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「異次元の少子化対策」について

お題目が大仰だったわりには、岸田総理の「異次元の少子化対策」は、ちっとも「異次元」でもないし、従来の施策の延長線上でしかない。高い出生率を示しているフランスのような他の先進諸国の研究を真面目にやったのだろうかと思ってしまう。

フランスの場合、06年頃から既に新生児の過半は「婚外子」、要するに婚姻関係にないカップルから生まれた子どもである。「伝統的家族制度」にこだわっている頭の硬いどこかの国の政権与党はもっと意識を変えた方が良い。それに、そもそも彼らの言う「伝統的家族制度」は、少し調べればわかることだが、たいして伝統的でもなくて、単なる「思い込み」「先入観」に過ぎない。

フランスの所得税制では、<子どもの多い世帯ほど負担が軽くなる所得税制。第2子、第3子と手厚くなる家族手当。「子どもを持たないともったいない」と人々が感じるところまで徹底し、都市経済が内包する矛盾をつぶしていった。>という。

それに引き換え、日本の方は「場当たり」的な思いつきでやっている「ばら撒き制作」といったレベルである。<年収960万円の所得制限ラインの根拠は子ども扶養世帯の上位10%というもの。出産促進効果の観点で精査されたわけではない。世帯主の収入だけで判断するので、共働きで夫婦の年収が各900万円ある世帯は満額が支給される。>といった具合である。

こういうのは、出産可能年齢のカップルが、どうすれば子供を持とうと考えるのか、そのためのインセンティブをどのように提供するのが効果的なのかといった観点から検討すべきである。行動経済学の専門家にでも意見を求めたら良いアイデアが出てきそうな気がするのだが、そういうアプローチはしているのだろうか。フランスではないが、「子どもを持たないともったいない」と考える方向に仕向けられるかどうかである。今の日本では、その逆で、若い人たちから「結婚したり、子どもを持つことは贅沢」だと思われてしまっているような気がする。

「少子化対策」は未来への先行投資である。人口が増えて、勤労者も増えれば、その分だけ国力が増す。それを単なる「負担増」だとしか考えないから、施策がしみったれたものになってしまう。そもそもの了見が間違っているのだ。

企業であれば、経営資源とは「ヒト、モノ、カネ」のことであるが、国家においても同様である。「ヒト」は資源であり、国力の基礎である。とりあえずは「頭数」が減っている状況を食い止めるために、やれることは全部やるくらいの割り切りは必要であろう。

イスラエルは合計特殊出生率が3.0前後と突出して高い(日本は1.3程度)が、<18〜45歳の女性は子ども2人まで無料で体外受精を受けられる。卵子提供の場合は54歳まで対象だ。離婚しても新しい配偶者と再び無料で治療できる。>であるという。文字どおり国を挙げて、「生めよ、増やせよ」を絶賛推進中ということである。

日本人の保守層にありがちな発想、「純血主義」も改める時期が来ている。だいたい本当に日本は単一民族の国なのか、前々から疑問に思っている。こちらも単なる思い込みに過ぎないのではないか。いずれにせよ、中長期的な取り組みとして日本国内の出生率向上に取り組む一方で、短期的には海外からの移住者を呼び込むことも検討した方が良い。

そうなると、複数国籍を認める動きについても、もっと真面目に考えるべきである。隣国の韓国(出生率世界最低水準)だって、国籍法を改正して、複数国籍を認めない「国籍唯一の原則」から既に転換している。

<近代的な国籍の概念を確立したのは1804年公布のフランス民法典(ナポレオン法典)とされる。国民国家の形成とともに世界中に広がった。国家への忠誠義務や兵役義務が重複すれば混乱を招くとの懸念から、国籍唯一の原則が確立された。>ということであるが、所詮は200年以上も前の考え方である。

日本のように、親が外国籍で複数国籍となった人に一定期限までの国籍選択を迫る国は世界では少数派であり、<何らかの形で複数国籍を認める国は78%に上る。>という。こういうところでも、何もしないでいると、「ガラパゴス化」してしまう。

若くて優秀な働き手、裕福な人は、各国で奪い合いである。日本の将来を悲観して、日本人の優秀な人、裕福な人で海外に移住する人は少なくない。「取られたら、取り返す」のは当然であり、居住権や国籍を与えるくらいのことはすぐにでも検討すべきであろう。

あとは教育問題である。「ヒト」は資源であり、国力の基礎であると書いたが、「頭数」だけ増えても、本当の意味で資源とはなり得ない。この点に関しては、アイルランドの例が参考になる。

80年代には所得水準が米国の半分だったアイルランドであるが、大胆な規制緩和と減税で外資誘致に踏み切るとともに、教育無償化によって人的資本の蓄積に注力した結果、政府支出に占める教育や研究開発の割合は13%と日本の8%を大きく超えるようになり、21年の1人当たり名目国内総生産(GDP)は10万ドルと日本(3.9万ドル)だけでなく米国(6.9万ドル)も超えるところまで発展している。かつては国外への人材流出で人口が激減していた国であったが、国民の国外流出を移民流入が逆転し、1990年から30年間で人口は4割増えたという。

先進国も成長を続ければ人は増えることを示すデータがあるとのことであるから、結局のところは、30年以上も日本の経済成長が停滞したままであることが、諸悪の根源ということになる。海外からの投資を呼び込みつつ、人的資本のレベルアップ、生産性向上や技術革新を促すことで、成長トレンドを復活させないことには、あれこれと策を弄したところで、人口減に対する抜本的な対策とはならない。



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