板前の常識は世間の非常識
板前の常識は世間の非常識 揚げ場編
揚げ場編
日本料理屋の揚げ物っていうとどんな物想像します?
湯葉がくっ付いてたり、カラフルな道明寺粉が付いてたり...
そうそう、そんな感じ。
しかし僕のいた店はあんまりそういう仕事はしなかったんです。
全くしない訳ではなかったけれどね。
どちらかと言うと天ぷら屋の様な揚げ物が多かった。
まあ天ぷらカウンターがあったから、材料も流用出来るし、カウンターで高級食材を揃えていたからコース料理に組み込み易かったんだろうなあと今は考えます。
天ぷらって何が大事だと思います?
油? 温度? ネタ?
正解は全部です。 さらに言うなら平常心。
こんな事言う人多い、油なんて何でも良いとか、刺身で使えなくなったから天ぷらでとか。。。
あんた旨い天ぷら喰った事ないでしょ?って言いたくなる。
揚げ物なめんなよ!
(これはその時の先輩の言葉)
刺身グレードの食材を使うからこそ旨いんだよ。
究極の「蒸し」料理なんです。
衣という服を着せて、油の中で仕上りを想像しながら水分がギリギリの所を見切って出す。
だから外はサクサクで中はジューシーなんです。
余談ですが、僕は錦糸町って所に住んでいました。
駅前の馬券売り場の脇ににお爺ちゃんとお婆ちゃんがやってる良い雰囲気の天ぷら屋があったんです。
たしかミシュランの星もらってた気がします。
もう休みの度に通ってカウンターの隅に腰掛けてず〜〜〜っと親方の仕事見てる訳。
給料みんな天ぷら代。
二十歳そこそこの小僧がスーツ来てそんな事毎回してたら、もう同業者だってバレバレ。
親方が、「お兄ちゃん、何処の若い衆さん?」って聞いてきたもんだから、かくかくしかじかで揚げ物の勉強してます!っていうと、そりゃもう嬉しそうに色々出してくれて毎回お腹いっぱい。
ついでに色々教えてくれて、上の言葉はここの親方に教わったもの。
その後うちの店にもご夫婦で食べに来て下さり、色々と良くして頂きました。
まだご健在なんだろうか?
今度帰省したら是非行ってみたいと思う。
話しを元に戻します。
揚げ物の話しをしだすと止まらなくなるので控えますが、当時から油は太白胡麻と焙煎胡麻とコーン油をブレンドして使っていました。
現在コーン油は遺伝子組み換えの危険性が高い物もある為、今度天ぷらやる時は違う油も試してみようと思っています。
油をブレンドするのは僕たち小僧の役目。
一斗缶は重いので2人掛りでやるんです、1升のお玉に油をイーチ、ニーイって数えながら120ℓのタンクに入れてブレンドするんです。
で、たまに分からなくなるんですよ。 寝ぼけてるから。
「あれ今いくつだっけ?」「2杯だよ」「いや3杯入ったよ」なんてね。
終いには指突っ込んで「口当たりで見よう」なんて言い出したり。
もうコントに近いんです。 小僧らにこういう仕事を任すと。
ちなみに一斗缶で殴られて頭を縫った後輩は、自分達が合わせてる時に外で一服してたからです。
怖いですねえ。
続く。。