鈴木常吉さんの訃報によせて
多くの人がそうであるように、自分にとって鈴木常吉さんと言えば『思ひで』。
わたしも『深夜食堂』にてその存在を知ったひとりです。
この、音楽に入る前の一瞬の静寂がたまらない。
なんでしょうね、この独特のうらぶれ感。
自宅のテレビで見ているのに、猛烈に「帰りたい」という気持ちにかき立てられる。
「郷愁」に似てはいるけれど、でも「帰りたい」のは今の家でも実家でもなくて。
この世のどこかに自分が本当に帰るべき場所があって、そこに行きたい、そんなかきむしられるような思い。
この、人だらけで夜も煌々と明るい街を急いでやり過ごして、ぐんぐんと歩き続けてゆくといつかたどり着ける筈の場所。
何故かそこには「逢いたいひと」なんてものさえいなくて、ただただ、びょうびょうと風が吹き緑が鮮やかに揺れ空がどこまでも青々と広い。
ひとりぼっちで思い切り深く息を吸って吐き出せる場所。
いつもは自分自身すら見ないよう気づかないようにしてやりすごしている「ここじゃない、本当に自分がいるべきなのはここじゃなかった」という、多かれ少なかれ誰もの胸の奥にある違和感をするりとむき出しにする、笛の音と細かに震えるかすれ声。
歳を経た人間なら「本当は違うんだ、やり直せた筈なんだ」という人生の悔いかもしれないし、若くとも日々を生きていてちらりちらりと胸をかすめる、「ここじゃなかったんじゃ」、いっそ「この星じゃなかったんじゃ」とすら思う世界と自分とのズレ。
「でもきっと、そんな場所は本当はどこにもないんだな」と判っているさびしさ。
唯一無二の声と歌でした。
ご冥福をお祈り申し上げます。
ちなみに原曲はアイルランド民謡の『Pretty Girl Milking Her Cow(ゲール語原題・Callín Deas Cruíte na mBó)』という曲だそうで、ジュディ・ガーランドも歌っております。
これはずいぶんとポップなカバー。
アイリッシュ系アメリカ人の歌手、キャシー・ライアンさんが歌ってるものがこちら。
こちらは穏やかで癒し感高し。
『思ひで』のように、胸を締めつけられる、切なくてむしろ苦しささえ覚えるような感情をかきたてられることなく、ただただ癒し曲として聴けます。
ちなみに歌詞はどちらも、乳搾りの女性に愛を語る歌だそうです。
『思ひで』所収のアルバム『ぜいご』は、ぜひこちらからお買い求めください。
当時ブログか何かでご当人がおっしゃっていたのが、著作権関係の絡みで、Amazonとかの通販から買うとご本人のところに儲けが入らないとかで、こちらから直接買ってほしいと。
今はYahooにショッピングサイト立てられてるのですね。
自分が買った2009年当時は、直接鈴木さんに「欲しいです」と住所と名前をメールすると「では送るので届いたら振り込んでください」と返事が返ってくるという、とても牧歌的な購入方法でした(笑)。
今はサイン入り楽譜がオマケみたいですが(それもいいなあ)、当時は「『深夜食堂』をイメージした2曲入りCD-R」がオマケで、大変楽しみにしていたら届いたCDが空っぽで何も入ってなかったという事件も(笑笑)。
慌ててメールしたら「明日送り直します、空CDは返してくれなくていいです」と。本当に牧歌的な時代でした。
ちなみにその2曲は『夜明けの物音』と『水の中の女』。
今は両方ともアルバム『望郷』に入っておられるようなので、オマケにするのはやめたのかな。
『深夜食堂』の歌では福原希己江さんのものも好きで、アルバム『おいしいうた』も勿論買いました。
中でも『からあげ』が好きです。ドラマで聴いた時には吹きました。「投げ入れてしまえばいい」て何そのやさぐれた唐揚げレシピ。
以下のリンク押すと視聴できますのでぜひ。
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