夏休み、学校での補充学習は効果アリ!?
全国学力・学習状況調査というのものをご存じでしょうか。毎年4月に
何十億という費用をかけて小学6年生と中学3年生を対象に、主に国語と数学の試験を行っています(ちなみに令和4年度中学3年生調査の落札価格は税込1,812,800,000円です~文科省ホームページより~)。
先生方の中には学力調査に対して競争や序列化をあおるということで良い印象をもっていない人がいると思います。私も1日まるごと授業ができないので授業進度に困ってしまうという超局所的で矮小な理由から廃止しほしいと思っていました。
しかし毎年秋ごろ、国立教育政策研究所から発表される全国学力・学習状況調査の結果を見るようになって、このデータを専門的に解析していけば、無駄で効果のない教育活動を一新し、本当の意味で教育改革できるのではないかと思えるほど興味深いと感じるようになりました(統計学の知識は全くありませんが…)。
全国学力・学習状況調査のデータ
その結果の中に学校の補充学習に関するデータがあります。
この表は平成29年度に長期休業中に補充学習を実施した学校と正答率の関係を表したもです。
※なぜか平成30年度からこの質問項目が削除されていたため、長期休業中の
補充学習のデータは平成29年度が最新のものとなります。
このデータを見てみると
【国語の場合】
13日以上補充学習をしようと、全く補充学習をしなかろうと、
正答率に差はありません。
【数学の場合】
A問題もB問題も13日以上補充学習を行った場合の正答率が最も高く、
A問題では全く行っていない場合
B問題では1日から4日の少ない日数しか行っていない場合
の正答率が一番低いので
「補充学習の効果はある」
と、いえるのではないかと考えられます。
しかし、そうではありません。
正答率で1問分の差をつけるためには
A問題の場合、約2.8%以上の差
B問題の場合、約6.7%以上の差
が、必要になりますが、実際は、
A問題では1.5%の差、B問題では1.2%の差しかないので、補充学習を13日以上しようと全くしなかろうと正答数は同じです。
ちなみに
<A問題>
13日以上 → 36問中23.544問の正答数
0日 → 36問中23.004問の正答数
<B問題>
13日以上 → 15問中7.35問の正答数
1日から4日 → 36問中7.17問の正答数
です。
平成30年度から長期休業中の補充学習に関する質問がなくなったため、令和3年度からは補充的な学習の指導に関するデータを紹介します。
この結果は一目瞭然です。補充学習の有無にかかわらず、正答率に差はありません。実をいいますと、毎年だいたいこんな感じの結果です。
つまり、このビックデータから導き出される結論は、残念ながら
夏休み等、学校で行われる補充学習の効果は期待できない
ということです。数%でも差があるのであれば「補充学習を実施したほうがいいのでは?」という考え方もあるかもしれませんが、13日以上という日数をかけて、たったそれだけのパフォーマンスしか期待できないのであるならば、別の方法を考えたほうが時間を有効に活用できるはずです。
補充学習の効果がない理由を推測
そこで、なぜこのような結果になってしまっているのかを私の経験則から主観的に推測してみたいと思います。
【生徒・保護者の立場から】
夏休みに学校で補充学習を実施すると学習内容や生徒の取り組み方は十人十色です。どんな取り組み方であったとしても
「〇時間、補充学習をしたという事実」
があるため、中身よりその事実に注目して、生徒は勉強した気になりやすく、保護者もその事実に納得しやすくなり「勉強しなさい」とガミガミ言わずにすみます。
特に強制的な補充学習の場合、生徒のモチベーションは低く、保護者や教師のために勉強をしてあげたんだから、その分、自由にしてもいいだろうというような気持ちになり、保護者も補充学習をしたという事実があるため、許容してしまう傾向にあります。私が中学生なら午前中がんばったのであれば、午後は断固として息抜きをします。
補充学習の目的が学力保障などの成果を求めるのではなく、勉強をしたという事実・安心を得ることになってしまう場合、学力につながりにくいのではないかと推測できます。
【教師の立場から】
多様な学力に応じた補充学習をするためには
圧倒的にマンパワーが足りません。
夏休みでも教師は忙しく、部活指導を行っている人、出張や研修に参加している人などを除いていくと、結局1人の教師が何十人もの生徒を相手に補充学習をすることになり、普段の授業とそれほど変わりません。そんな状態で、学力の高い生徒の質問に答えていたら問題の難易度が高いため時間がかかるし、勉強が苦手な生徒の対応をすればゆっくり教えることになるため時間がかかり、どちらかを優先すれば全体に対して偏りが生じてしまいます。だからといって生徒たちへのサポートを均等にしようと意識してバランスよく対応すれば、結局、中途半端なことしかできずに時間だけが過ぎてしまいます。
