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私が語りたいのはMOVIEじゃない、連ドラ『踊る大捜査線』

『踊る大捜査線』でとかく話題になりがちなのは映画1作目および2作目だが『踊る』の真の面白さはそれら映画シリーズの骨子を作った連続ドラマにある!と私はかねてから言い続けてきました。そりゃもう映画も愛してるけど。しかし映画の知名度に対してあの全キャラクターの生みの親であるドラマ版の完走者が少ないように思うので是非ともこの一挙放送の機会にドラマ版完走人口を増やしたいと思い、書きます。『踊る』ドラマ版とは何か、何が凄いのか、何故私はこんなにも好きなのか。

一話『サラリーマン刑事と最初の難事件』の完成度が凄い

このドラマは「一話じゃ分かんないのよ。とりあえず騙されたと思って3話、いや4話まで見てみると分かるから」みたいなまどろっこしい作品ではない。

一話で全部分かる。ようにできている。だから四の五の言わずに一話をバサッと見て欲しい。分かるから。

本作の第一話はあらゆるシーンを「サラリーマン刑事」というテーマで貫き70分間で完結させると同時に、ここから12話まで続く物語が「何をやろうとしているか」をも端的に見せる、稀に見る傑作です。ここまでよくできた連続ドラマの第一話はそうないと思う。だいたいタイトルが良すぎる。「サラリーマン刑事と最初の難事件」。声に出して読みたい日本語です。

第一話の中で徹底して描かれるのは青島が「脱サラしたサラリーマン」であるが故に「刑事になってドキドキしたい」のに「警察もサラリーマンと同じなの?」という失望を覚える、の断片の連続である。

あらゆるシーンがこのテーマに通底しており、徹底してブレない。「白タクに飛び乗ろうとしたら許可の判子が必要」「警察も本店って言うの?」などの青島の細々とした気付きにはじまり、一話の中心事件である会社役員殺人事件にまつわる会話では、青島が会社員である鍵泥棒に「ここ(警察)も会社と変わんないよ」「サラリーマンやってたときと変わんないもんな」と愚痴り、ラストでの犯人との対峙では「(刺激がないなら)君も刑事になればよかったのに」「でもそっち(刑事)も刺激ないんでしょ?」「あるよ。毎日ドキドキしてる」と返した後でのぼやき「俺もあいつになってたかも知れない」へと続く。とにかく、テーマと台詞と構成の決まり方がバッチリと美しいのだ。

テーマは意外と地味

さらに、一話で繰り返し示される「サラリーマン刑事」像は最終話に至るまでのドラマ全体のテーマを示唆する。つまりこのドラマは一話で提示された「誰の何を描くドラマか」が最終話に至るまで太い柱として通底していてブレない。

映画以降のヒットにより今や感じづらくなっているが、この作品がやっていることは先に示したように「サラリーマンを辞めて刑事になったけど警察も会社と同じだった話」で、意外にもかなり地味だ。この地味だが身近な素材が本質で、それをキャラクターの魅力や演出・音楽などの味付けで華やかに調理したのが『踊る』である。と私は考えている。

刑事ドラマに見せかけた「警察署ドラマ」

つまり中心に描かれるのは警察署の様々な人間関係と力関係。おそらく当時「異質の刑事ドラマ」として世に放たれたであろう本作は、一般的な刑事ドラマの中心にある「事件の犯人を探す」サスペンスが非常に薄く、むしろ個々の事件は署内の人間関係をあぶりだす媒介に過ぎない。犯人が誰か、よりもそこに立ち会った青島が、室井が、和久さんが、すみれさんが、どんな反応を見せるか、そこからどんな関係性を築くのか、を徹底して描く。そういう意味でこのドラマはそもそも刑事ドラマではなく「警察署おしごとドラマ」なのである。

「笑える」トーンの心地良さ

再び一話に戻るが、冒頭数シーンがこの作品のトーンを早々に決定してくれるのも見やすさに繋がっている。

「ハードボイルドで人情に厚い刑事による取り調べ」を装ったシリアス風なファーストシーン(牛丼食うか?)の直後に、それが青島の採用試験であることが明かされ、ボケだったことが分かる。この数分で、本作が「ボケるドラマ」だということだけでなく、「従来の刑事ドラマのコード(ハードボイルド)に乗らない・おちょくるドラマだ」というメッセージまで伝えきる。鮮やかな情報処理を視聴者に促す素晴らしいファーストシークエンスである。

映画でも全く同じ手法が使われているので、制作側も『踊る』を『踊る』たらしめるファーストシーンとして意図的に利用していることが分かります。

  • ドラマ版 シリアスな取調室→採用試験

  • 映画1作目 シリアスな被疑者の張り込み→ゴルフ接待のお迎え

  • 映画2作目 シリアスな船上の戦闘シーン→訓練(犯人役青島が勝利)

基本トーンが常に軽快なコメディ寄りで、湾岸署のそれぞれのキャラクターも全員どこかおちゃらけた愛すべき存在として描かれているからこそ、ラストの展開で一気にシリアスに持っていく力がギャップで凄まじいものになるなと思います。大雨の中、湾岸署の面々ひとりひとりが仲間のために必死で持ち場で働くさまは何度観てもうるっと来てしまう。

