、「光」と「軽い」という2つの意味を持つlightのような語として認識されていたかもしれない。

まとめ

エチケットも、チケットも、どちらも人を「導く」役割を果たしていることは間違いない。エチケットは見えない慣習の世界へ我々を誘い、チケットは特定の物理的な場所へ我々を誘う。どちらも異なる所へ我々を誘う小さな「札」だ。

近頃では、乗車券も電子化し、概念化され、実態はないところまで共通となった。ペーパーレス化が進めば、1世紀後には、「涙の乗車券」の意味すらわからないかもしれない。時代とともにさらに変化することもありえる2重語である。

今日はそんなところです。

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