北東北の陸上自衛隊カレー食べ比べ
北東北にも梅雨が到来し、今年もまた一段と蒸し暑い日々が続いている。
食欲が落ちるこの時期だからこそ、スパイシーなものが食べたくなる。そして、スパイシーな料理の代表格といえばカレーだろう。
そして日本でカレーといえば、この組織のことを忘れてはいけない。そう、自衛隊だ。
ご存知の方も多いと思われるが陸上自衛隊や海上自衛隊では各駐屯地や部隊、護衛艦毎のカレーレシピを公開している。
今回は上記サイトにあるレシピを参考に、北東北にある陸上自衛隊の駐屯地のレシピを再現した。
なお、ベースとなるルーは基本的にバーモンドカレーの中辛に使用している。
理由は日本食糧新聞の調べの2023年1月から同年6月までのPOSデータを参考にした「カレールー・カレー粉」カテゴリの売れ筋調査で、一番売れているのがこれという情報があったからだ。
一般家庭向けのレシピと思われることから、一番一般家庭で消費されているルーを選定した。
なお参考までにバーモンドカレーの箱裏に記載がある1皿分のルーと具材はおおむね以下の通りだ。
カレールー 20g
肉 40g
タマネギ 65g
ジャガイモ 40g
ニンジン 15g
これを基準に、カレールー、肉、タマネギ、ジャガイモ、ニンジンについては横に基準の何倍か記載している。
具材の量の目安にしてほしい。
秋田駐屯地「ハムエッグフライカレー」
秋田県でも秋田市に隣接する由利本荘市周辺ではいわゆるハムカツを「ハムフライ」と呼称し地元の名物となっている。このハムフライは分厚いプレスハムを使った食べ応えのある食感が特徴だ。
恐らくこのハムエッグフライもその辺りから拾ったネタだと思う。もしかしたら塩分量の問題で分厚いハムフライが使えず、同じく食べ応えのあるハムのフライとしてハムエッグフライで代用されているのかもしれない。
ハムエッグフライについては聞き覚えがなかったが、どうやら昭和の時代は定番の惣菜の1つだったらしい。調べてみると現在でも様々なメーカーから揚げるだけで完成する冷凍食品が販売されているようだ。画像を見たところ、自衛隊で食べられているのも冷凍品を揚げたもののように見える。しかし販売されているのは業務用のかなり量が多いものばかりで、惣菜としても近所のスーパーや肉屋で見つけられなかったことなどから、今回は家にあったハムと卵で自作した。
【材料】
ごはん 1人前
ハムエッグフライ 1個
豚肉 30g (0.8倍)
タマネギ 80g (1.2倍)
ニンジン 30g (2倍)
マッシュルーム缶 20g
カレールウ 25g (1.3倍)
おろしショウガ 適宜
ニンニク 適宜
サラダ油 適宜
バター 適宜
牛乳 適宜
カレー粉 1g
【作り方】
具材を食べやすい大きさにカットする。
タマネギをバターで飴色になるまで炒めたらその他具材を入れて煮込み、柔らかくなったらルー、調味料を入れて味を調える。
ハムエッグフライを揚げる
さらにご飯、カレーを盛り最後に半分に切ったハムエッグフライを乗せ完成
トッピングのハムエッグフライの他はオーソドックスなカレーだ。隠し味もカレー粉とニンニクと生姜程度、普段は市販のルーのパッケージの記載通り作っている身からするとかなり安心感がある。
具材量については肉の量が数値上は控えめになっているが、ハムエッグフライをトッピングしているので実際のたんぱく質量は十分だろう。
強いていうならばマッシュルームが気になる。確かにレストランなどで入っているのを目にすることはあるが、普段マッシュルームは入れない身からすると入れることに意味はあるのかと思ってしまう。
なお、豚肉については指定がなく写真を見てもどの肉かは確認できなかったので、とりあえず安価な切り落とし肉を使用した。
ジャガイモがないこととカレー粉などのスパイスが追加されているおかげで、中辛単体よりもスパイシーさが増しているのだがこれがまた食欲をそそる。
タマネギをしっかり炒めるのがやや手間であったが、甘く柔らかく香ばしい狐色のタマネギはカレーの中でもしっかりと存在感を発揮している。手間をかけただけある。
ただ正直、マッシュルームについてはあまり特徴を感じられない。食感だけの食べ物だ。ただマッシュルームの食物繊維量は100gあたり3.2gとそこそこだ。もしかしたら味を大きく変えず栄養バランスを整えるために入っているのかもしれない。
