【秋田県仙北市】辰年の八幡平ドラゴンアイこと鏡沼と、新玉川温泉に行ってきた
秋田県と岩手県の北部にまたがる八幡平。日本百名山の1つにも数えられ、夏は登山客、冬はスキーヤーで賑わい四季折々の姿を見せるこの山は北東北の誇るリゾート地の1つだ。
そんな八幡平の山頂近くには、近年になってドラゴンアイとして知名度を大きく高め、一躍観光名所へと上り詰めた場所がある。
ドラゴンアイの正式名称は鏡沼。
夏には青く美しい姿を見せるが、冬になると八幡平の深雪に完全に埋まってしまう沼だ。
この沼が毎年5月の中頃から6月の初めにかけてごく短い期間の間に見せる、真っ白い雪の上で青く輝く同心円状の雪解け水の形状が「本州を龍に見立てた時の位置といい、まるで龍の瞳のようだ」と、近年外国人観光客の間で話題になった。
元々地元では知る人ぞ知るスポットだったようだが、そこから八幡平の観光地として積極的にアピールするようになり、今では北東北の有名観光地の1つにもなっている。
しかしドラゴンアイを見ることができる期間は毎年2週間程度と限られている上に、具体的な時期は気温や降雪量によりまちまちだ。例えば2023年は6月上旬に「開眼」したのに対して、2024年は5月半ばと年によりかなりのズレがある。
近年は毎年周辺地域の観光局などが情報発信をしているために近隣地域からならタイミングを見計らっていくことは比較的容易であるが、事前に宿泊先や交通手段を確保して遠方から観に来るとなると、かなり運任せの部分が大きい。
そんな鏡沼があるのは前述した通り八幡平の頂上のすぐそば。八幡平山頂駐車場から徒歩で向かうことになる。
八幡平山頂駐車場があるのは、毎年4月半ばの通行解禁時には「雪の回廊」で知られる八幡平アスピーテラインのほぼ中央。駐車場に停める際に支払う500円が事実上の入山料だ。
なお八幡平アスピーテラインは、開通後もしばらくは夜間通行止めが続く。
先日写真家の上田孔希氏がオーロラとドラゴンアイの同時撮影に成功していたが、上田氏はこの撮影のために日中に現地入りをして車中泊をしていたという。
駐車場周辺は売店や食堂などが併設された八幡平山頂レストハウスや、携行食の販売や一部の登山道具の貸し出しなどを行なっている八幡平パークサービスセンターがある。
さて、秋田県の観光サイトにも注意書きがあるが、ドラゴンアイ開眼時期の鏡沼までの道中は途中に深い雪道が多く残った山道だ。
距離そのものは往復30分程度で行ける程度で高低差も小さいとはいえ、雪道は多くの観光客で踏み固められた圧雪の上に雪解けによりシャーベット上になった部分が乗っている状態だ。しかも斜面も多く、雪道慣れしている人でも滑ったり脚を取られたりしやすい。
秋田県のサイトでは「長靴や滑りにくい靴」が推奨されているが、これは推奨というよりも前提だと思った方がいい。
そして当然ながら、自撮り棒や手提げバッグなど転倒時に両手をつけないような荷物を持って登ると危険だ。道中を撮影したい場合は、首から下げるタイプのカメラを使おう。
また、登っている人のうち慣れていると思わしき人の殆どはトレッキングポールを使っている。これがあるのとないのとでは疲労感が大きく違うので、登る際は持ち込むかパークサービスセンターで借りることを強く推奨する。
これらを守れば平均的な体力と身体機能を有する成人であれば問題なく鏡沼にいくことはできると思うが、山頂ということで気温が低いことも忘れてはいけない。
一般的に山の標高が100m上がるごとに気温は0.6℃下がると言われている。標高1613mの八幡平山頂は単純に計算して麓よりも10℃近く気温が低いことになる。
更に山の上は天気が変わりやすい。予報では晴れだったのに雨が降ったり、突然強風が吹いたりといったことも起きやすく、そうなると体感気温は更に大きく下がっていく。
これに加えて転倒時に怪我をすることを防ぐためにも、気温が多少高くても薄手のものでいいので長袖長ズボンで行くことをお勧めする。
