#97 バタフライ問題に迫る(その2)
前回のあらすじ
バタフライのバタとは、butterを指す。しかし、なかなか蝶とバターは結びつかない。そこには魔女が絡むと言う。なぜ?
バター沼
というわけで調べ始めたのだが、思った以上にバター作りは沼だった。昔から人々にとって、バター作りは重要な家事だったといっても過言ではない。しかし、このバター作りは、実は難しい。バター作りのまずこのサイトを見てみる。
自由研究になるぐらい、バター作りはさまざまなものに左右される。まずは温度。温度が適切でないと乳脂肪が固まりにくくなる。さらにミルクの脂肪含有量が多くないと、当然ながらバターは作りにくくなる。つまり、牛の栄養状態に左右される。そして、攪拌。攪拌が少ないと固まらず、多過ぎると分離し過ぎてしまう。またミルクに含まれるバクテリア等によっても、バターの風味は左右される。そして、バター作成時に使う塩と水。この量と質も、バターの風味に大きく影響を与えたことと想像される。
で、これだけ複雑になると、当然道具が発達する。調べるとButter ChurnやSkimmerなどさまざまな道具があったようだ。で、道具があると当然メンテナンスも関わってくる。道具の良し悪しもさることながら、道具の維持も大事な要素となる。
まとめると、温度管理、ミルクの質。攪拌技術とその道具。さまざまな要因が絡み合い、バターの出来が左右されることがわかる。
バターができないのはなぜ?
ところが、悲しくも人はバターの出来が悪いと、その原因を外部に求める。その例が、下記の読書猿さんの記事にある牛乳魔女の件も(本文中はチーズとなっているが)、それを裏付ける。
上の記事の「総量一定の原則」をまとめると以下になる。
各地の風習
上記の考えを得てか、実際、アイルランドでは、5月にバターが盗まれるという迷信があった。特に5月1日に「バターを盗む魔女」や「魔術師」がバターの生産を妨害するという信仰が広まっており、バターが「魔女に盗まれない」ように、家畜の牛の蹄に聖水をかけたり、家の入り口に魔除けの植物(ハーブ)を吊るすなどの習慣があったという。
これはゲルマン民族でも同じだったようで、ドイツの農村部でも、春の時期にバターや牛乳が「魔女によって盗まれる」という迷信が存在した。春は牛が放牧され、乳製品の生産が増える時期であり、この時期にバターがうまくできないと、それは魔女の呪いや悪霊の影響と考えられていた。そして、ドイツでもアイルランドと同じように魔除けを用意したり、呪文を唱えたりしていたようだ。
バタフライとバターの関係
で、この魔女がバターを盗む方法として、チョウが捉えられていたようだ。バターの生産は春であり、春に飛ぶ昆虫はチョウが多い。また、蜜を吸うことも関係していたのかもしれない。古英語では、チョウはfifaldeとも呼ばれていた。fifaldeは印欧祖語*pa(l)-pal-に由来するとされる。これもまたパタパタと似た語源だ。fifaldeはbutterflyの古英語butorflēogeに取って代わられるが、butorのbutとpalの音が似ているところも影響があったのかもしれない。
チョウと魔女、そしてバターの関係については、次のコラムが詳しい。
まとめ
オリンピックなどの水泳の競技をみていると、バタフライを泳ぐ選手がいて、バタ200mなどと自分たちも言ったりする。しかし、そのバタはbutterflyのbutterであり、その由来には、バター作りの難しさと素朴な経済原理から来る魔女信仰がその裏に隠されている。複合語に言葉は残るとよく言われるが、文化もまた、言葉に隠されることも多い。普段何気なく使っている言葉であっても、なぜその言葉かと思える姿勢を大事にしたいと感じた。
今日はこんなところです。
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