全員好きになる

『踊る』の登場人物全てがめちゃくちゃ魅力的で全員大好きになるって話、はちょっと人数多すぎて説明しきれないのでトピックとして割愛気味になります。手短に。

まず、青島はあまりにも「ドラマの主人公とはこうあるべき」を体現したような存在で、あの吸引力を説明するのは結構難しい。観てください。すみれさん、凛として毅然としてチャーミング。これを全部体現できる女性、最高すぎる。全人類好きだろ……。和久さん。『踊る』を『踊る』たらしめる最重要人物(つまり映画3作目以降は……)。真下。しょーもないしキモいけど可愛い。室井さん。これは青島との関係で書きます。魚住係長。出世頑張れ。

ブルーカラーとホワイトカラー

本庁と所轄、本店と支店、キャリアとノンキャリア、様々な表現で『踊る』では警察内の階級差が語られる。これが『踊る』の面白さを作る中心的なテーマであり、ドラマとして体現するのが青島・室井である。

二人の間で描かれるのは恋愛以上に濃厚なすれ違いの繰り返し。青島は室井に対し「上を変えてくれる」「俺達を守ってくれる」ことを度々期待し、信用し、あえなく裏切られ、でもまた期待する、というサイクルを繰り返す。青島から見れば「上にいる」室井は常に一歩遅く、それが一因となって現場は苦しみ搾取され、室井は自責の念に眉間の皺を深める。一方で室井は「上の人間」であると同時に「中間管理職」的でもあり、彼のさらに上にある警察庁その他の圧力との板挟みになっている。このドラマではかなり丁寧に室井が描かれるので、ある意味室井に「優しい」つくりになっており、現に中間管理職に置かれている人には痛切に共感する部分があるはず。その辺りはかなり「サラリーマン向けドラマ」っぽさが濃いなと感じます。

音楽とそのアレンジ

私はかなりドラマを音で見るタイプで、俳優の声だけでなく劇伴によって大いに体験が左右されるのですが、『踊る』の音楽はかなり気持ち良くドラマにエモーションを乗せてくれるので大好き。

ドラマ劇伴の定番パターンではあるものの、主題歌『Love Somebody』のアレンジがどれも良い。切ないシーンに使われるピアノアレンジも好きだし、最終話の雨シーンで使われる壮大な讃美歌風のもの、そこで流れるリフレイン(2:53頃)を聴くと無条件で胸が熱くなる。映像編集が劇伴にぴったりと合わせてあるのも最高で、気持ち良く感動させてくれるめちゃくちゃ大きい要素になっています。最終話、被疑者の取り調べを和久さんが青島に受け渡し、「頼んだぞ」とばかりにずっしりと肩に手を置くシーン、とかね……。

『Love Somebody』アレンジ以外でも、シリアスな疾走感あるシーンで流れるピアノ曲もかなり好きで、歌えます。MOVIEで雪乃さんが襲われるとこで流れてて切れるやつね!(これ間違ってました、襲われる前に流れ終わってます)カラオケにあるかな?そしてエヴァンゲリオンのオマージュも言わずもがな。私はエヴァより踊るが先だったので、使徒の曲は室井さんの曲。

ということで観てください

まじで、映画しか観たことないって人も、何にも観たことない人も、ドラマを、観てください!私が好きなのは

  • 完成度高過ぎ一話

  • 最高ドタバタコメディ二話

  • HEROみたいでかっこいい四話

  • シリアスな湾岸署のみんなに泣ける十話

です。『踊る』のドラマって本当に最高なんだよ。スリーアミーゴスの話とかし忘れちゃった!



余談

和久さんとすみれさん
この二人の関係性がとても良くて、尊い。和久さんはすみれさんをとても大切に思っているし、すみれさんは心からのリスペクトで和久さんを労る。でも定年前のベテランおっさん×きりりと働く20代女性のこの理想的関係を現代劇で描けるか?と言ったらあまりにファンタジーに見えてしまう気がして、『踊る』の時代ってこれを自然に描ける最後の時代だったのかも……とか思ってしまった。

今見るとヒヤッとする場面はある
物語の骨子は今見ても全然古びず楽しめる一方で、部分的には2024年現在のコードで見ると違和感を覚えるところはある。特に第五話『彼女の悲鳴が聞こえない』では、男性からの暴行にトラウマを負ったすみれが明確に「一人で行くのは怖い」と言っているにも関わらず、青島の「自分の問題は自分で解決しなきゃダメだ」という論理に押し切られてしまう。これは流石に今の表現ではやらない、明確に「間違い」とされる論理だと思うが、当時は一つの「善」ではあったんだろうな、という変遷が分かる箇所。

WPSキーホルダー(ホイッスル付き)買った
多分中学生くらいの時に、フジテレビ本社の丸いところで『踊る』イベントをやっていて、WPSキーホルダー(このメルカリと同じやつ)を買いました。何か笛がついてるの。実家に帰ったらあるかなあ。



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