雪道の斜面をを登りきると、鏡沼が姿を現す。
広告などで幾度となく写真を見てきた光景であるが、実物を見るとその巨大さと鮮やかさに思わず感嘆の声が出る。
運やタイミングに左右される部分があまりにも大きい為に「ぜひ実物を見にきて欲しい」とはとても気軽には言えないが、写真でみるよりも遥かに迫力と見応えのある光景だった。
それと同時に、雪が完全に溶けた時の鏡沼の姿もさぞ美しいだろうなと思った。
暖かくなった時にもまた来たい。
さて、鏡沼は岩手県と秋田県の県境スレスレにあるとはいえ、一応は秋田県の仙北市の所属になっている。
とはいえ仙北市の中心部からは大きく離れており、2024年5月現在は公共交通機関を使って向かう手段は岩手県の八幡平市方面からの岩手県北バスか、十和田湖から秋田県の鹿角市方面を通ってくる八郎太郎号 (事前予約制)の2種類のようだ。
とはいえ自家用車であれば仙北市の北部にある玉川温泉まで車で1時間もかからず行くことができる。
道はそれなりにカーブが多いものの、途中にある大深沢展望台から晴天の日に見る絶景の感動はドラゴンアイにも劣らない。
さて、仙北市と玉川温泉といえば、以前の田沢湖についての記事で軽く紹介した。
日本で最も深い湖である田沢湖には辰子姫という龍神が住むという伝承があり、湖の周囲には数多くの神社や伝承が残る地が存在している。
龍神伝承の湖を有する町が、現代でも「龍の力」で多数の観光客を得ているのは偶然とはいえ非常に面白い。
過去の記事でも紹介した通り、玉川温泉から流れる強酸性の湯は、かつて豊かな生態系を有していた田沢湖でクニマスを含む多くの生物を死に追いやった原因であり、農業用水にも使えない玉川毒水とも呼ばれた水だ。
そのpHはなんと1.2。日本一酸性度が強い温泉としても知られている。また、全国でも珍しい塩酸が主成分の泉質なのだそうだ。
NHKが過去に実験を行なっているが、鉄製の包丁をお湯に入れると8時間程度でほぼ完全に溶けてしまう。「腕時計をつけたまま湯船に入ったら、腕時計が溶けて泡が出てきた」という話も聞く。
この湯のせいなのか単純に古いだけなのかわからないが、自分が玉川温泉行った際は周辺の一部のガードレールや道路標識は、全体が赤錆に覆われていた。
しかし同時に高い薬効があると伝わっており、玉川温泉は深い山奥にもかかわらず古くから多くの湯治客が集まる場所でもある。
水虫などの一部の皮膚病には実際に効果があるようで「毒にも薬にもならない」という言葉が示す通りに、ある分野では毒でしかないものも適切に使うことである分野の薬となるようだ。
同じ源泉を使っている温泉ながら、玉川地区には玉川温泉と新玉川温泉という2つの温泉がある。
この2つは直線距離はさほど離れていないものの、車で移動するならば大きく迂回したルートを通るために10分ほどかかる。
徒歩で行き来する遊歩道もありこちらも10分ほどで向かうことができるが、周辺ではツキノワグマがよく目撃されていて遊歩道も通行禁止になることがある。通る場合は熊鈴を持っていくことを推奨する。
いずれも日帰り入浴が可能であるが、一般的に自炊部のある玉川温泉は湯治目的の長期宿泊者向け、新玉川温泉は観光やレジャー目的の中短期宿泊者向けといった扱いを受けることが多い。
今回行ったのは新玉川温泉。
車から降りれば川のせせらぎと鳥の声が響く、都市部とはまた違う賑やかさに包まれた場所だ。
大浴場の中は酸に強いと言われる青森ヒバで作られており、浴場の中では温泉の匂いよりも木の香りをはっきりと感じる。
湯船は源泉100%が1つあり50%に薄めたものが温度などに応じて複数種類。打たせ湯はもちろん、箱蒸し湯や座り湯など普段は中々見ないようなものもあった。
まずは体と頭を洗った後、せっかくなのでまずは源泉100%に入った。
