松雪泰子さんについて考える(36)映画『スマグラー おまえの未来を運べ』
松雪さん出演シーンの充実度:6点(/10点)
作品の面白さ:5点(/10点)
公開年:2011年
視聴方法:U-NEXT
※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや結末には触れないようしております。
非合法の危険な物や人を運ぶのを生業とする男たちのアンダーグラウンドな物語。
漫画が原作となっていて、プロデュースは山口雅俊氏。このブログで何度も紹介してきたとおり、『きらきらひかる』(1998年)、『アフリカの夜』(1999年)、『太陽は沈まない』(2000年)、『忠臣蔵1/47』(2001年)、『ビギナー』(2003年)等を生み出した敏腕プロデューサーだ。『ビギナー』(2003年)以来8年ぶりに松雪さんを起用した。
ついでに紹介すると、山口Pの作品では、『ランチの女王』(2002年)に出演していた妻夫木聡さんが今回主演で、『ビギナー』(2003年)からは松雪さんだけでなく我修院達也さんも起用されている。
このように並べてみると、既に一連の作品をご覧になった方は少し不思議に思わないだろうか。『きらきらひかる』、『アフリカの夜』、『太陽は沈まない』、『ビギナー』は、同じプロデューサーの作品と言われてもなんとなく納得できると思うが、この『スマグラー』は全然毛並みが違う。暴力シーンもあるし、アンダーグラウンド全開の作風だ。
山口Pは、『不機嫌なジーン』(2005年放送、『ランチの女王』と同じく竹内結子さん主演)を最後にフジテレビから独立した。
その後も『ハケンの品格』(2007年)等をつくり、2009年に『カイジ』、2010年にヒット作『闇金ウシジマくん』(『ランチの女王』で起用した山田孝之さん主演)をプロデュースした。
この『カイジ』『闇金ウシジマくん』からしばらくの間、アンダーグラウンドな世界の作品づくりが続いたようだ。過去に『ナニワ金融道』をプロデュースしたことがあるとはいえ、『きらひか』『ビギナー』等とは180度逆のテイスト。何か思うところがあったのだろうか。自分は、そうとは知らずに『ウシジマくん』を観ていたが、あとから山口Pの作品と知って驚いた。
こうした流れの中に2011年『スマグラー』がある。山口Pを軸に考えると、それまでの作風を転調させて、アンダーグラウンドな世界に潜む義理・人情・道理・義侠心のようなものを描くようになった当時のスタンスが窺える。
なお、後年には『やれたかも委員会』(2018年)という異色作も挟みながら、『おいハンサム!!』(2022年)では、アングラ世界から離れた作風に回帰している。
…で、本作『スマグラー』がどうだったかだが、正直言って、可もなく不可もなくという感じ。『闇金ウシジマくん』では、はぐれ者たちの生きざまを活写しながら、微かに残る人間のプライドと明るい希望が描かれているのが醍醐味だったが、そういうカタルシスは感じられなかった。ギャグっぽいシーンも不発。
暴力シーンが多いのはこういう作品にはつきものだが、これも苦手な人は苦手だろう。というか、好きな人の方が少数派か。『闇金ウシジマくん』と比較してばかりになるが、ウシジマくんでは、暴力シーンと言ってもまだ笑える要素やマンガ的要素が残っているし、そもそも勧善懲悪(というか悪対悪のダークヒーロー)的な暴力シーンなので、あんまり観ていて苦しくないが、『スマグラー』では、誰も得をしない暴力シーンになっている感。特に後半の妻夫木さん演じる男が、高嶋政宏さん演じる暴力団の男にいたぶられるシーンはそれ。高嶋さんのサイコパスな演技はいいのだが。
そして、結末もあまり爽快感がない。各キャラクターも魅力に欠ける。
では、松雪さんはどうだったかというと、なかなか濃いキャラクターで他作品では見られない感じ。ヤバい物を運ぶドライバーたちを差配する、アングラ女社長役。ゴスロリ衣装に身を包んでいて、こんな姿は後にも先にもこの作品だけだろう。
ただ、それだけといえばそれだけ。見所ある名シーンも無かった。
ということで、全体的に不発。山口P作品なのに珍しい。
この『スマグラー』以降、今日(2024年1月)に至るまで10年以上にわたって、山口P作品には出演機会が無い。タイミングや運もあるだろうが、いつか再び山口P×松雪さんの作品を観てみたい。できれば、90年代~00年代の頃のような作風で。