サーモンの民の物語【フリー台本】
(1000文字) アメリカのPacific Northwest地域に住む、ネイティブアメリカンのひとつ、Samish族の民話をもとに、日本語にアレンジしてみました。
Ko-kwal-alwoot、あるいはMaiden of Deception Passと呼ばれている娘のお話です。
サーモンの民の物語
かつて太平洋北西部の海岸には、サーモンの民と呼ばれる人々が住んでおりました。彼らの中に、ひときわ美しい一人の娘がおりました。その娘の父親は村の長老であり、彼女は浜辺で貝殻を集めるのが好きでした。
ある日、彼女は海から上がってきた若い男に出会いました。彼は海の王であり、娘を見て恋に落ちたのです。二人は次第に惹かれ合い、海の王は娘との結婚を望むようになりました。しかし、両親はその願いを拒絶しました。何故なら、結婚したら当然彼女は水の中の世界に行かなければいけないからです。水の中で娘が幸せになれるとは思いませんでした。
海の王は憤り、「では、今まで与えてきた海の幸をあなた方から取り上げよう」と言いました。そしてそれは本当になりました。船で沖に出ても網はからのまま。貝やカニを集める女性たちも何も獲れませんでした。さらには、村の小川さえもが枯れはじめました。
娘は民の苦しみを見て、両親に、この結婚を許してもらうよう懇願いたしました。両親はついにその願いを許さざるを得ませんでした。条件は、年に一日だけ村に戻ってくること。
婚礼の祭りには村中が参加しましたが、娘が海の中へ行くことを思うと、喜びばかりではない複雑な気持ちでいっぱいでした。
娘が海の王に嫁ぐと、村には再び豊かな海の恵みが戻りました。村のものは皆、娘に感謝しました。
翌年、帰ってきた娘は、仲間との短い再開を楽しみ、名残りを惜しみつつ、海の中に帰っていきました。皆は、何とも言えない思いで、その後ろ姿を見送ったのです。
そして、毎年、一日だけ、娘は村に戻ってきました。
しかし、彼女は少しずつ変わっていきました。美しい黒髪は常に濡れており、冷たい水滴が彼女を取り巻いていました。彼女の肌はしだいに鱗で覆われ、指の間には水かきができ、海の生き物と一体となっていきました。また、時の流れからとりのこされたかのように若いままでした。
彼女は次第に無口になっていきました。仲間が話しかけても、ただうなづくばかり…。もう陸の上にいることが不自然になってしまったのです。海から離れた彼女は、明らかに幸せではなくなっていました。彼女の友人たちはそれを悲しく思い、最終的に両親は、彼女を心から愛していると言って、娘を約束から解放しました。もう村に戻ってこなくてもよいと伝えたのです。
それでも彼女は、この民を見守り続け、海の恵みで彼らを養うと誓いました。そうして彼女は海に帰っていったのです。
サーモンの民の末裔は、今でも、彼女が海の中で見守っていると信じ、浜辺でその娘に敬意を表(あらわ)し続けています。
(終わり)
音声版(Stand.FM)
セーラジ関東さんによる朗読:
https://stand.fm/episodes/65cc9035f8a286c931ecc1c2
作者による朗読: https://stand.fm/episodes/654f0f88a544e807b4de821e
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