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脳は「〇〇〇」ことを得意としている!

私が中学校で数学を教えていた頃、
時折、自画自賛するほど手ごたえを感じるような授業が
できることがありました。

そんなときは意気揚々とスキップでもしそうな勢いで職員室へ戻り、
次の授業の準備をするんですが、

その翌日
あれほど手ごたえを感じていたはずなのに
教えた内容の大半を忘れてしまっている場合がほとんどだったため、
かなり落ち込みました。

そんなことを繰り返していると
ふと、

数学ができるようになってほしい

という感情が高まりすぎてしまって
自分のことを棚に上げ

「なんで覚えてないねん」
「昨日やったところや」

と思わず、
こぼしてしまうこともありました。
(こぼした瞬間に自己嫌悪に苛まれましたが…)

しかしある時、私のこの苦悩は何ら意味がなかったことがわかりました。

良い授業をすれば、学習内容が定着する

という考え方が間違っていることに気づいたんです。

脳はそもそも、覚えることよりも、
覚えないことをずっと得意としている

池谷裕二,2011,『受験脳の作り方-脳科学で考える効率的学習法-』,新潮社

しかも長期記憶に保存する判定基準が

【生きていくために不可欠かどうか】

なので、学校で教える教科の大半がこの基準にあてはまらないから、
生徒たちが忘れてしまうのは当然の結果なんです。

私が生徒にこぼしてしまった言葉は

「なんで覚えてないねん」
→それが脳の特性だからです。

「昨日やったところや」
→生きていくために不可欠な内容でないから忘れています。

とすべて回答することができるので、
私が生徒に問いかけている時間はすべて無駄だったんです。

私たちの脳は

「忘れる」ことを得意としている

ので、良い授業ができたとしても、
翌日にはほとんど忘れてしまっていると考えるべきであり、

むしろ授業内容を忘れてしまっている
生徒たちの脳は正常に機能していることを
冷静に評価し、
何を覚えていて、何を忘れているかを分析するべきであるということに
気づかされました。

よく考えれば、
たった1回の授業で数学ができるように指導するなどおこがましく

どれだけ自分を過大評価しているんだ
数学という学問に対して失礼すぎる

と反省し、恥ずかしくなりました。

また、
小学校で学習した基本計算や面積を求める公式などを
覚えていない生徒がいたときに、
また自分のことを棚に上げて

(小学校の先生は一体何を教えているのか?)
(小学校できちんと教えていないのではないか?)

と考えてしまったこともありましたが、

脳は「忘れる」ことが得意なだから、
覚えていないのは当たり前で
小学校に原因を求めることに全く意味はなく
小学校の教育にほとんど問題はありません。

問題があるとすれば、
脳は忘れることを得意としているという特性を知らずに
学習指導をしている点でしょうか。

ただし、忘れることが得意だからといってあきらめるのではありません。
その事実を前提にして、
授業スタイルや生徒へのアプローチの仕方を変えればいいんです。

・前の授業内容を忘れていることを前提に、授業を構築するようになる。
・忘れていることが前提なので、教員が無駄に落ち込まなくなる。
・忘れていることが前提なので、生徒への無駄な追及がなくなる。
・1回の授業で記憶させるのではなく、複数の授業を視野に入れて
 連続性のある授業を考えるようになる。
・忘れてしまうことを前提にすれば、
 忘れにくい授業内容を考えるようになる。
(復習の内容や演習の時間や量の検討など)
・逆に覚えやすい、忘れにくい脳の特性、エビデンスを求めるようになり、
 効率よく学習効果が期待できる授業を目指せないか考えるようになる。
・忘れてできない生徒に対して脳の特性を理解させることによって、
 生徒が必要以上に劣等感を抱かないようにアドバイスできるようになる。

実際私は、上記のような考え方になり
授業スタイルもそれまでとはガラッと変わりました。

忘れることを得意とする脳を前提とし、
それを攻略するために何をすべきかを
学校教育において研究を進めるようになれば、
救われる生徒がもっと増えると思いますがどうでしょうか。

ちなみに私は人の名前を覚えるのが苦手で、
しばらく時間が経過すると忘れてしまいます。
相手側は私のことを覚えていて
私が忘れている場合のほうが多いのでそんなときの言い訳として

「私は覚えようと思っているんです。
 でも脳が勝手に忘れさせようとするんです。」

という内容のことを考えたことがありますが、
さすがの私でも顰蹙を買うのが目に見えているので
活用できませんでした。

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