実際、私も補充学習では苦労しました。習熟度に合わせて難易度を細かく分けたプリントを準備し、なるべく多くの生徒の学力に対応しようと思っていても、結局、私1人しかいないので対応できる生徒数は限られてしまい、ほとんどの生徒が自力でプリント学習する状態になっていました。自力でできないから補充学習に来ているのに、力を伸ばしたい生徒にも、苦手を克服したい生徒にも満足のいくサポートができなかったという苦い思い出があります。一斉授業形式で同じ課題を取り組んだこともありますが、その場合は個人のニーズに応えられないので時間を無駄に過ごしてしまった生徒もいたであろうと反省しました。毎年頭を悩ませながら補充学習の工夫をしましたが、ほぼ手ごたえは感じませんでした。
マンパワー不足と補充学習のノウハウの未熟さが生徒への学力につながりにくいのではないかと推測できます。
※教師サイドも安心感を得るために補充学習の事実を作るという場合も考えられますが、論外すぎるので省きます。
夏休みの補充学習を効果的にするには
では、全国学力・学習状況調査のデータと私の経験則による推測をもとに、夏休みの補充学習を効果的にするにはどうすればいいか、考察してみます。
まず前提として、
「無策のまま変革をせず、
今までのような補充学習を行っても効果はないという事実」
を生徒・保護者・教師が認識することです。その上で
生徒たちは、
①主体的に具体的な目標(「○○をできるようにする」)をもって
取り組むこと
②補充学習が終わって家に帰ってからの勉強が本番だと考え、
定着を目指すこと
という2つの意識改革と実行力が必要です。
【①について】
能動的に活動するのと受動的に活動するのでは脳の働きに10倍もの差があるそうです。だから、教師が準備している教材だけに頼るのではなく、
自分で何を勉強したいか、何をできるようになりたいかという明確な目的をもって学校に行き、
・教師や周りに質問する
・難しい問題にチャレンジする
・自分が準備した問題集をしたい、こんな勉強をしたいなどの自己主張する
・補充学習の時間外でも対応してくれるか質問する
・勉強法を相談する
など積極性をもつことが重要です。
【②について】
①の意識改革で補充学習を積極的に取り組むことによって、わかる、できるようになった問題は家で何度か振り返ることで定着を目指します。せっかくできるようになったものを忘れてしまうと夏の努力がすべて無駄になってしまいます。
補充学習でわかる、できるようする
↓
家庭で復習したり、類似問題に取り組んだりする
↓
わからない、できなかった問題は補充学習で質問する
↓
家庭で復習する
・・・
というサイクルが習慣化されていけば学習内容が定着し、効果が期待できます。
教師側は
①マンパワーを確保すること
②効果が期待できる補充学習を研修すること
という2つの意識改革と実行力が必要です。
【①について】
本気で全体の学力向上を目指すのであれば、人材確保は必須です。教師の人数が増えれば一人当たりの生徒数が減るため、個に応じた補充学習により学力保障が期待できます。これは教師個人がというより、
学校全体が本気になるかどうかにかかっています。
【②について】
脳科学や認知心理学などのエビデンスに基づいた学習法を試したり、塾や予備校の先生たちを講師に招いてノウハウを伝授してもらったり、
教師側もアップデートすることが必要です。
特に進路を控える3年生に対しての補充学習は、進学先の入試問題の傾向を解析し、対策できる内容のものを提供する必要があります。
私は毎年3学期になるとネットで掲載される各都道府県の公立高校入試問題をなるべく解いていき、その年の出題傾向や難易度をつかむようにして、生徒たちにホットな情報を伝えていました。
とにかく補充学習を計画に組むのであれば、生徒たちにそれなりの対価を提供する必要があると考え、毎年同じような教材ではなく、生徒の状態、入試問題の傾向などを考慮して学習法、指導法を工夫するなどの研鑽が不可欠です。
実現はかなり難しいと思われますが、全国学力・学習状況調査の結果を覆すためにはこれぐらいの改革は必要でしょう。
逆に、ビッグデータで「補充学習をしてもしなくても学力に影響がない」という結果が出ているのだから、思い切ってスパッと
「補充学習は実施しない」
と選択するのも1つの方法です。ただ毎年実施している学校の場合、効果がないとわかっていても、なかなか辞めることができない傾向にあるのは、日本人特有の性質なのでしょうか…。
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