内臓をすべてひっくり返して、自分を出せ
こんばんは。仁科かおりです。
この週末、映画『BLUE GIANT』を観てきました。
最近ヒットした『すずめの戸締り』や『THE FIRST SLAM DUNK』に比べると、あまり注目されていないようですが、とっても良かったです！
STORY：
ジャズに魅了され、テナーサックスを始めた仙台の高校生・宮本大（ミヤモトダイ）。雨の日も風の日も、毎日たったひとりで何年も、河原でテナーサックスを吹き続けてきた。
卒業を機にジャズのため、上京。高校の同級生・玉田俊二（タマダシュンジ）のアパートに転がり込んだ大は、ある日訪れたライブハウスで同世代の凄腕ピアニスト・沢辺雪祈（サワベユキノリ）と出会う。
大は雪祈をバンドに誘う。はじめは本気で取り合わない雪祈だったが、聴く者を圧倒する大のサックスに胸を打たれ、二人はバンドを組むことに。そこへ大の熱さに感化されドラムを始めた玉田が加わり、三人は“JASS”を結成する。
楽譜も読めず、ジャズの知識もなかったが、ひたすらに、全力で吹いてきた大。幼い頃からジャズに全てを捧げてきた雪祈。初心者の玉田。
トリオの目標は、日本最高のジャズクラブ「So Blue」に出演し、日本のジャズシーンを変えること。 無謀と思われる目標に、必死に挑みながら成長していく “JASS”は、次第に注目を集めるようになる。「So Blue」でのライブ出演にも可能性が見え始め、目まぐるしい躍進がこのまま続いていくかに思えたが、ある思いもよらない出来事が起こり……
公式HPも見ずに情報ゼロの状態で観に行ったため、『すずめの戸締り』に比べると映像に凝っている感じもないし、タイムリープみたいな仕掛けもなく淡々とストーリーが進んでいくし、映画を観終わった時の自分を想像して「残念。ハズレと感じそう‥」と、心の片隅で思いながら観ていたのですが、主人公となるジャズバンドの青年たちの心の描写や成長、そして、音楽の素晴らしさに感動して、気付けば、彼らにたっぷりの情熱を分け与えてもらって、応援し、涙してました。
高校時代から３年間、毎日、テナーサックスをひとりで練習してきたダイ。
幼いころからピアノに人生を捧げてきたユキナリ。
ダイのがんばる姿に心を動かされてドラムを始めた初心者の玉田。
経験値も、音楽に掛ける想いや方向性も異なる３人がバンドを組むことになったのは、"人生に掛ける情熱" "やってやる！"という想いが重なっていたから。その僅かに重なった部分が火種となり、バンドが結成され、"青春"という人生のひとつのシーズンを命がけの特別なシーズンへと変容させていきます。
私からすると、青春なんて遥か昔のことだし、親子ほど世代の違う彼らですが、不思議なくらい心が重なって、深いところから揺さぶられて、本当の意味で生きる姿を見せてもらったような感覚があります。
印象的なシーンもたくさんあるのですが、一番心に残ったのはピアノを演奏するユキナリが葛藤を乗り越えるシーンでした。
ユキナリは、幼い頃からピアノに人生を捧げてきたため自負があり、素晴らしい技術をもっていました。だけど、ある時、「３人の中で足を引っ張っているのは君だ！」と言われてしまうのですよね。
小手先の技術だけで面白味がない。
はじめて会った人に、はじめましての挨拶もできない。
思い上がっていて、横柄な態度をとる。
自分に才能があると勘違いし、人を見下している。
：
こんな風に散々否定されたとき、はじめて、ユキナリは自分の中にある高い壁の存在に気が付きます。ユキナリは、いつからか、技術を向上させて一流のピアニストになることばかりを考えていて、純粋にピアノを楽しむ気持ちや、心を動かすような生きた音楽を奏でること、いつだって誰かに支えられて生きていることを忘れてしまっていたのです。
そんなユキナリの葛藤を知ったダイは、「ジャズのソロは内臓を全て出す」「ひっくり返すもんだ！」「今は、お前ひとりでがんばれ」と、ユキナリを突き放すようにして応援します。
この時のダイの気持ちもすごくよく分かる。
ダイは、いつも自分を信じているから。
自分を信じている人は、目の前の誰かのことも当たり前のように信じらます。だから、やさしい言葉なんて掛けない。
「大丈夫だ」と当たり前に信じている気持ちは、どんな言葉であっても、魂に響くメッセージになるのです。
そこからひとり、必死になってピアノや人に向き合っていくユキナリの姿にも感動しました。
「内臓をすべて出す。ひっくり返して、自分を出せ！」
映画を観終わって、このメッセージが、なんだかとても心に響くのです。
今の時代って、上辺だけの浅い情報や表面的な幸せで溢れているように感じませんか。世の中がつくった幸せ像に、自分が当てはまっているかどうかを気にして安堵したり落ち込んだり、誰もが「映え」を意識し、素敵な誰かのように映える日々を過ごそうとして、本来、命（時間）をかけるのとは違うところで、命を消耗してしまっている。
それでいいのだろうか？
本当は、内臓をひっくり返すくらい自分をさらけ出して、必死に生きたいと、誰もが願っているようにも思うのです。
だから、私の心にこの映画が響きました。
私は、彼らのように若くはないけれど、いくつになっても必死にもがく時間にこそ、生きている実感があると思うし、そういう熱さを一生持ち続けたいと思っています。私たちは、ひとつの壁を乗り越える度に、また深く感謝できるようになり、同時に自分の至らなさに気付いてゆく。その繰り返しがあるからこそ、心が成長していくのですよね。
そんな風に自分を成長させながら、人生の一つのシーズンを一緒に過ごせる人に出逢えたら、それは最高にしあわせなことだと思う。
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