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ドラマ・映画感想文(51)『劇映画 孤独のグルメ』

公式サイト:https://gekieiga-kodokunogurume.jp/

キネマ旬報 専門家レビュー:https://www.kinejun.com/criticreview/detail?id=100381

満足度:10点(/10点)

※多少ネタバレあり(結末に関するものはありません)

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ちゃんと「映画」だった。「ドラマの尺を伸ばしただけ」のようなしろものではなく。

パリの街並み、そして五島の海、空、坂道――。序盤は、大きなスクリーンに映えるこれらの映像美によって視覚的な楽しさを味わうことができ、もうこれだけでじゅうぶん映画として満足。

本作は、スープが一大テーマ。まず冒頭、五郎がパリのビストロでオニオンスープに舌鼓を打つ。

「スープに国境は無い」

五郎が呟いた心の声は、観終わってから振り返ると、本作を一言で表すポエムだったと分かる。「スープ」を、「グルメ」「食文化」の換喩と考えることもできるだろう。

そんなスープをつくるため、五郎が文字通り命がけで東奔西走・悪戦苦闘する。その道のりが良い意味で御伽噺的で、ここにも「映画」としての楽しさが効いている。

冷めた目で見れば「五郎がそんなことするか?」「現実ばなれしている」というツッコミが成立しなくもないけど、そんな無粋で無意味なことを考えるより、笑って楽しんで観る方が、この作品の鑑賞態度にふさわしいと思う。むしろ、ストーリー上は多少の無茶をしたおかげで、作品全体としては緊張と弛緩がとてもバランスよくなっているように感じた。ゆるい場面とスリリングな展開が交互に出てきながら、スープの原材料を謎解き風に突き止めていく――そんな、「スープ・ミステリー・アドベンチャー」とも呼べるユニークな仕上がりに料理されている。

ゲスト俳優がみんな良かったけど、特に内田有紀さんは役どころも演技も奥行きがあり、この作品に深妙な綾をなしていた。錦上添花。(なんとなく、表情もセリフ捌きも声も、長澤まさみさんに似ていた気が。)

ところで、劇中のあんなシーンやこんなシーンでも、基本的にネクタイを外さない五郎の美意識は、男として見習わなくてはと思う。これまでのドラマシリーズでも同様で、辛いものや焼肉のときですら――。

最近のノーネクタイが当たり前になりつつある風潮の逆張りといえばそうだが、でも気取っているのではなく、なんかこう、“あくまで自然体でそうしている感”がいい。そもそも、ジャケットもほぼ脱がないし、どんなときでもスーツ。さすがに今回、あのシーンでも着替えないのは笑ったけど。

真摯なテーマや思想を伴ったとても素晴らしい映画に仕上がったことは嬉しい。食べることが生きがいの一つである私も、美味しいものを作る人たちを心から尊敬する市井の一員として、本当に共感するところが多い。しかしその一方で、昨年末の大晦日スペシャルも含め、作品が良質になりすぎていて、ちょっと気高い存在になってきていることに、淋しい予感を抱いたりもする。なんとなく、終わりが近づいているような。

松重豊さんも、「この作品が集大成。これが支持を得られなかったら、潔くやめる」的なコメントを出していらっしゃる。作品に懸けるその意気込みとプロ意識には心から敬意を表するが、そんなに気負わず、のんびりとしたテイストで末永くこの作品を続けていって欲しい、という思いもする。

松重さんをはじめ制作に携わる方々が、今後どういった決断を下すのか分からないが、たとえそれがどのようなものであっても尊重したいと思う。その前にひとまず、ここまでこの作品を大切に丁寧に作り続け、これほど大きいプロジェクトに育て上げたこと、そしてそのひとつの区切りとして結実したこの映画に、心から拍手を送りたい。

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