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ダイエットダンス
時差式の信号のある交差点で、車道の信号が赤になった瞬間に決めつけでそそそそとなにをそんなに急ぐことがと小走りで渡っていった女を視界の端に見下し、僕は信号が青に変わるのを待っていた。
信号の奥にある3階建てのボロテナントビルの2階部分の窓に、
ダイ エツ トダ ンス
と張り紙があって、
[ダイ][エツ][トダ][ンス]
と2文字を横向きA2用紙に印刷してある感じ。
紙と紙の間には窓の間仕切りがある。
5秒、ボーッと考えたあと、あー
ダイエットダンス
かぁ、と気付くも、
(ダイエットダンスって何?)
と思っていると青が点滅していることに気付いて慌ててそそそそと小走りで渡る。
渡っている序盤でもう赤だったので、渡り切るのを待たずに車は発進していた。
「集団行動」やないんから、ってくらいのすれ違いっぷりで、僕が急に引き返してたらお前は犯罪者やぞって思った。
自分のことを棚に上げることは大事だと思う。
自分のことを棚に上げることって、人間以外もするんかな?
むしろ棚に上げることしかしてないか。
そんなことないか?
とか思いながら、ダイエットダンスの錆びれた扉を僕はノックしていた。
誰かが開けた様子もなく、劇的ビフォーアフターみたいに勝手に扉が奥方向にすーーっと開いて、SPEEDが全員いた。
あのSPEED。
ゴーゴヘブンのSPEED。
「ゴーゴーヘブン行け行け天国死ねと、小学生に言われるわけですね〜」
と昔オンバトでピン芸人の人が言っていたのがフラッシュバックした。
でもSPEEDなのにみんな将棋をしていた。
1人(SPEEDのファンキーな人)に手招きをされたので近寄って見ると、厳密には将棋ではなかった。
洗濯バサミ。
将棋盤(将棋盤は将棋盤)の上に洗濯バサミがいっぱい置いてある。
洗濯バサミの尖った方を相手に向けて置いてあり、相手の陣地に近いやつらは立てて置いてある。
成ったら立つのか?
手前は黄色、奥は薄緑、といった洗濯バサミの色分けはちゃんとされているっぽい。
で洗濯バサミを進めるときに、進め方はなんか将棋の駒の動きっぽいけどどれも見た目は同じなのでどういう基準でムーブしているのかは全くわからないが、進めたあとに、その洗濯バサミを盤上に置いたまま親指と人差し指で
パクパクパクパクパク
と5回ほど洗濯バサミの口?を開け閉め開け閉めするのである。
「これって、どういう意味があるんですか?」
当時ひときわ高音を歌っていた手前の1人に尋ねると、
「威嚇」
とだけ言われた。
僕はそこで、ああそうか、僕はさっきの交差点で、あの車に轢かれて死んだんかな、という確信に近いものを感じた。
ダイエットダンスはあの世への扉で、だってダイエットってダイとか入ってるし、[ダイ]が1枚の紙に書かれてたのもそういうことじゃないかとも思うし、小さい「ッ」が大きい「ツ」だったことも何か意味があるんじゃないかな?全くわかんないけど。
扉も勝手に開いたし。
さっきまでの世界がウッチャンゾーン、死後の世界がナンチャンゾーンなんだとしたら、きっとここダイエットダンスはナンチャンゾーンに入る前の休憩ゾーンなんだろう。
SPEEDもここ20年くらい見てないし、ここで案内人的な仕事をたぶん裁判員制度的な無作為な選ばれ方でしていたのだと考えると合点がいく。
無作為にしてはグループ単位?とは思うがまぁそういうこともあるのだろう。
「てか誰?帰って」
3mほど先の2人用ソファに寝そべっていた当時リーダーだったSPEEDの人が言ってきたので、
「あ、はい」
と言って開きっぱなしの扉を出て帰った。
普通に生きて帰れて逆に怖くなった。
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