そして謎のフライだったハムエッグフライ、これがなかなか美味しい。
卵とカレー、フライとカレーの組み合わせは定番だが、ハムとカレーの組み合わせは懸念があった。
しかし味が強く噛み応えのあるハムはスパイシーなカレーと思った以上に相性が良い。具材の豚肉とはまた違った存在感がある。正直トンカツよりもハムカツの方が実はカレーのトッピングに合うのでは無いかと思った。
ハムエッグフライ自体を作ることは結構めんどくさかったのでまた作るか、と言われればやらないと思うが、惣菜として売られているのを見たら選択肢には入るだろう。
青森駐屯地「シーフードカレー」
青森市が面する陸奥湾はホタテの養殖、太平洋と日本海のぶつかり合う津軽海峡は大間のマグロで有名。日本海と太平洋に囲まれた青森県の県庁所在地の青森市。豊かな海産物をふんだんに使ったシーフードカレーは青森駐屯地らしいカレーだろう。
因みに北東北3県の防衛を行っている第9師団だが、その本部があるのがこの青森駐屯地だそうだ。
【材料】
精米 112g
むきえび 50g
あさりむき身 30g
ジャガイモ 50g (1.3倍)
ニンジン 40g (2.7倍)
こんにゃくごはん 28g
輪切りいか 30g
ボイル帆立 20g
タマネギ 100g (1.6倍)
カレールー (2〜3種類合わせて) 28g (1.4倍)
カレー粉、ピーナツバター、スキムミルク、はちみつ、カルピス、アップルソース 適宜
福神漬け・らっきょうづけ 適宜
【作り方】
ごはんはこんにゃくごはんをいれて炊飯しておく。
魚介類は下茹でしておく
野菜類はカレー用にカットする
野菜を煮込みカレールーで味付けし、魚介類を入れて更に煮込む。その他調味料で味を整える。
盛り付けする。
香味野菜の量が多いことも気になるが、まず何より隠し味の多彩さが目を引く。
なお、聞きなれないアップルソースはすりおろしたリンゴを煮詰めたものらしい。砂糖の入っていないジャムのようなもので、ソースなどに使うらしい。
市販品もあるようだが、売られているものは見ると結構な量で正直使い切れる自信がない。また、市販品と自作品でそこまで極端に味が変わりそうになかったので、今回はリンゴから自作した。
ただ紅玉 (加熱調理に向いた酸味の強いリンゴの品種)が見つからず、ふじ (生食用の一般的なリンゴの品種)しかなかったので、煮詰める際にレモン汁を少し入れた。
改めてみるとこれだけの種類の隠し味を「適宜」というこちらに委ね切った分量で入れることに対するプレッシャーがすごい。
ただ、エビや白身魚などの魚介系のカレーにココナッツミルクが合うことを考えると、ピーナツバターにアップルソースやカルピスやスキムミルクなどを加えることでココナッツミルク系統の味になることを目指しているのかもしれない。だとするとしっかり入れた方がいいのだろうか。
これら隠し味の分量はインターネットで調べたレシピを参考に1人あたりの分量ではカレー粉は1g、ピーナツバターは小さじ1、スキムミルクは大さじ1、はちみつは小さじ1/3、カルピスは10ml、アップルソースはリンゴ1個分を加えた。正直一番どうなるかわからないカルピスの量にビビっているが、これでもカルピス公式サイトに書かれている隠し味としてのカルピスの量に対しては控えめにしたつもりだ。
ちなみに蜂蜜をカレーに入れる先は、ルーを入れる前の具材を煮込む段階で入れるとカレーがシャバシャバにならないのだが今回はレシピに準拠しルーの後に加えた。
思えば、秋田駐屯地のカレーはカレー粉を追加する程度、かつ具材も豚肉というかなりベーシックなものだった。
しかし青森駐屯地のカレーはシーフードというやや変化球気味な具材に対して、カルピスやピーナツバターというカレーの隠し味として意図は何となく分かるものの同じく変化球なものを加える。正直どうなるか分からない。
なお、ルーは2〜3種類混ぜるとのことだが、今回はバーモンドカレーと前述した直火焼きリンゴカレーを1対1の割合で混ぜた。
こんにゃくごはんについては複数のそれらしい商品があったが、一番メジャーと思われるマンナンヒカリを使用した。
スーパーなどではよく見るが、食べるのは今回初めてだ。
また、2〜3種類のルーを混ぜるとの指定があるが、このルーについては前述したバーモンドカレーの中辛に岩木屋の直火焼きりんごカレールーを1:1の割合で混ぜることにした。
