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ドラマ・映画感想文(16)『マイ・インターン』

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個人的評価:10点(/10点)
制作年:2015年
視聴方法:U-NEXT

※ネタバレは最小限にとどめています。

『ブルックリンでオペラを』を鑑賞後、アン・ハサウェイの過去作品を観ようと思い、手始めに観たのがこの『マイ・インターン』。

決して人に誇れるほど多くの映画を観てきたわけではないが、個人的にはベスト1を競えるくらい、良い作品だと思った。

自身で起業し急成長を遂げてきたアパレルブランドの女社長(アン・ハサウェイ)と、70歳で男やもめのシニアインターン(ロバート・デ・ニーロ)の交流を描く。

女社長は確かな経営手腕の持ち主だが、成果を急ぐあまり仕事量が肥大化し、社員たちは着いて行けない。会社だけでなく家庭でも、夫との関係性がぎこちない。仕事に忙殺されるあまり、周囲に対する配慮が欠けがちであった。

一方、シニアインターンで入ってきた男やもめは、まわりの社員からすればお祖父ちゃんくらいの世代であり、ジェネレーションギャップは大きいものの、誰に対しても思いやり溢れるジェントルマン。鷹揚で慎み深く、孫世代の社員たちに対しても謙虚に接する。こうしたおこないが徐々にまわりを触発していく。やがて、ワンマン女社長をも。

このシニアインターン(ロバート・デ・ニーロ)の生活態度や人間性には見習うべき点が多い。「老害」の対極。ハラスメント防止用の教材として活用できる。

若い社員の相談にはじっくり耳を貸し、アドバイスを送るが、決して上から目線でなく控えめに。自分の流儀やルーティンは大事にするが、それを人には押し付けない。「ハンカチは貸すためにある。女性が泣いたときのため。紳士のたしなみだ。」という名言も出てくるが、これも、自分から恩着せがましく教えるのではなく、「ハンカチって意味ある?」と訊かれたから答えたもの。常に相手のペースに合わせる。流れに無理に逆らわない。

相手に合わせる信条ゆえ、女社長(アン・ハサウェイ)が退勤するまで事務所に夜遅くまで残る。ある夜、当初と比べて彼(ロバート・デ・ニーロ)を見る目に変化が出てきた女社長は、今日もまた事務所で二人きりになるまで残っている彼の席へ、束の間の休憩のためピザとステラアルトワ(瓶ビール)を持って行く。いくら社長とはいえ孫世代もの年下である相手に、敬意を表してわざわざ立ち上がるのが彼らしい。「いちいち立たなくても」と言われても「ついクセで」とさり気なく流すところが心憎い。

このあと2人でしばらくピザを食べながら会話を交わすシーンが本当に素晴らしい。男にはちょっとした面白い過去があるのだが、それを会話の流れに乗って打ち明ける。ネタバレになるので詳細は伏せるが、この話を、彼があえてこれまで言わなかったこと、そして、今回も自分から進んで告白したのではなく、あくまで質問に答える形で話し始めたことに、彼の人間性が凝縮されている。その話を聞く女社長も、自然と心が解きほぐされる。この会話のあと、彼のfacebook登録を女社長がアシストする場面まで含めて、何度でも観れるいいシーン。

このシーンを白眉として、他にも心温まるセリフやシーンが多く、結末まで含めていいストーリー。クスっとくるコメディタッチのシーンも微炭酸のように軽くて爽快。アン・ハサウェイの絢爛な着こなしも、ロバート・デ・ニーロのスーツスタイルも、視覚的な楽しさを添える。

派手なアクションシーンや壮大なスケールの風景美などはないが、誰が見てもある程度は必ず楽しめる秀作だと思う。重ねて言うが、個人的にはベスト1と言っても過言でないくらい。

なお、ワンマン社長vs社員という構図は、奇しくも、メリル・ストリープ(社長)vsアン・ハサウェイ(社員)でヒットした『プラダを着た悪魔』(2006年)と共通している。

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