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血尿騒動

 2021年5月4日未明。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

府中市に建立されているマンションの一室に成人男性の叫び声が響き渡った。

赤い。

自分が排泄した液体が赤い・・・

白光りするくらいに磨かれた便器が真っ赤に染まっている。

便器の中にカズレーザーさんが寝そべっているのかと錯覚したほどだ。

特にクイズに答えられそうな雰囲気もなかったので、便器の赤色がカズレーザーさんの赤でないことに気が付いた。

じゃあ、この赤色は一体・・・

時間は深夜の4時。

人間が排泄行為をする時間として適切かどうか怪しい時間だ。


排泄した液体が赤い時間帯として一番怖いのがこの朝四時だ。


パニックになった私は急いで排泄物を水に流した。


「尿が赤い・・・??」

医者に聞くまでもなく、ネットで検索するまでもなく

「良くないこと」であることは分かった。

尿が赤いのだ。

良いわけがない。

自分の中で仮説を立てた。

「尿の中には少なからず血液が混ざっている。たまたま今回出た尿が血液量が多かっただけ・・・」

しかし、この希望的な仮説でも「血液量が多い」ところにかなりの問題を感じずにはいられない。

ベッドで一度、自分のオチンちゃんを見つめてみる。

かなり体調が悪そうだ。

ぐったりして物凄く小さく縮んでいる。

なにかに怯えているようだ。

いつもはあんなにイキイキとしてるのに・・・


無茶苦茶怖かったけどネットで調べてみることにした。

検索ワードは「血尿 即死」

最悪なケースから調べるのがセオリーであると思ったから。

正直、即死を連想させる病名が出てこないと高を括ってた。

しかし、出てきたのは「癌」の文字であった。

末期の癌患者の症状の中に血尿が含まれているという記事であった。

んーーー。

でも癌が知らない間に進行してきている場合にもある。

自覚した時には末期だったという話もドラマで見たことがある。

俺は癌なのか・・・

さらに検索をかけてみる

「血尿 心配いらない」で調べる。

【無害な血尿】を探し求める旅が始まった。

調べていくと血尿が示す病気には様々な種類があった。

「膀胱炎」「尿路結石」「糸球体腎炎」そして・・・

「膀胱がん」だった。

残念ながら心配の要らない血尿はなかった。

様々な特徴があった。

そしてこの病気の中で私の尿の色と排尿時の特徴(特に痛みがない)に当てはまるのは・・・


「膀胱がん」だった・・・



絵に描いたように布団にくるまって寝た。

とても寝られる心境ではなかったが無理矢理寝た。

明日の朝、おしっこが赤かったら・・・

そんなことを考えると、股間が激しく痛むような、不思議な感覚になった。



11時に起きる予定だったのに9時に起きた。

事象だけで言ったら遠足の時みたいな早起き。

心境は死刑執行前のような気持ちであるが。


あまり尿意を感じていない。

いつもだったら起きてすぐ尿意を感じるのに・・・

こんな些細ではあるが、普段との違いを敏感に感じ取る。

いつもだったら起きてすぐに国産野菜の錠剤を服用するのだが

なんかそれも体に悪い気がして、なにも摂らずに尿意がくることを待った。


起床してから1時間が経った。

やってきたのは尿意ではなく、便意だった。

しかしこれは思ってもない誤算だった。

便が出るときは尿も出る!!

ギリシャ神話かなにかで得た知識だ。

これは尿にご挨拶できる絶好のチャンス。

「いでよ!!!黄色い尿!!!!」

便をしてからほどなくして放尿。

その色は・・・・


赤かった。


なんかこう・・・誤った感情によってスカルグレイモンに進化してしまった時のような絶望感。

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(アニメ「デジモンアドベンチャー」にて主人公の暴走した感情により外見も精神も醜い者へと進化してしまったスカルグレイモン)


2回も血が出た。。。


私はまず親に連絡をした。

「血尿が出た・・・」


母親の表情は見て取れた。

私の家庭はここまで決して「健康的な家庭」ではなかった。

父親は慢性的な病気を患い、母親は私が高校の時に大きめの病気をした。

あと最近、長女が指を切った。

そんな災難続きの我が家、次の標的は長男である佐野寛だったのか・・・

そんな絶望感が電話越しに伝わってきた。

「病院に行くように」

親からの助言はシンプルながらも核心を突くものであった。


近くの大きい病院に電話する。

「本日休日ですので泌尿器科はお休みです・・・緊急外来で専門医ではない医者が診るのでもよろしいなら・・・」

病院からの条件は果たして吞んでもいいものなのか判別ができなかった。

今すぐ診てほしい、しかし専門医じゃない人で大丈夫なのか・・・・?

