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最高の晩さん

「じゃあ、チキン南蛮で。あ、あのぉ、唐揚げじゃなくて、チキンカツにタルタルソースと甘酢がかかったやつでお願いします。もちろん白いご飯も」

「注文が多いな全く…まぁ最後の晩さんだ、待ってろ」

最後の晩さん。

要望通りやってきた、チキンカツにタルタルソースと甘酢がかかった一番うまいチキン南蛮定食をたいらげた。

「ごちそうさまでした」

「じゃあ行くぞ」

これから連れていかれる部屋には、電気椅子がある。

次は何を食べよう。

手首や足首を固定される。

注射のように一瞬我慢すればいい。

いっっ

目を開けるとまたさっきの控室みたいなとこに座っている。

おなかがペコペコだ。

記念すべき100食目は一番好きなチキンカツのチキン南蛮にしたから、さっぱり系がいいかな。

でもデザートってのは違うだっておなかはすいてるから。

「あーじゃあ、ピザハットの、韓国風プルコギで。あー今は特うまプルコギっていう名前に変わってて、あともう今は無いんですけど、スクエア生地、四角い、丸じゃなくて、四角いクリスピー生地でお願いしてもらっていいですか?チーズ増量もお願いしたいですできたら。あ、もちろんLサイズであーあと白いご飯もお願いします。コーラも」

「死刑囚のくせに注文が多いぞ全く…ちょっと確認してみる」

「お願いします」

気付いたらいつも濃い味を食べている。

1回だけ甘いチョコレートナン、チョコレートの入ったナンを変わり種で頼んでみたことがあるのだが4回目くらいで、それがまぁ満足度の低かったこと低かったこと、やはりリセットされた空腹は本能的に旨味を求めているのだ。

しかしこのピザハットの特うまプルコギは世界一うまい。

これでいいのだ味なんて。

これ以上の味なんて必要ないって思わしてくれる。

スクエア生地は叶わなかったが、チーズ増量の丸いクリスピー生地Lサイズをコーラで流し込んで、シャワーのようにサッと電気を浴びた。

「あのぉ、ちょっと考えさせてください」

「早く決めろよ」

「ちなみに僕ループしてるんですよ、このあと電気椅子で電気ショックで過去、それが今ここの数秒前なんですけど、そこに戻って、つまりこの部屋に戻って、また何を食べるか注文することになるんですけど、」

「なにを言っている」

「100回以上ループしてて、102回目なんですよこれが」

「いいから早く決めろ」

「どうやったら信じてもらえるのかな…あ、ちなみにお兄さんは、死刑になる前になに食べたいですか?」

「知らん」

「メニューの参考にしたいんです。教えてください」

「…カレーヌードルかな」

「あー、わかりますわかります、あれたまにめっちゃ食いたくなりますよね、あれ世の中で一番歯が黄色くなるイメージができる食べ物だと思いません?」

「いいから早くしろ」

「じゃあそれで」

「…カレーヌードルか」

「はい」

「本当にカレーヌードルでいいんだな?」

「はい、お願いします」

「1つ?」

「はい、あ、白ご飯とコーラも」

「注文が多いな、待ってろ」

残り汁に6割がた残った白ご飯をぶち込んでかき混ぜる。

金持ちもこれをしているのだろうか?とするたびに思う。

もともと金持ちの家に生まれた人はしないかもだけど、成り上がった人でこれをしなくなるイメージが全く湧かない。

そんなことを考えていたら電流がその話題に相槌をするように「あぁ」と流れた。

「カレーヌードルで」

お兄さんの瞳孔が開いた。

「カレーヌードルと白ご飯とコーラでお願いします」

「…わかった」

103回目にして、初めて「注文が多いな」を言わなかった。

突然の大好物に動揺したのだろう。

数分後。

白いオオカミが入ってきた。

でかい。

サイくらいでかい。

「えっ…ちょっと!」

身の危険を感じるべきほど"隣"にいるお兄さんは微動だにしていない。

「いや、えっ、なんですか…?」

「黙れ小僧!」

「…え?」

いまお兄さんは口を動かしていない。

「…え、後ろに誰かいま(すか?)」

「黙れ小僧!」

食い気味で、白いオオカミが口パクをした。

「お前にサンが書けるか」

「…え、オオカミが喋(ってるんですかこれ?)」

「黙れ小僧!」

「…なんですかこれ?」

「お前にサンが書けるか」

「…サン?」

「お前に晩さんのサンが書けるか」

「…あっ、これ、みわ、美輪明宏の」

「黙れ小僧!」

「ほらそう、もののけ姫の」

「お前にサンが書けるか」

「サン…?」

「お前に晩さんのサンが書けるか」

「晩さんのサン…?」

「お前に最後の晩さんのサンが書けるか」

「…いやぁ、書け…ないですねぇ」

「書けないとな」

「はい、読めるんですけど、書けないですねぇ」

「読めるのは誰でも読めるだろ小僧!」

そう叱責されたかと思いきや目の前が真っ赤になった。

思わずギュッと目を閉じて生ぬるい液体に包まれながら頭から滑り台を滑り落ちる感覚。

仰向けで着地したが下は良いホテルのベッドくらい柔らかく、くっさいドロドロの液体を手で拭り取ってようやく薄目を開けて、ぐるりと見渡す。

あぁ、なるほどね。

さっきのオオカミに飲み込まれたってこと?

なんで?

〈1〉お兄さんの大好物であるカレーヌードルをオーダー。
(この際、そのループのターン内で事前に大好物を確認していないこと。)

〈2〉もののけ姫の美輪明宏のオオカミがやってくる。(なんで?)

〈3〉晩さんのサンが読めるけど書けないと言うと飲み込まれる。(なんで?)

なんで?

消化液に溶け込みながら、疑問だけが溶け切らなかった。

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