「普通こういう温泉って源泉100%がメインなのに、わざわざ薄めた方に湯船の種類を割くって珍しいな」と呑気に思っていたが、入った瞬間に理由を理解した。
なんというか、全身の細かい傷や炎症が簡単に見つかりそうな感じなのだ。どことは言わないが粘膜周辺がヒリヒリする。
青森の酸ヶ湯温泉などと比べて臭いは少なく、温度はちょうど良いので入っていられるが、うっかり体に湿疹があったり怪我をしている時に入ったら間違いなく悶絶することになっただろう。ひげなどの体毛を剃ったその日に入っても大変なことになりそうだ。
新玉川温泉が観光客向けと言われている一因の1つとして「玉川温泉の方が源泉に近いぶん湯が強く、新玉川温泉の方が入りやすい」と言われていることもあるのだが、たかだかこの程度の距離の移動でそこまで変わるものなのかという疑問以上にこれでもマシと言われても認めたくない。
行ったことのある温泉の数は20あるかないか程度なのだが明らかに普通の温泉ではない。「温泉の入り方講座」や「温泉相談室」がそこらじゅうにある理由がよく分かった。これは「温泉に入りに行く」という認識とはまた別に「玉川温泉に入りに行く」という認識が必要な類のものだ。
玉川温泉源泉100%の威力を思い知らされつつも3分ほどで湯船から上がり、屋内の湯から露天風呂まで歩けば、わずか1分程度の移動の間に皮膚の薄い部分がピリピリしてくる。
なお露天風呂の方は比較的マイルドだったので源泉50%程度と思われ、こちらも湯加減はちょうどよく景色も綺麗だった。
また、飲泉もあるが「傾けたカップの隅に少し貯まる程度の量の源泉に対して、真水をなみなみ注ぐ」というかなりの割合で薄める必要がある。なんでも38倍に薄めるらしい。実験か農薬くらいでしか見たことがない薄め方だ。その上で更に、飲んだ後は歯のエナメル質の保護のために飲んだ後うがいをする必要がある。
流石にこれだけ薄めれば大丈夫だろうと飲んだところ、薄めてなおこれまで口に入れたことのある液体で最も強い酸味を感じた。
なんというか、酸味の棘が半端ではない。明らかに普段口に入れるものとは違う、刺さるような酸味なのだ。普段口に入る酢や酢酸やらクエン酸に対して、塩酸の刺激だからなのだろうか。
しっかりうがいはしたのだが、この後30分くらいは伊右衛門が甘く感じた。
最終的に入浴時間はトータルで10分足らず、掛け湯をしっかりとしてから上がったのだが、上がった後は尋常じゃないくらい肌がツルツルだった。
というかこの記事を書いているのは行ってから3日ほど経った後なのだが、現在も普段よりやたらと肌がツルツルな気がする。いや、流石にこれは思い込みかもしれないが、とにかくこれまで入った温泉の中で最も強さを感じた温泉だった。
あまりにも強すぎて肌が弱い人は「湯ただれ」と言われる炎症を起こすことがあると聞いていたが、今のところ肌の調子はむしろかなり良い。
思い出せば思い出すほどにすごい場所だったが、こうして数日経つと次はいつ行けるか考えてしまう。そういう不思議な魅力を持った場所だった。
さて、八幡平も玉川温泉も非常に楽しかったのだが、これからこれらの地域を訪れる予定のある方には注意して欲しいことがある。
昨年に引き続き今年も被害が続出しているツキノワグマについてだ。
詳しくは下記の秋田県のサイトを読んで欲しいのだが、今年に入ってからもツキノワグマによる被害が続出している。
中でも八幡平地区や玉川地区は、積極的に人を襲うクマの個体がいる可能性が高いことから入山禁止処置がとられている地域にも指定されている。
これらの地域の他にも秋田県内では複数の地域で入山禁止処置がとられている。
これらの地域は風光明媚で自然豊かな場所ではあるが、それだけ野生動物との距離が近い場所でもあることを意味している。
危険から身を守るためにも、「立ち入り禁止場所に入らない」「ポイ捨てをしない」といった基本とも言える注意を今一度再確認して欲しい。