40歳のおじさんは、誰かを頼っても良いのだろうか。
40年も生きていれば尚更だ。
相手が家族となれば尚更だ。
僕はビビりだ。
弱みを見せるのが恥ずかしい。
我が家は、比較的仲の良い家族だと思う。
今でも節目ごと、親兄弟で遊びに出かけている。
でもどこか、僕は壁を感じていた。
友達だけど親友ではないような壁。
家族だから付き合わざるを得ないのか
僕は普段、なんと言われているのか
自身を振り返ってみれば
半分くらい、自分に自信があって
半分くらい、自分に自信がないが
長男として前者のみを一択とし
自慢をしてきた。強がってきた。
40年間、繰り返してきた。
それはつまり、
僕が読者であったなら
栞も挟まずに本を閉じるであろう
独創性の無いエピソードだったのだが
何せ僕は演者であったので
凡作に向き合うより仕方がなかった。
壁を作っていたのは僕だった。
なんて笑えないオチなのか。
だが僕は、この入門書の主人公として
落とし前をつけねばならないのだ。
どうしようもなく辛いことがあった日
辛かった気持ちを、オチもないまま
ただただ素直に話すのだと決めた。
40歳のおじさんは震えていた。
涙に遮られ、途切れそうになるが
裏返った声で話し続けた。
頭が真っ白になったときは
真っ白な何かを発した。
押し付けがましい実験だとは思ったが
顔色は伺わないことにした。
ゴの後に文字が続かないよう飲み込んだ。
腫れた目はその代償かもしれなかった。
弱音を吐くことが
こんなに怖いことなのか。
こんなことすらも
泣かなければ言えないのか。
こんなに怖いことを
伝えられる相手だったのか。
そんなに大切な人を、今から失うのだ。
覚悟を決めたはずの40歳のおじさんは、
未練がましくも信じ、願い、縋りながら、
どろどろとした黒い塊を吐き出しきった。
翌日、朝食をとる。
昨日のことに触れるつもりはないが
昨日のことを隠すつもりもない。
目玉焼きが、少しだけ大きい気がした。