ニューヨークのアーティストインレジデンスでできること
お久しぶりです。
ニューヨークのアーティストインレジデンスで経験したことをいい形で日本画のアーティストとシェアできればいいなと、ずっと考えていたのですが、いろいろ考えているうちに帰国して少し時間が経ってしまいました。自分自身の記録のためと、滞在中の気づきをメモしたいという思いもあり、久しぶりにnoteを更新します。このnoteが、「海外のプログラムに参加したいけど、何ができるかわからない。」「海外の経験を積みたいけど、どう準備をしたらいいかわからない。」という人の手助けに少しでもなればいいなと思います。
NARS Foundation
私が滞在したアーティストインレジデンス(AiR)は、NARS Foundation ( https://www.narsfoundation.org/ )というところです。もともとニューヨークという場所にこだわってレジデンスを探していたのですが、たまたま見つけた文化庁の資料( https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/pdf/artist_siryo.pdf )がレジデンスを見つけるうえで非常に役に立ちました。
NARS Foundation にはいくつかのプログラムがあり、私はその中のInternational Residency Programに参加しました。これは新進・中堅アーティストをサポートするもので、3か月(~6か月)レジデンシー内のアトリエを使用しながらNARSの提供するプログラムに参加するというものです。参加するアーティストはおよそ12~13人ほどで、国籍や年齢、ジェンダーはダイバーシティに富んでいますが、地元ニューヨークのローカルアーティストも参加しています。アトリエは一人部屋もあれば、パーテーションで区切ってシェアするものもあり、入居が決まるとアンケートで希望を聞いてくれました。ただしアトリエに宿泊施設はついていないので、宿泊場所は自分で確保しなくてはいけません。
NARS Foundationでできること
じゃぁ一体何がプログラムとして用意されているかというと、主に、①アトリエでの制作 ②スタジオビジターによる訪問 ③レジデンシーアーティスト同士の対話 ④施設見学 ⑤オープンスタジオ・グループ展 です。
アトリエでの制作
これは美大などに通ったことがある人なら、簡単に想像できる通り、それぞれのスペースを分け与えてもらい、そこで制作することです。NARSではウェブサイトに
とあるように、二十四時間、年中無休でアクセスできる、23~27㎡の家具付きの個室もしくはシェアルームが提供されます。私は他のアーティストがどのような制作をしているのかとても興味があったので、パーテーションで区切られたシェアルームを選びました。
スタジオビジターによる訪問
NARSでは週に2~3人の訪問者がいました。その中からそれぞれのアーティストのプラクティスにあった訪問者をNARS側でマッチングしてくれて、実際にはアーティスト一人に対して、週に1~2人の訪問者と面談します。訪問者の種類は、ギャラリーオーナー、ライター、キューレーター、教育者、アーティストなど、ニューヨークのアート業界の人たちです。それぞれのアトリエの滞在時間は、30分ほどで、その間、自分の資料を渡したり、取り組んでいる作品を説明したり、議論したりすることができます。
ここでの対話は、日本画に対してno ideaの人たちが、どういう風に日本画や私の作品をとらえるのか聞きだすことができたので、とても勉強になりました。
過去のスタジオビジターたちの名前は、NARSのウェブサイトのインターナショナルレジデンシーのページ(https://www.narsfoundation.org/international-residency-program)
の一番下の方を見てもらえるとリストがあります。
レジデンシーアーティスト同士の対話
NARSでは、アーティスト同士の理解を深めるためのプログラムとしてASAPというセッションが週に一回用意されています。ASAPはAs soon as possibleではなく、Artists sitting and ponderingの略で、アーティストがペアになって毎週自分たちのプラクティスに関連したワークショップなどを行うセッションです。実際には、誰かがお題を出して、それに対してみんなで議論したり、ビデオをみたり、ショーを見に行ったりと様々で、私は金箔のワークショップをやりました。
施設見学
全体のプログラムの中で3回程度でしたが、アートに関連する施設見学もありました。現代アーティストに関連する施設が主なので、印刷関係やバイオアートなどを取り組む施設など、日本画を描いているとあまり接する機会のない場所が多かったです。見学は必ずしも義務ではなく、興味があるものにそれぞれ参加するという形式でした。
オープンスタジオ・グループ展
プログラムの最後にオープンスタジオとグループ展があります。
グループ展に展示する作品は、完成したものを持ち込んでもいいし、プログラム期間中に制作した作品でもいいということでした。グループ展は同じレジデンシーにあるcuratorial fellowのプログラムに参加しているキュレーターが、キュレーションします。期間中、参加アーティストがキュレーターと対話する時間があり、それぞれのプラクティスを話し合いながら、キュレーターがグループ展のタイトルやステイトメントなど決定し、展覧会を作り上げます。これは展覧会をする上でごくごく当たり前のことなのですが、日本画ではあまりこのようなキュレーターと対話して展覧会を作り上げる経験をすることがないので、これも私にとってはいい経験になりました。
オープンスタジオは名前の通り、スタジオ(アトリエ)を一般に開放し、自由に出入りできるようにすることで、NARSではグループ展の初日と、二日目がオープンスタジオに設定されています。NARSの施設では、貸しスタジオも併設されていたため、そこで制作しているスタジオもオープンスタジオに参加するので、総勢50人以上のアーティストがスタジオを開放していて、芸祭のような雰囲気でした。
そのほか
NARSでは、国籍、民族、性別、年齢などのバリアを取り払うことに配慮されていると感じました。3か月の滞在中、とても心地よく参加することができ、また、ローカルアーティストと一緒に過ごすことで、ニューヨークのアーティストが実際にどのようなところで発表し、活動しているのか知ることができて、個人的にはとても勉強になりました。(このことに関しては他のインターナショナルアーティストからは、不満があるようでしたが)
また私の滞在した4月から6月は、アートフェアなどのイベントも多く、他のアーティストがどのようなフェアに興味を持っているのかも知ることができました。そして何より、とても気候が良かったです。ニューヨークのスタジオはエアコンがないこともよくあることで、NARSにも設置されていなかったので、6月の末は少し暑苦しく感じることもありました。
最後に
これらのプログラムは当然、英語で行われます。私が参加したときは、ほとんどのアーティストの第一言語が英語だったため、ついていくのに非常に苦労しました。これは、例えばTOEIC900点以上あるような人でも、ネイティブの容赦ない英語や、ランダムな会話にはついていけないというレベルなので、なかなか日本人には厳しい世界だと思います。それでも、ある程度のフォーマルな会話や、スタジオビジターとの一対一の会話は、訓練すれば問題ありませんでした。なにより、語学学習を通して日本の文化を改めて知ることも多く、日本画家なのだから、日本だけで活動すればいいということではないのだと痛感させられました。
最初は、ニューヨークに住んでみたいという安易な発想で始まったアドベンチャーだったのですが、次第に大事になり、自分でもなんでこんなことをしているのだろうと思う時期もあったのですが、かけがえのない経験になりました。
このnoteが誰かの役に立つことを願います。
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