理由は後述する弘前駐屯地のカレーの材料に指定されているので買っていたカレールーだからだ。
つまり家にたまたまあったから入れたというやや消極的な理由なのだが、正直隠し味が色々入りすぎていてルーによる影響をあまり想像できず、真面目に選定して後に半端に余らせてしまう方が嫌だな、と思ってしまった。
正直味見の時点ではカルピスの主張が強く、やたら甘さが来る。これだけの種類の隠し味を入れるのだから控えめにするべきだったかという後悔に苛まれるが手遅れだ。
本当に大丈夫なのか、そう思いながらもとりあえずご飯にかけて食べてみる。
えっ、美味しいぞこれは。
不思議なことに、ルー単体で食べた時は失敗かに思えたにも関わらずご飯に乗せた瞬間に突然味が調和した。
インド風の本格カレーを食べやすくしつつ、シーフードに合うようにフルーティーなまろやかさやピーナッツの香ばしさが出つつも、インド風の本格カレーよりも食べやすい。そういったバランスのカレーが本当に出来た。家のルーでこんなのができるのか。強いて言うならばピーナツバターの主張が思っていた以上に強いので、もう少し控えめにすればなおよかったかもしれない。
ただ、材料を揃える手間に見合うだけの味か?と言われれば、味に対して手間が勝る気もする。家に材料が揃っているならシーフードカレーを作る際に試してみるのもいいかもしれないが、わざわざ買うほどではないというのが率直な意見だ。
そして気になっていたマンナンヒカリだがパッケージ裏の推奨使用比率が米 :マンナンヒカリで2 :1または3 :1のところをレシピに従って4 :1で作ったためか、全くと言っていいほど違和感がない。強いて言うなら若干パサつく、というかぱらりとした仕上がりになるのだが、これがかえってカレーと相性が良い。
カレーだけでなく米単体でも、味については少なくとも自分は判別できる自信がない。麦ご飯などの雑穀混ぜご飯は時間が経つと独特の色や臭いが出てきてしまうものだが、時間が経っても変化しないのが嬉しい。雑穀などと比べると値段は張るが、スーパーに行けば大抵売られている理由がわかった気がする。
青森県・八戸駐屯地「スープカレー」
なんで青森なのにスープカレーなんだと思うだろう。正直自分も思った。
とはいえ、八戸と北海道はそれなりに交流が盛んだ。八戸港のフェリーターミナルからは苫小牧行きのフェリーが出ており、札幌とともに観光するというツアーも多い。また、青森県の八戸周辺から岩手県北部にかけてはブロイラーの生産が非常に盛んだ。この2つの点から、スープカレーが選定されたのかもしれない。
【材料】
鶏手羽元 160g (4倍)
白胡椒 0.1g
塩 0.1g
カレー粉 1g
ピーマン 15g
ジャガイモ 100g (2.5倍)
ニンジン 50g (3.3倍)
揚げ油 150g
ゆで卵 1個
スープカレー (マイルド味) 180g
【レシピ】
手羽元に白胡椒、塩、カレー粉をまぶし味をなじませる。これを240℃で焼いたオーブンで焼く。(肉汁は取っておく)
ピーマンは乱切り、ジャガイモは皮をつけたまま半分に切りニンジンは乱切りにする。
2を油で揚げる。
スープカレーに1の肉汁を加えて加熱する。温めながらゆで卵を入れて味をなじませる。
皿に全てを盛り付けて完成。
材料の「スープカレー (マイルド味)」が目を引く。
多くの人は何を指していると思うかもしれないが、この分量と名称で分かる人には指しているのか分かる。
おそらくこれは、北海道民なら知らぬものはいないであろうベル食品のスープカレーの素だ。1つ180gで、複数展開されている味の1つにマイルドがある。自衛隊の立場上、特定企業の商品の名称を出すことができずこういった表記になったのだと思う。
ただこのスープカレーの素、自分が知る限り八戸市内 (どころか北東北)で販売されている店舗の話は聞いた覚えがない。それどころかネット通販でも取り扱っている店舗が見当たらない。
今回はたまたま身内が北海道に行く機会があったのでそのお土産として買ってきてもらったのだが、どこかに常時販売している店舗があるのだろうか。