本当に感覚でしかないのだが

「泌尿器については泌尿器科専門医じゃないと分からない」

という偏見がある。

なんかこう・・・外来というものがスポーツ選手であるとするならば

整形外科が陸上選手、皮膚科がサッカー選手的な。

なんかそこらへんはお互いにサッカーしてもそこそこできるし陸上競技を急にやらせても割と形になる感じがするが


泌尿器科はフェンシング選手的な感じが受け取れる。

なんかより一層専門性が高いというか・・・

他のスポーツに応用が利かなそうな気がするというか・・・

泌尿器科とフェンシング選手を敵に回すようなこと言ってすみません。無茶苦茶偏見です。


ということで専門医じゃないとなぁ・・・という思いから

「あ、じゃあ大丈夫です」と電話を切ってしまった。

今もしドラえもんが目の間に現れたら、もしもボックスを借りて

「もしも!!この世の人間全員が泌尿器科の専門医になったら!」とコールして、最寄りの人間に診てもらいたいところだ。

しかし生憎、目の前にドラえもんが表れることはなく・・・

親からのラインを見ると3件ほどのメッセージ。

全て、泌尿器科がご存命の病院の情報であった。

その中の一つに親の友達がお世話になった病院があった。

「そこにかけてみよう」

病院からは「緊急外来は現在3時間待ちですが大丈夫ですか?」と確認された。

3時間・・・身体よ持ってくれ!!!

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親にも相談した。病院にも連絡をした。

診察まで3時間ある。

少しだけ、一呼吸だけベッドに横になってから病院に行くことにした。

横になるとなんだか涙が止まらなくなった。

小さい頃から好きに生きてきた。

そこまで言われた記憶もないが、親からの「勉強しろ」の言葉を無視して

自分の夢中になれるものに一生懸命時間を使ってきた。

お笑いもそうだ。

ずっと好きだった、好きだからこそ中々踏み込めなくて

23歳春にやっと養成所に行くことができた。

もちろん思うように活動することはできていないが

ライブやYouTubeで現状叩きだせる結果は出して、それなりに悦びも得た。

もちろんまだまだこれからって思いで胸がいっぱいだった。

まだまだ好きな人ができて、いろんな楽しい思い出を作れると思ってた。

親にも一切と言っていいほど恩返しができていない。

恩返しどころか、言うことを一切聞かない子供に対しての最後のお願いである「健康でいるように」すら守れない危機に瀕している。

ずっと応援してくれている友達にも、活躍している場面なんかこれっぽちも見せていない。

こんなことに思いを馳せていたらなんだか涙が止まらなくなってきた。

徐々に。

ゆっくりと「病」という言葉が脳内を占め、涙によって様々な感情が外へ押し出される。

全ての涙を出し切ったとき、私の脳内は「病」に侵され、一切の感情の余裕がなくなった。



相方になんて言おう・・・

なんだかんだ一番慎重になってしまう相手だ。

コロナ禍でライブがないとは言え、賞レースに向けて相方とは四苦八苦している現在。

やっと少し何かを掴みかけている感覚もある今、このことをどう伝えるべきか・・・

気づいたら相方に電話していた。

この日、相方とはネタ合わせをする予定があった。

今から病院に行くとなれば当然ネタ合わせの時間にも支障が出てくる。

故に、連絡は必須。

3コールくらいで相方は電話に出た。

「全然、落ち着いて聞いてほしいですけど・・・」

ひとしきり泣いた後の自分は恐ろしく冷静だった。

赤い尿が出たこと、ネットで調べたらそれが病気の合図であること、今から病院に行くこと、ということなのでネタ合わせの時間を遅らせてほしいと。

「いや、遅らせるだけでいいんかい!!!!」


え?カメラ入ってる?と疑いたくなるくらいにきれいなツッコミが炸裂した。

この人が相方でよかった・・・こんな時にこんな感情になるとは・・・


相方は少し驚いていたが状況を飲み込み、結果が分かり次第連絡するということで手を打った。


病院へ行った。

受付に行くとまずその病院の診察券を作ることになった。

親の連絡先を書く欄がある。

きっと重い病状だったら私よりも先に親に連絡がいくケースもあるのだろう。

診察券が発行されると次は看護師さんによる軽い診察があった。

看「血尿が出たのはいつ頃ですか??」

寛「早朝です・・・」

看「その時は排尿だけでしたか?便は出しませんでしたか?」

寛「あ、いや。便も出しました。」

看「便が赤かったわけではなく尿が赤かったと?」

寛「はい。切れ痔ではあるんですけどその血でなかったと・・・」

看「腰が痛いとかの症状は??」

寛「ありません」

看護師は一通り質問を終えると「あとは呼び出されるのをお待ちください」と言い残し、その場を去った。

看護師さんとの質疑応答で自分が切れ痔持ちであることを再認識した。

でもあの血はきっと尿だ。

過去の切れ痔による出血とは様子が明らかに違った。

現に排尿だけをした時も尿の色はいつもと確実に違った。

そんなことを考えていると一人の高齢の男性が、同じく高齢の男性を引き連れて受付にやってきた。

連れられて来た男性をよく見ると首から出血しているではないか!!

