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ウェールズのカニ、平城宮跡のザリガニ

ラピュタを感じるウェールズ紀行だったけれど、ラピュタとは無関係の旅のことも少し。

初日にカーナヴォン城を訪れた後、そこから車で40分ほど走った場所にあるコンウィという街にも立ち寄った。コンウィ城という古いお城があり、城壁に囲まれた美しい街だ。移動時間が読めなかったこともあり、コンウィ城は城内入場の事前予約をして行かなかった。街を歩いてい散策すれば充分楽しめるとも聞いていたし、コンウィではラピュタのことは忘れて、街歩きを楽しもうと思っていたのだ。

しかし、実際にはコンウィの街は、駐車場から海沿いの通りへと繋がる道しか歩けなかった。なぜなら、海沿いの通りで、何やら親子連れが海を見下ろして何かに興じている様子を発見してしまったからだ。多くの親子が"カニ釣り"をしている光景だった。それを見た息子は当然「僕もやりたい!」と言い出す。デスヨネ。。。すぐ横の売店で、バケツ、網&糸つきの糸巻き、鶏肉の三点セットが売られている。目ざとく、すぐさまそれを見つける息子。仕方なくそれを購入。もちろん、娘と息子の二人分。周りの様子を見よう見まねで自分たちもいざ、カニ釣り開始。

カニ釣り場は砂浜ではなく、波止場のような場所。海面から3メートルほどの場所から糸を垂らしてカニがエサにかかるのを待つ。狭い範囲にみんなが集まって糸を投げているので、絡まりあったりもする。こちらのこどもは、周りに遠慮するとか、空気を読むなんてことを求められて育っていないので、うちの子たちが糸を垂らしているところに、その横から糸を投げてくる。いやいや、そこに投げたらうちの糸に引っかかるのわかるよね?何回同じことやるのかね?とツッコミたくなるのを、グッと堪えて黙って様子を見ていたら、わが子たちは黙って場所を移動した。やっぱり彼らは日本人。移動しても、なかなかカニは釣れない。すぐ横にいた少年のバケツには4匹もカニがいた。彼はうちの子たちが使っているカニ釣りキットではなく、掬い網のようなもので採っていた。やはり、漁の出来は道具に左右されるのか。

30分ほど経過して、そろそろ次の目的地のバーミンガムへと出発する時間が近付いていた。それでもまだカニは一向に釣れなかった。こどもたちに「そろそろ終わりだよ」と伝えると「あと3回投げたら」と息子は応えた。了承し、さらに待つ。しかし釣れない。娘はあっさり諦めて、糸巻きに糸を巻き付け始めた。息子も諦めて巻き始めようとしたら、既にカニを6匹釣っていた隣の少年が「ほら!カニおるで!」と息子の糸の先を指さした。ほんまや!カニがおる!緊張した手つきで糸を引き上げる息子。しかし、途中で海藻に引っかかり、カニが落ちてしまった。悔しい。そこで息子に最後のチャンスを与えた。もう一度、さっきのカニが落下したたりに糸を垂らした。すると、恐らくさっきのカニだろう。またかかった。二度も引っかかるアホなカニだ。今度はさっきよりもさらに緊張の面持ちで糸を引き上げる息子。再び海藻に引っ掛けないようにゆっくりと。隣のカニ釣り名人少年も、固唾を飲みながら(本当は飲んでないだろうけど)見守っていた。そして、ついに、息子はカニを釣り上げた!嬉しくて嬉しくてたまらないはずなのに、同時に妙な恥ずかしさもあるようで、「やったー!」と素直にはしゃぐわけではなく、嬉しさを隠すような表情の息子。あれ、なんだかこの顔、この光景、どこかで見たことがあるぞ。ラピュタではない既視感。そうだ。思い出した。

ちょうど、去年の今頃、幼稚園の友だちと一緒に平城宮跡の側溝で初めてのザリガニ釣りをしたときだ。既にザリガニ釣りを何度もしたことがある友だちばかりで、全くの初体験は息子だけだったのではなかったろうか。慣れている友だちが、いとも簡単にザリガニを釣り上げる様子を横目に、なかなか上手くいかなかった息子。しかし、ようやく初めての獲物を釣りあげたとき、息子はやはり、素直に喜ばず、照れ隠しの表情をしていた。
息子は家族の前では甘えんぼう男子で「ボクね…〇〇だったんだよ」とか言うのに、友だちの前では「オレはな…〇〇やねんぞ!」とやたらとオラオラ口調になり、ものすごく格好をつけたがる。みんなの中心にいたいし、一番になりたいと常に思っている息子。そんな息子だから、他の友だちが既に釣り上げた後にようやく自分も釣り上げたことを、素直に喜べないのだ。彼なりのプライドなのだろう。でも、帰宅後には夫に「今日ね、初めてザリガニ釣ったんだよ!また行きたい!」と興奮気味に伝えていたので、やはり本心としては、めちゃくちゃ嬉しかったのだ。

その1年後、息子は平城宮跡ではなくイギリスはウェールズにて、ザリガニではなくカニを釣り上げた。そこに友だちはいないけれど、すぐ横にはすでに6匹も釣り上げているカニ釣り名人少年がいた。彼がいる横では、格好つけたがりのいちびり息子は、やはり素直に喜べなかったのであった。かわいいやつめ。

無事にカニを釣り上げたけれど、もちろん連れて帰るわけにはいかないので、リリースしなければならない。海に投げ返そうとする息子に「あの子(カニ釣り名人)にあげたら?」と提案すると、息子は頷き「オレもう帰らなあかんから、このカニあげるわ」と言いに行った。すると名人は「え?いいの?てか、君のカニ、1匹だけど1番大きいね!ありがとう!」と言って受け取ってくれた。"ナンバーワンよりオンリーワン"ばりの、"1匹だけど1番大きい"と声をかけてくれた名人が、キムタクに見え…はしなかったけれど、その一言で息子のプライドは保たれた。むしろ、息子の自尊心をグンと高めてくれる一言だった。名人、ありがとうございます。そして、名人と別れた後の帰り道、息子はやはり「初めてなのにめっちゃ大きいの連れた!またやりたい!」と嬉しそうに笑っていた。かわいいやつめ。

当初予定していたコンウィの街散策は叶わなかったけれど、ウェールズでのカニ釣りで、平城宮跡でのザリガニ釣りを思い出す、良き時間だった。