このカレー、美味しすぎて正直かなり驚いた。ペーストタイプのルーだからなのか、スパイスの香りがどこかフレッシュで非常に複雑かつ深みがある。口に運ぶと美味いラーメン屋のスープのように出汁の風味と旨みが濃厚ながらも、先述したスパイスの爽やかさのおかげでどんどん食べ進められる。
北海道で何度かスープカレーを食べたが、その中でも確実に上位に食い込む味だ。というかこの値段で、しかも家で食べられるとなると総合的には優勝だと思う。自分や周りの人が北海道に行く機会があったら確実にまた買ってくるかリクエストしよう。なんなら大量に買って周りの人に配りたいくらいだ。
ただ正直なところ、これを八戸駐屯地のカレーの味と言われると釈然としない部分を感じないこともない。何せほぼベル食品のスープカレーの味なのだ。
しかしこのスープカレーの味が完成されすぎてしまっており、下手にいじらないことが最適解だろう。更に大量の人々に作るとなると、こういったレトルト品を活用することも正解だ。そういう意味ではこのカレー、一番リアルな自衛隊カレーなのかもしれない。
また、正直ブロイラーといえど塩コショウとカレー粉で下味をつけただけの手羽元を焼いたものは流石に食べにくい。自分はこういった骨から肉を歯でこそげ取りながら食べるタイプの肉は好きなのだが、少なくとも誰かに食べさせるには躊躇する。焼く前には生玉ねぎや舞茸などに漬けて柔らかくしたり、いっそ焼くのではなく煮込むなどの改良の余地を感じた。
青森県・弘前駐屯地「ハムチーズカツカレー」
まさかの秋田とハムカツ被り。
弘前に数年間住んでいた知り合いに聞くなどもして調べたのだが、結局弘前市とチーズやハムとの関係性が見えてこなかった。
とはいえ、ハムカツとカレーの相性の良さは秋田のハムエッグフライカレーで証明済み。かなり期待の持てるカレーだ。
【材料】
ごはん 1人前
ハムチーズカツ 1個
サラダ油 適量
豚肉 30g (0.8倍)
タマネギ 75g (1.2倍)
ニンジン 40g (2.7倍)
ジャガイモ 80g (2倍)
ショウガ・ニンニク 適量
サラダ油 適量
マーガリン 適量
カレー粉 1g
(以下 A)
カレールウ 20g
りんごカレールー 10g (計1.5倍)
カレーペースト 1g
アップルソース 10g
牛乳 10g
ソース 10g
(以上 A)
【作り方】
カレーの具材を食べやすい大きさにカットする。
鍋に油・マーガリンを熱し、ショウガ・ニンニクを炒め、香りが立ったらカレー粉、1の具材を加えて炒める。
2に水を入れ、アクを取りながら煮込み、Aを加え、じっくり煮込む。
ハムチーズカツを揚げる。
お皿にご飯、ハムチーズカツ、カレーを盛り付けたら出来上がり。
これを作るに当たり、気になったのがカレーペーストだ。
スーパーなどの店頭でカレーペーストで探すと、見つかるものの多くはタイカレーなどの東南アジアや南アジアのカレーを作るためのものとして売られている商品だ。
ただし調べてみると一方で、下記商品のように欧風カレーのカレーペーストというものも存在している。
どちらを使うか迷ったが、今回は雰囲気的に欧風カレーペーストの方が合いそうなので上記の欧風カカレーペーストを使用した。
そしてりんごカレーについては岩木屋のりんごカレールーを使用した。青森でりんごカレールーといえばおそらくフレーク状のこれのことだろう。
食べてみると思っていた以上にリンゴのフルーティさが強い。
元々リンゴ入りを強調しているバーモンドカレーとりんごカレールーと言えことに加えて、それなりの量のアップルソースが入っていること、更に青森駐屯地のシーフードカレーのように他の調味料も様々入っていたり具材も香りの主張が強くなかったりという影響もあるらしく、かなりしっかりとリンゴが主張している。
とは言えゲテモノかというとそうではなく、きちんと米に合う範囲に収まっている。決して甘ったるさはなく、あくまでスパイスの1つとしてリンゴが存在しているといった印象だ。
ハムチーズカツの理由は「美味しいから」自力で答えを見つけることができなかったが、リンゴの生産が盛んな津軽らしい個性と味を両立したご当地カレーだ。個人的にはまさにこういうものを求めていた。
岩手駐屯地「牛すじカレー」
最後を飾るのは岩手駐屯地のカレー。なんでも第9師団でも戦車などは主にここにあるらしい。
岩手といえば牛。これは確かに納得だ。以前紹介した牛の博物館とそこに縁深い前沢牛のある奥州市や、小岩井乳業がある雫石町、岩泉ヨーグルトで有名な岩泉町など岩手県では誇りと言えるような肉牛や乳牛を様々な場所で飼育している。
