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心の安定剤「かめびし醤油」と地産地消

私の地元、香川県は醤油どころだ。
有名なのは小豆島だろうか。子供の頃の我が家の醤油は小豆島のものがメインだった。サザエさんちの三河屋のサブちゃんみたいに、酒屋さんがお勝手口に小豆島の醤油の一升瓶を瓶ビールと一緒に届けてくれていた。タイトルの「かめびし醤油」は地元の醤油蔵で、お刺身の時に小瓶が出ていた。

ちょうど「薔薇って漢字で書ける〜?」という大手醤油メーカーのCMが流行っていた頃、子供ながらに「なんでうちの醤油はテレビで見るのとは違うんやろう?」と不思議に思っていた。田舎だったし、80〜90年代はテレビが力を持ったメディアだったから、テレビに出てくる物事が最新で良いように感じやすかった。トレンドランキングとか流行ってたし。(トレンディって大人の言葉に感じてたなぁ)

高校卒業後、進学のため地元を出て大阪で一人暮らしを始めた時、念願の!CMに出ていた醤油やドレッシングやら、実家で買ってもらえなかった調味料を買いそろえた。家業で忙しい両親だったので、幼い頃から家事の手伝いをしてきたお陰で自炊は苦にならなかった。むしろ楽しみで色々作っていたが、味が何故かいつものようにうまくいかなかった。水と魚がまずいのは都会だから仕方ないし、「まぁ母の味にすぐ近づくなんて無理よね」なんて思ってる内に、留学してしまい、アメリカでは当時唯一入手できた大手の醤油で4年間ずっと過ごした。

住んでいたサンフランシスコは、1970年代のカウンターカルチャーの影響で、自然食や地産地消の大切さをいち早く意識していた都市だった。2000年始めの日本ではまだ珍しかった、オーガニック専門の個人商店やスーパーマーケットが点在し、ファーマーズマーケットも盛んな街ということで、NYやヨーロッパからリサーチに来ている人に出会ったりした。田舎で育ったので地産地消なんて当たり前すぎて、その言葉を使ったことなんて無かったが、都市部では意識しないと難しいことなんだとその時に知った。

普通のスーパーから、オーガニック系のお店まで色々行って、大量生産された工業製品のような食品と、生産者の顔が見える食品との、コントラストの激しさは衝撃的だった。アメリカらしい巨大なスーパーが楽しかったのはせいぜい1年くらい。その後はケミカルな異常性から逃れる道を生活費が許す範囲で選んでいた。ベジタリアンやビーガンのクラスメイトや、シリコンバレーで働いていた健康を気遣う友人からの影響は大きかったと思う。(お陰でそのすごさを深く知らず普通に名店「シェ・パニーズ」へ食べに行ったりもした)
けれども、醤油は結局大手の醤油を使っていた。日本製だから大丈夫というのがあったかもしれない。

食品の品質の大切さを海外で知ったはずなのに、帰国してから挫折続きで心が荒んだ日々を送るうち、経済的にも苦しかったのでコスパだけであらゆる食材を選ぶようになっていた。ここでも日本製だからマシという、今思えば間違った考えがあって、ケミカルなものも選んでいた。
オーガニックにハマり始めた意識高い友人にはよく注意されたが、当時はやさぐれていたので聞く耳を持たなかった。バイト掛け持ちして、とりあえず空腹を満たすような食生活を2年くらい続けていたある日、食事を受け付けなくなり遂に身体を壊した。2週間ほど実家に帰って養生し、ご飯が喉を通るようになって、素朴で美味しいご飯の尊さを痛感した。全ては健やかであってこそ、心から安らいで美味しいと思えるご飯が心をも整える、そう考えを改めて、仕事と生活の仕方をがらりと変えた。

前置きが随分長くなったが、食の意識を変えたこの頃から地元の隣町で造られる「かめびし醤油」を愛用している。(かめびしさんは、今春まで放送されていた朝ドラ『ブギウギ』のモデル、笠置シズ子さんゆかりの地にある。)
実家ではお刺身用に、かめびしさんの醤油が出ており知っていたのだが、普段使いの濃口と薄口を試してその滋味深い美味しさに開眼した。そして、初めての一人暮らしで料理の味が決まらなかったのは調味料のせいもあったのだと分かった。

国産原料と安全性へのこだわり。無添加であることは言うまでもなく、遺伝子組み換え大豆などは一切使用せず、天然にがりや地元産の小麦をメインに使用するなど、昔ながらのおいしさと安全性を大切にされている。
伝統製法の「むしろ麹」を日本で唯一守り続けている蔵元と知って、地元民として応援したい気持ちも芽生えた。「むしろ」とは、藁やイグサなどの草で編んだ敷物のことで、むしろに麹を寝かせることで水分が調節され、生き生きとした麹になるそうだ。

「かめびし」は、宝暦三年(1753年)に創業し、代々受け継がれてきた「むしろ麹」製法を守り、「おいしくて安全」をモ ットーに、醤油造り一筋に歩んでおります。

生活を立て直した半年後、滋賀県で農業のプロジェクトに参加することになり、これまで以上に食の存在が大きくなった。色んな地域の生産者さんと交流が始まり、地の味を楽しむのと調味料集めが趣味になった。数々買って試しても、結局戻ってくるのはこの醤油。好きすぎて、特にお刺身と冷や奴の時に付けすぎる(笑)。他の醤油ではこうはならない。邪道かもしれないが、私は薄口を普段使いにしていて、濃口は旨味がほしい時と、お刺身にも使っている。(別記事で書いた鯵のタタキは必ず薄口だけど)

生まれ育って自分の身体が馴染んだ風土が育む味が一番落ち着くんだろう。身体はよく知っている。生き物として愛情をかけて育てられた醤油は、工業製品のように出荷されるものと歴然の差があるのはいうまでもない。こだわりの分、少し高価ではあるけれど、こういう調味料があると心から安らいで美味しい時間が増えるのは豊かだ。

かめびし醤油のこだわり
http://kamebishi.shop/?mode=f2


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