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#88 deerは数えられるのか問題について

電車に乗っている時に、bambi問題(クリック)について話していたら、知り合いから、「そういえば、deerって数えられるのに複数形がないってどういうことですかね?」と尋ねられた。頭の中で、どの説明からいくかさんざん迷った末に「そもそも動物は、deer→beast→animalと変化してきたんですよね。」となぜか英語史の話を始めてしまい、なぜdeerが数えられないように見えるのかを話す前に、違う話になってしまった! 痛恨の極みである。なので、今回は、しっかりとその問題について向き合う所存である。

deerは数えられないのか

いや、数えられませんよ」とは「英語教師のための英語史」の第5章の家入先生の「ほっと一息」コーナーの考えだとも言える。実は群れを作る動物については、単数形、複数形関係なく、数えられない(数えたくない)。その証拠に、まずは下の写真を見ていただきたい。

草原で、ともに出発を待つ羊の群れ(wikipedia commons)

この写真を見た瞬間に「さあ、羊を数えて!5秒で数えて!」と言われると、寝てしまうかもしれない。違った、数えるのが嫌になるかもしれない。同じように、家入先生のコメントでは、魚や鯉など群れで行動する動物や英単語など、数えるのが嫌で、単複同形となった可能性も示唆されている

そうそう、実は興味深いことにwordという語も単複同形だった歴史を持つ。特定のページに英単語が何語あるかというのは、現在だとPCとか使ってすぐに数えられるが、基本的にはそんなの数えてられるか!ばーん!とちゃぶ台をひっくり返したくなる事項だと言える。中高の英語教師であれば、時として生徒の作文の語数を延々と数えることもあると思うが、個人的には、あれは相当嫌な作業である(注:個人差があります)。筆者の意見に賛同される方は、単語は数えられないものとして是非、wordの複数形wordsは使わず、元の単複同形に戻す運動を広めてほしい!(笑)

というわけで、数えるのが嫌になる単語(群れの動物や単位など)は、単数と複数を区別せずに使うようになり、複数形がないように見える。deerもそれらの単語の一例である。という説明がこの場合いいのかもしれない。

英語史的に見ると?

しかしながらこの現象、英語史的には、発音も関わる面もあるし、類推も関わるという点で実際にはその因果関係はよく分からないという点も特筆すべき点である。上記の本でもこの辺りについては、数えられないから単複同形になったのか、発音の関係でそうなったのか、因果関係が実際にはよく分からないこともあり、「単複同形の名詞に「群れをなす動物」を表す名詞が含まれることがあるという説明のほうがよい」と説明されている。

その辺りを詳しく見ると、まず、sheepやdeerには、古英語の頃は、中性名詞についた複数語尾-uがあり、複数形はあったとされる。だから、複数形はないじゃないですかと指摘されたら、「昔はあったけど、現在は消失したんですよね」と答えるのが正しいのかもしれない(堀田先生の記事#4188参照)。そう、歴史的には複数語尾が消失する。実際には、時の流れと共に、まず複数語尾-uがつき、発音の関係で消失。その後、単複同形となる。しかし、その単語の仲間であるhouseやwife、wordなど、単複同形になっていた単語に複数語尾-sがつくようにと同調圧力がかかり、-sがつくように変化したものもある。以上のことを振り返ると、特定の単語がどうして単複同形のままであるのか、また-sをつけることとなったのは、偶然も重なったのかも知れず、不明な点も多い。そう意味では、sheepやdeerは、-sをつける圧力にも負けずにがんばってきた単語と言えるのかもしれない。

なお、deerはこれに加えて、「動物」を意味する単語がdeer-beast-animalと変化してきた歴史にも関係する語である。先日はこっちを話してしまい失敗したが、実はこのことも単語が意味する範囲が広がったり狭まったりする現象と絡み、興味深い項目であることも事実だ。この動物問題についても、堀田先生のブログ記事#127(リンク)に説明があるので、ぜひ参照していただければと思っている。

今日はそんなところです。

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