これは文句なし、かつ絶対に間違いのない選定だ。
【材料】
麦ご飯 290g
おろしニンニク 1g
赤ワイン 5g
ジャガイモ 90g (2.3倍)
カレールー 25g (1.3倍)
チャッツネ 2g
カレー粉 1g
サラダ油 2g
ボイル牛すじ 100g (2.5倍)
タマネギ 30g (0.5倍)
ニンジン 30g (2倍)
ウスターソース 1g
牛乳 5g
こしょう 0.02g
【作り方】
牛すじは下茹でした後、水でアクを洗い流す。
タマネギ、ジャガイモ、ニンジンは1口大にカットする。
鍋にサラダ油を熱し、タマネギを焦げないように甘味が出るまで炒める。ジャガイモとニンジンを加えて更に炒めた後、水と1の牛すじを加える。
沸騰したら中火にして、野菜が柔らかくなるまで煮る。
野菜が煮えたら弱火にして、カレールー、ソース、チャツネ、カレー粉、牛乳、胡椒で味を整える。
どうしよう、思ってた以上に具材の量がわんぱくすぎる。
ニンジンは2倍、ジャガイモは2.25倍、肉に至っては牛すじであるため溶けたり縮んだりすることも考慮されているのかもしれないが、その量はなんとパッケージ裏の記載の2.5倍である。本当に人間用なのか、戦車用の間違いではないのか。これが県として最大の面積を誇る岩手県の力の源なのか。
唯一ナーフされているのはタマネギの量だが、他の具材が多すぎて大した問題ではない。
味についてはもう、こんなの美味いに決まっている。
自分はこういった家庭のカレーに対しては特別な日の料理というよりは日常の料理、ハレとケで言えばケ寄りの料理だと認識している。しかしこのカレーは間違いなくご馳走だ。
まず何よりたっぷり入った牛すじの旨みがすごい。これだけ入っているのだから当たり前なのだが、ルー全体が猛烈な牛のパワーで満ちている。それをいなすのが同じくたっぷり入ったニンジン。あまりのパワーに一歩間違えば牛独特の臭みが強調され得ないパワフルな香りを、同じく個性的な自身の香りでまるで闘牛士の如く見事に制御する。ニンジンが赤いのはこのためだったのか、は冗談としてもニンジンが香味野菜であるということを改めて自覚させてくれる。ジャガイモも牛の旨みを吸うとともに、たっぷりの牛すじでとろっとろの具材の食感の中にほっくりとした輪郭を与えてくれる。対してタマネギの役目はあくまでも旨味の増強。しっかりと炒めたことで比較的少量ながらもしっかりと味に深みを出している。
これらの具材の四重奏に赤ワインやチャツネといった名脇役が加わり、私の調理が雑なせいで見た目は悪くなってしまったが味はレストラン並だ。それこそグレイビーボートに入れて提供されるような代物だろう。材料費も相応になったが、特別な日のご馳走にふさわしい、そんなカレーだ。
感想
単純な美味しさだけでいうならば、岩手駐屯地の牛すじカレーが圧倒的に感じたが、コスパや作りやすさを含めれば八戸駐屯地のスープカレーに軍配が上がる。ご当地カレーとして見れば弘前駐屯地のカレーが求めていたものに近いが、今後試してみたいのは秋田駐屯地のようなハムカツトッピングや青森駐屯地の隠し味だ。
月並みな感想になってしまうが、みんな違ってみんな良いという言葉が出てきてしまう。
以前に読み比べた県民手帳の時にも思ったが、同じものを作るからこそそれぞれの個性が如実に現れることが改めてわかった。
また、面白かったのが八戸駐屯地と弘前駐屯地のスタンスの違いだ。前者はまさに手軽かつ美味しい実際基地内で食べられているところがありありと想像できるカレー、後者は弘前らしさを前面に出した個性的なカレーだ。
青森県は八戸市を中心とした南部地方、弘前市を中心とした津軽地方、むつ市を中心とした下北地方に分かれており、中でも南部地方と津軽地方の不仲は有名だ。流石に最近は敵対心を剥き出しにする人はごく僅かになってこといるが、同じテーマを前にした時に全く別のアプローチのものを持ってくるあたり「そりゃ仲悪いだろうな」となんとなく納得してしまう。
7月も半ば、暑さも本格的になり今年も長い夏が始まる。
スパイシーな味わいが欲しくなった時の選択肢として、当ブログが参考になれば幸いだ。あるいは、あなたの住む地域の自衛隊カレーを作ってみるのもいいかもしれない。