#95 merryの意味変遷について
先日、magazineの意味の変遷についての記事を読んだ。アラビア語に由来するこの語の原義は「倉庫」だったのだが、18世紀に「雑誌」、そして19世紀には「弾倉」の意味を持つようになった。倉庫から雑誌の意味に変化するのは、結構不思議だが、これは一つには初期の雑誌の名前がGentleman's magazine、つまり「紳士の倉庫」というもので、内容がガジェットまたは情報の「倉庫」だったからと言われている。
merryの由来
magazineと同じように、その原義から意味が大きく変わった語として、merry「楽しい」がある。Merry Christmas!のmerryだ。merryは古英語 myrge から中英語 mirie と変化し、現代の merry となった。古英語myrgeは、treesやsongsを修飾するなど、現在より広い意味を有していた。もともとは印欧祖語*mregh-u-「短い」に端を発するとされている。
この*mregh-u-からの派生語としては、brief(短い)やabbreviation(短縮形)などがある。これらはそのまま「短い」と言う意味を引き継ぐ語なので、分かりやすい。
しかし、いつしかbrachio-「上腕」へと変化した。この語が、腕につけるbraceletやbraなどの単語へとさらに変化していく。面白いのは、腕に似ていることから、pretzel「プレッツェル」もまたbrachio-に由来すると考えられている(bがpに変化した)。なお、少し卑近な話になってしまうが、briefとbraの語源が同じかと思うと、言葉の変遷の面白みを感じる。
「短い」が「楽しい」に
merryの原義「短い」が「楽しい」になったのは、どうも「短い」が「時があっという間に過ぎる」となり、転じて「楽しい」と捉えられるようになったからのようだ。The summer went very quickly.なのは、「夏は、超楽しかったから」と捉えられてもおかしくはない。「短い」を意味する語が、人々の気持ちを反映して、意味を転じた例だと思われる。
気持ちは意味さえ変える?
言葉はそもそも気持ちを乗せるものだ。だから、人々の気持ちに寄り添うと、単語の意味さえ変わることがある。英語もまた、人々の気持ちを乗せる言葉に他ならない。学ぶ対象として捉えるのもいいが、気持ちを乗せる言葉だと捉えて英語を学ぶとまた違った面がみえてくるかもしれない。
以前にも書いたが、a communication toolという言い方には違和感がある。「疲れたね」「ホントにね。今日もお疲れ様。ありがとう」という優しい言葉の掛け合いに含まれる気持ちのやり取りに含まれる言葉も、単なる「道具」なのか。人が使うものはすべからく、これtoolと捉えるなら、そうかもしれないが、違和感を感じてしまう。意味が変わりゆく言の葉を追うと、人々の心がどう動くかという片鱗がちょっとだけ見えて、楽しい。そういうところが、英語史が好きなところだ。
ちょっと、最後真面目な書き込みになってしまったが、今日はそんなところです(他の場所に以前書いた文章に大幅に加筆修正しました)。