江戸時代から伝わる「糠塚きゅうり」の食感に感激した日
ブックフェアで出会った「きゅうり」に一句。
先達のもたらしたるや 糠塚きゅうり ぱりぱりかみて 江戸思ひやる
【先達がもたらしたのは糠塚きゅうり。パリパリ噛んで江戸時代をはるかに思いました】
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アノニマスタジオが2009年から開催しているBOOK MARKET。コロナ渦で中止された年をはさみ、今年は3年ぶりに浅草・台東館で開催された。大手出版社もリトルプレスも一緒くたになったその空間では、まるで同人誌を売るブースのように、本の作り手と読み手が一体感を味わいながら語り合う。持ちきれない程の収穫物で膨らみきったマイエコバッグには、本だけではなく茄子ときゅうりも入っていた。
今日は、そのきゅうりの話。
BOOK MARKETには雑貨や植物も並ぶ。きゅうりを販売していたのは、warmer warmerという八百屋さん。『古来種野菜を食べてください』の著者でもある高橋一也さん自ら店頭に立ち、野菜を売っていた。もう、最終日の閉館間際だったのであまり残っていなかったが、茄子ときゅうりを購入できた。
茄子はまん丸い、本当に文字通り「たまのように丸い」もの。残念ながら品種名を失念してしまったが、ひと目見た瞬間、息子が「肉詰めにしたい」と言ったので、その日のうちに肉詰めにした。トマトのファルシも一緒に作ったが、息子が詰め物の肉をハンドチョップしたので非常においしく、味の濃い古来種の茄子にも負けていなかった(写真も撮らずにモリモリ食べたことを今さら後悔)。
そして、きゅうり。よく見るきゅうりの3倍はありそうな太さで、緑の色は淡く、やや黄色がかっている。実家で育てていた縞模様の瓜に近い色合いだった。
名前は糠塚きゅうり。青森県八戸市に江戸時代から伝わる伝統野菜だ。来歴は諸説あるようだが、シベリアルートで伝わって、江戸時代に参勤交代の途中で八戸藩主が種を持ち帰り、当時野菜の供給を担っていた糠塚村に植えたのがはじまり。代々、自家採種を繰り返しながら周辺地域に広がったといわれている。
味噌を付けて食べるのが一般的らしいが、どうしても浅漬けが食べたい。
軽く洗って縦半分に割り、種を取り除いて厚めにスライス。ジップロックに切ったきゅうりと塩昆布を入れ、冷蔵庫で数時間放置する。一晩置いて食べようと思ったが、初めての食材ゆえに好奇心が勝り、漬けてすぐにひとくち食べた。
パリパリパリ。
きゅうりは元来食感を楽しむ野菜だと思っているが、糠塚きゅうりのたくましい食感ときたら。みずみずしいのにカリッと乾いたかたさといおうか、とにかく歯応えがいい。皮はほろ苦いと聞いていたが、気にならない。普通のきゅうりより底力があり、ちょっとメロンのような香りもして、「瓜っぽいな」とも感じた。
この底力が本来のきゅうりなのか。普段から食べたいと思うくらい、しっかりとおいしい。
見慣れない野菜だからこそ発見がある。
そもそも糠塚きゅうり、糠塚エリアでは非常に有名で、普通に出まわっていたというが、いつのまにかスマートな濃い緑のあれに取って代わられた。理由はふたつ。「自家採取して自根で栽培される糠塚きゅうりは病気に弱く生産量も少ないこと。そして見た目がおいしそうじゃないこと」だという。
生産性の悪さは作り手にとってなかなか厳しい条件ではあるが、見た目がおいしそうじゃないとはどうしたものか。私自身は、初めて見た糠塚きゅうりのずんぐりたくましい姿を「おいしそう」と感じた。ただ、「見慣れない野菜」というのは伝統野菜であれ新種であれ、何となく一歩引いて様子を見てしまうところは誰にでもあるのだろう。
糠塚きゅうりはおいしいよ。
もしもどこかで見かけたら、とにかく買って、食べてみてほしい。希少な野菜=生産者も少ないわけで、作っている方はきっと何かを背負っている。ぜひ、積極的に。
青山のファーマーズマーケットあたりで売っていないだろうか。私も今後はあのずんぐりした姿を探して、買いたいと思う。