「みんな色んなところから血を出して生きてるんだ・・・」


それから呼び出しを待つ間、好きな音楽やラジオで時間を埋めた。

『なにも感じない』

感じるのは闘病生活が近づいているという恐怖のみ。

普段あんなにも生活を彩ってくれてるエンタメが病気を前にして無惨にも倒れていく様は

アオキジ相手にルフィ、ゾロ、サンジが立て続けに倒された時の絶望感に酷似していた。


二時間ほど待つと呼び出しがかかった。

呼ばれたかったような、呼ばれたくなかったような・・・


指示された部屋にいたのは落ち着いた男性医だった。

体重の変化、体のむくみ、今叩いたところに痛みがあったか。

男性は淡々と症状を確認していく。

そしてまたあの質問だ。

「尿が赤かったんですか??便が赤かったんじゃなくて??」

どうやらこの病気の焦点はなにが赤いかに集中しているようだ。

「すみません、僕、切れ痔もあるんです。

でもいつもの切れ痔の時と様子が違くて・・・」

医者の眉毛が動いたのが見えた。

「ではお尻の方も見てみますか。」

え??

なに??お尻を見るって。

横になってパンツを脱ぐように指示された私は

お医者さん相手に肛門様を見せびらかすことになった。

そしてお医者さんは私の肛門に・・・

「ヴッ!!!」

自分でも驚くような声が出た。

確実に人生で感じたことない感覚。

これが・・・新世界・・・・


血尿の相談で私のアニャル様がこんな目に合うとは思わなかったが

「うん、お尻に問題はありません」の声を聴いて一瞬安心した。

一瞬だ。

なぜなら、問題がお尻にないということはやはり、尿の色がおかしいということが浮き彫りになったから。

お尻に絶大な違和感を感じながら、次は尿検査をすることになった。

朝以来の尿。

次はどんな色をしてるのだろう・・・


恐る恐る渡された容器に尿を注ぐ。

恐怖感からか、全然出なかったが

病気かもしれない膀胱を振り絞って尿を出した。

やはり色がおかしい。

思ってたより血感はないが、赤褐色といった感じの色合いだ。

提出してから1時間ほどたってまた呼び出された

尿検査の結果が出た。


お医者さんは神妙な顔でパソコン画面を見ている。

「あの~、まず検査結果から言いますと・・・」


(さっそく?!???)

「はい・・・」


「尿検査の結果、考えられるのは・・・・」





「脱水症状です」








「ダッスイショウジョウ??」


なに、ダッスイショウジョウって。

医学用語で「膀胱がん」を意味する言葉??

パソコン画面を見せてもらう。

「脱水症状」の文字。

なんだ・・・脱水症状か。

ん??なんで脱水症状??


私が調べた限り、自分の症状が脱水症状のそれであるという可能性はなかったはず。。。

医者によると

「脱水状態だと非常に濃い色の尿が出る。それが赤褐色やオレンジ色に見えて血尿だと判断されてと思います。」

切れ痔の血と濃い色の尿が混ざって鮮やかな血尿に見えたということか・・・???


「あの~、膀胱がんの可能性は・・・??」

この質問に対して医者は食い気味に鼻で笑った。

「可能性はありません。潜血の数値を見てください。0です。

腫瘍があれば必ず潜血が混じります。あと癌だったら浮腫み、体重の異常な減が見られます。年齢的にも0パーではありませんが、基本はもっと上の年齢の方の病気なので・・・」

膝から崩れ落ちそうになった。

医者からは水分をよく摂るようにというアドバイスのみで特に処方薬もなかった。


病院を後にして母親に連絡をした。

「残りの貯金を計算してあなたの治療費に使う準備をしていた」と。


相方にも連絡した。ネタ合わせの時間は予定よりも3時間遅れたがなんとか間に合った。


時間にしたら5時間ほどの闘い。

しかしこの5時間が数週間に感じた。

24時間テレビのドラマの主人公になった気分だった。

もっといろんな感情に素直になるべきだと痛感した。



これが血尿騒動の全てである。

今ある命を大切にして、今いる周りの人間を最大限に愛そうと。

そう決めた今回の騒動でした。

お騒がせしてすみません。

これからもよろしくお願いします。


ちなみに血尿が出てすぐに芸人友達の久野君に連絡をしたらお大事にスタンプと競馬のメインレースの馬券を買うかどうかの返信がきました。

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みなさんからのサポートで自分磨いて幸せ掴むぞ♪