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読書記録『スマホの中身も「遺品」です デジタル相続入門』

今日明日に空の向こうに行くような年齢でもないけれど、いつどのような形で天の階を昇るのかわからないのが人生です。とりわけ今は世界的な感染症の流行で、ぐっと空が近くなったような感覚すら覚えます。

「終活」という言葉が流行って久しいですが、今改めて意識を強めている人も多いのではないでしょうか。そういう方に、意外と盲点になりがちなアレに言及したこちらの本をどうぞ。

スマホの中身も「遺品」です デジタル相続入門
(古田雄介著/2020.1/中央公論新社)

故人のスマホやパソコン、そしてインターネット上に遺される「デジタル遺品」。他人のでは詳細が把握しづらく、かつ金銭的な価値を持つものが増えたため、今や相続の場で問題化し始めている。SNSにネット銀行、生体認証、サブスクリプションサービスの浸透を前に、私たちはどう対応し、準備すべきか? 契約者以外がログインすれば違法? 契約者が亡くなれば○○ペイの残高は消える? そのスマホ、もはや放置は許されません!(巻末内容紹介より引用)

「デジタル遺品」とは何なのか、いざという時どうするか、どう備えておくべきか、といったことをまとめた本です。

「あなたはそのスマホを放置したままで、死ねますか?」
(honto商品説明より引用)

死ねませんね。

いや絶対無理でしょ。「遺族に丸投げで大丈夫!」って言える人どれだけいます? めちゃめちゃ恥ずかしい写真が入ってるとかではないですが、LINEには友人だからこそ言える家族の愚痴があったり、アルバムに趣味の同士以外には見せるのはやや憚られる画像が詰まっていたりと、自分のプライベートと直結しているデジタル機器だからこそ、他者に完全に委ねるには抵抗があります。

それとは別に、処理の手間をかけるのが申し訳がないという気持ちもあります。通常の遺品でもそうなのですが、デジタル遺品は手間の種類が少し異なります。機器に多少詳しくないとそもそも扱えないし、手に取れない・形がないデジタルという特性上、そもそもどこに何が存在するのかが簡単にはわかりません。

本の中でも、生前夫が興味を持っていたFXを実際やっていたかどうかがわからず、来るかどうかもわからない高額請求に怯えている奥さんの話がありました。ないことを証明することは相当な困難であり、比喩として「悪魔の証明」と表現されることがありますが、この奥さんはまさしく悪魔に怯え続けることになったわけです。

映画のサマーウォーズみたいに、買い物も交流も勉強も仕事も今やデジタルで完結できる時代です。下手をすると現実よりも長い時間ネットで過ごすことになり、死んだ後には「遺品」が残ります。このnoteもそうですね。今のところ私はnoteは無料会員なので放っておいても問題ないですが、note運営には私が死んだことを知る手段がないので、有料会員だった場合、遺族が遺品整理に追われている間も支払いが続くことになります。しかも請求書が届くこともないので、気づいたら相当な額を支払っていたということもあり得ます。

この本の冒頭は、故人のスマホのロックナンバーがわからずパスワードを間違え続けた結果、スマホが初期化してすべてのデータが消えてしまった遺族のエピソードから始まります。デジタルは、人類の歴史からするとまだまだ未熟な分野です。それゆえに個々の対応の蓄積がまだ浅く、いざというとき故人や遺族にとってやるせない結果になることも多々あります。

いつか必ず、自分や大切な人は亡くなります。月並みな感想ですが、いつかかなず訪れるそのときに、デジタル遺品のせいで後悔することがないように備えておかなければならないと改めて考えさせられる本でした。



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