ある若者
朝のバスに、この春から乗るようになった、社会人1年目とおぼしき若者がいる。
乗った瞬間、車内の女性たちが色めき立つのがわかるほどの男前。運動で鍛えた贅肉ひとつない引き締まった身体と、俳優にしてもいいくらいの整った顔立ち。やや利かぬ気を帯びた目は鋭く澄んでいる。
暑くなりだしたころから、寝不足による疲れと絶えざる緊張、ほんの少しの怯えが目に現れ始めた。ほどなく皮膚のつやが無くなり、頬に白いまだらが浮かぶようになった。
暑さがすこしおさまりだしたころ、盛り上がるようだった筋肉が落ち始め、腹のまわりにすこしずつ肉がつきはじめた。間もなく疲れが顔の全面を覆い、別人のような表情をするようになった。乗ってから降りるまでの さして長くない時間に、私が気づいただけであくびを3回したことがある。
ところが、しばらくしてまた見かけたら、元気を回復し、元のモテる感じを取り戻しつつあるではないか。
私はこの若者に同情していた。同情していたのだけれど、モテる感じになるにしたがい、同情が薄れ始める自分の感情を、一体どうすればいいのだろう。
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