『パーム・スプリングス』におけるアンディ・サムバーグのタイプキャストの有効利用について
※ド下ネタ、ネタバレ注意です。
アンディ・サムバーグのタイプキャストをフル活用した脚本が素晴らしいのです。
日本では、アンディ・サムバーグを『ブルックリン・ナイン-ナイン』のお調子者の警官、ジェイク役で知った方も多いと思いますが、アメリカでは、それより前に、コメディアンたちの登竜門的な長寿番組である、『サタデー・ナイト・ライブ』に『ザ・ロンリー・アイランド』というトリオの1人としてレギュラー出演したことによって知られるようになります。
『ザ・ロンリー・アイランド』の3人。Andy Samberg, Jorma Taccone, Akiva Shaffer
『ザ・ロンリー・アイランド』を有名にしたのは、YouTubeにアップロードしていたミュージックビデオでした。
彼らのミュージック・ビデオの特徴は、露骨なド下ネタを含むなど、バカバカしい歌詞にも関わらず、音楽的にはクオリティーが高く、めちゃくちゃキャッチーであることでした。
『パーム・スプリングス』には、『ザ・ロンリー・アイランド』のミュージックビデオを思い起こさせるようなシーンが2つあります。
1つ目は、冒頭でミスティにセックスを断られ、ナイルズがオナニーをするシーンです。
ここでアメリカの観客が思い浮かべるのは、Jizz in My Pantsという曲です。
アンディとヨーマ演じる早漏の2人の男性が、パンツを濡らしてしまって…という曲です。彼らの曲の中で、最も下品で、彼らを代表する曲のうちの1つでもあります。アンディとヨーマは何回もイッた顔を披露しています。
ただ、こんな露骨な下ネタを歌っていても、アンディがオナニーの演技をするのは、『パーム・スプリングス』が初めてです。観客はこの時点でもう爆笑な訳です。ついに来たかと。
ミスティとはヤッていないのに、ミスティが探しものをしながら言う、”Oh My God“という台詞がナイルズのオナニーの間に挟まれることによって、2人がヤッているように聞こえる台詞回しも笑いのポイントです。
2つ目は、サラがスピード違反で警察官に扮したロイに止められるシーンです。ナイルズは別の警官にテーザー銃を撃たれてしまいます。
ここで観客が思い浮かべるのは、Threw It On The Groundという曲です。
社会に対する反骨精神を持つ、アンディ演じる主人公が、ありとあらゆるモノを地面に投げ捨てる曲なのですが、この曲の最後に本物のハリウッドの大スターが登場し、サインをもらうのを拒否する主人公のお尻にテーザー銃を撃ちます。
『ブルックリン・ナイン-ナイン』でもジェイクがエイミーにテーザー銃で撃たれるエピソードがあるのですが、『パーム〜』のこのシーンでもテーザー銃で撃たれることで、観客にまたかと思わせ、笑いのポイントになっています。
以上の2つのシーンは、アンディが『ザ・ロンリー・アイランド』で築きあげたステレオタイプを活かしたものでした。
最後のタイムループから脱出しようとするサラにナイルズが告白するシーンは、『ブルックリン・ナイン-ナイン』のジェイク役を演じることによって培ってきたステレオタイプを活かしています。愛嬌があり、天才肌だけれど、おバカで文法が出来ないというものです。
サラはナイルズに、時間がないため、一文で言いたいことをまとめるように言います。するとナイルズは、
”Okay...I know you better than anyone knows you. And remember that night we saw the dinosaurs, you said it yourself, in order to really know a person you have to see the entire package, the good and the bad, and I've seen your package, and it is excellent, Sarah.”
「分かった...俺は君のことを誰よりも知ってるよ。恐竜を見た夜のことを覚えてる? 君は自分で言った、人を本当に知るためには 包括的に見なければならない 良いことも悪いこともって、そして俺は君の全部を見たけど、君は完璧なんだ、サラ 、」(この時点で文法的にはandで文章を無理矢理繋げていますが、まだまだ続きます)
“Ampersand! You're my favorite person that I've ever met, and, yes, I know that it's crazy odds that the person I like the most in my entire life would be someone I met while I was stuck in a time loop, but you know what else has crazy odds? Getting stuck in a time loop. Dot, dot, dot! Ellipses. Ellipses, thank you. Look, I hope that blowing ourselves up works, but it's really irrelevant to me as long as I'm with you. And if it kills us, well then I'd rather die with you than live in this world without you, emphatic period. ”
「アンパサンド!(andの別の言い方) 君は今までで一番好きな人だ、人生で一番好きな人が、タイムループ中に出会った人なんて、すごい確率だと思うんだ、でもそれ以上にすごいことは、タイムループにはまることだ 点、点、点! 省略... 省略形、ありがとう、俺たちが、自分たち自身を吹き飛ばすことがうまくいくことを願ってるけど、君と一緒にいる限り、うまくいかなくてもいいんだ、もしそれで死んだら、君無しでこの世界に住むより、 君と一緒に死んだ方がマシだ、強調ピリオド。」
その後、サラが言うように、文法的にはめちゃくちゃです。サラが続けます、
“I mean, an emphatic period is just a‐ it's just an exclamation point.”
「強調ピリオド(文法的にそんなものは存在しない)は、ただのびっくりマークだよね。」と。
するとナイルズは、
“I didn't want to seem desperate.“
「俺は絶望的に思われたくなかったんだ。」と続けます。それに対しサラは、
“I can survive just fine without you, you know. But there‐ there's a chance that this life can be a little less mundane with you in it.”
「私はあなたがいなくても大丈夫だけど、でも...あなたがいればこの生活は少しは平凡でなくなるかもしれない。」と言います。
愛を告白する場面でも、絶望的だとは思われたくないナイルズと、彼といれば、退屈な人生が少しはましになるかもしれないと言うサラ。2人とも素直になりきれないところは変わっていないのです。
アンディのおバカキャラであるというステレオタイプを活かしながら、ラブコメにありがちな、登場人物が作品の中で成長、または改心し過ぎて最初と最後で別人になってしまうラストではなく、あくまでもお互いに強がりな部分を残したままであるという、ある意味新しい告白を描写することに成功しています。このような脚本の素晴らしさを、改めて推させて欲しいのです。
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