線維筋痛症という病と「わたし」
みなさんは、「線維筋痛症」という病気をご存知でしょうか。
ざっくり言うと、全身に走る原因不明の激しい痛みが昼夜問わず続き、日常動作が不可能になるだけでなく、痛みによる不眠・思考の低下・強い疲労感などの幅広い症状があらわれます。
レディー・ガガさんが2017年にこの病を患っていることを告白し、最近ではアナウンサーの八木亜希子さんがお休みされました。ニュースで耳にされた方もいらっしゃるかもしれません。
でも、知り合いや親戚にこの病気の人がいる、どんな病気か詳しく知っているという方は少ないでしょう。
日本での推定患者は約200万人と聞いたら驚くのではないでしょうか。
実はこの線維筋痛症という病に、かなり多くの人が苦しんでいると考えられています。それなのに、最近まで医師達にさえあまり知られてこなかったのです。
私も線維筋痛症について全く知識のない人間の一人でした。
中学、高校と勉強に励みつつあれやこれやと全力疾走し、浪人生活を経て農学系の大学に進学しました。情熱豊かな師に憧れを抱きながら、ついに念願の研究室生活をスタート。科学館でボランティア活動をしながら院試をこなし、ワクワクの絶えない研究生活に打ち込んでいました。
色々と落ち着いてきた10月、風邪をひきました。酷くしてしまったので病院に行き薬を飲みましたが、なかなか治らず大学も欠席。11月になり、熱が下がったからと学会に強行するも、2日目に熱を出してしまいホテルにこもって関節の痛みなどと格闘していました。研究室の人たちに支えられながらなんとか帰ってきましたが、そのあとも熱が下がり風邪の症状がなくなったのに重い疲労感がいつまでも取れなかったのです。
そしてついには朝ベッドから起き上がれなくなりました。
とにかく体が重い。なぜか膝が痛む。大学に行きたいのに体がそれを許さない。生来「起きれない」とは無縁の私はここで異常を察知しました。
当然病院に行きましたが、マイコプラズマにかかっていたであろうことがわかっただけで、あらゆる検査をしても全てほぼ正常。「マイコプラズマで体が疲れてしまっただけ。休みながら体を動かしていれば元に戻る」とあちこち訪ねたどの医師にも言われ続けました。
こんなにも強い疲労感と関節痛が続くなんてありえない。でもなにも見つからないなら、なんとか体力を戻して元の生活に戻るしかないだろう……
そう考えて散歩に行ったり寝込んだり、大学に行ったり休んだりしながら、気づけば年も明けて2月になっていました。
検査を続けてもいつまで経ってもなにも出ない、症状は治らないし漢方薬も効かない。そしてついに医師の口から「線維筋痛症かもしれない」という言葉が出てきました。
4ヶ月にわたる私の「こじらせた風邪」に名前がついた瞬間でした(実は、この病気の中では超超早期診断です)。
こうして私は線維筋痛症の患者になりました。専門医も見つかり薬も飲んでいますが、1年半経った今も大学院には復帰できていません(幸い、単位は前の学期までの分で足りていたので学部の卒業はできました)。
1年半この病気の患者をやっていると、色々と見えてきます。即ち、使える情報が少ないということに否が応でも気づかされました。
この病気の原因は?治療法は?予後は?この辺はまだネットの記事や診療ガイドラインを読めばまあまあ、わかりました。
では利用できる公的な制度は?福祉サービスは?あまりないらしい、ということしかわかりませんでした(実は結構あったことが追々わかってきました)。
そして、生活の質を上げるのに役に立つ道具は?暮らしのヒントは?この辺になるとほとんど見つかりません。今も家族と延々と模索しています。
誰か、誰か患者目線で色々ひっくるめて教えてくれる人はいないのか……。常々思っていました。
自分でブログのようなものを書こう。病気のことから公的な手続き、おすすめの道具や暮らし方まで、同じ病気で苦しむ人に私が知っていることだけでも伝えよう。
結構前から思っていたことでしたが、何せ毎日ひたすら体が痛いし眠れないし眠っても悪夢ばかりだし希望を持とうにも持てないような生活です。そもそも手が痛くて文章を打ち込むのもつらいし、背中が痛くて座ってられないのです。そんな中気力を維持する自信はなく、「闘病ブログを書いている人はなんて偉いんだ……」とぼんやり思いながらベッドで天井を見つめていました。
でもようやく今日、いつものように寝付けない午前3時、行動を起こせました。ここまで読んでくださった方のご期待に添えなくて恐縮ですが、別にドラマチックな何かがあったわけではありません。
ただちょっと眠れなくてすることがなかった私が、指は痛いけど、スマホでぽちぽちとゆっくり綴っただけの文章です。
これまでを振り返るつもりで、線維筋痛症という病気と「わたし」という個人のつきあいを書いてみました。そしたらなんとなく、これから記事が増えていくかもしれないこのブログのこっち側にいる「わたし」という存在が、少しは読者の方に見えてくるんじゃないかなと思った次第です。
ぼちぼちと、眠れない時にでもあれこれ書いていきたいと思います。いつか日本で線維筋痛症に悩まされている誰かやその周りの人の目に留まって、もしかしたらちょっとだけ役に立つかも……役に立ったらいいな、とそんなことを考えながら。