『聞き耳ずきん』みたいな出来事
通りすがりも通りすがり。
旅行中のバスの中。
乗り合わせた小さな子どもの言葉遊びに「はっ」となったことがあります。
旅の目的は熊野古道。
こんなにも長い仲になるとは思わなかった友人と二人の初旅行で、これからも年に一度は一緒に旅行しようと約束。結局、次の年に高知県へ旅行して以来、あれやこれや、その約束は宙に浮いたままですが――。
それでも、日常とはかけ離れたような交流だけは続いて、すぐには会えない距離となっても時どき連絡を取り合い、昨年は11月に久しぶりの再会を果たすことができました。
話がわき道にそれましたが、子どもたちの元気な声が耳に飛び込んできたのは、そんな旅の道中で、私たちが泊まった宿は、洞窟の温泉で知られる那智勝浦のホテル浦島。
文頭の旅の目的『熊野古道』も、具体的には『那智山の熊野古道』で、紀伊勝浦駅前始発の路面バスに乗り、古道がある那智山へと向かいました。
石畳が美しい大門坂をのぼり、熊野那智大社、那智山青岸渡寺、那智の滝をめぐるコースを存分に満喫した帰り道、那智滝前バス停からの路面バスは散策を終えた観光客でまぁまぁの混みぐあいでした。
といっても、紅葉の見ごろを過ぎ、冬へと向かう季節であったせいか、車内は満席とはならず、駐車場がある大門坂バス停では、ここまで車で来た方が一斉に降車して、バスの中は私たちとお子さん連れの家族だけになっていました。
路面バスの後方に一組の家族。
私と友人はそれぞれ離れて一人席。
友人は私より前の方に座っていました。
私と友人の位置関係は曖昧ですが、バスに乗り込む際、人の流れには抗えず、別々の席だったことは確かです。
そしてこれもまた曖昧なのですが、後方の家族はお母さんと小さなお子さんの一行だったと記憶しています。
その家族が途中からの乗車だったためか、「観光客ではない住人の雰囲気」を感じたような、そうでなかったような……。
でも、そんなことはどちらでもいいのです。
大切なのは、この後に起きた小さな出来事――。
言葉遊びを楽しむ子どもたちの元気な声が私の耳に飛び込んできました。
「さよなら三角、またきて四角」
「四角は豆腐」
「豆腐は白い」
が、どういうふうに変化していったのか、
「レモンは酸っぱい」
「酸っぱいはビタミンC」
と、思わぬ方向に繋がって、
「ビタミンCはよく分からん」
「よく分からんは自分」
で、途切れて終わりました。
思わず「はっ」となって後ろの方を振り向くと、当の子どもたちは二人仲良くじゃれあっています。
小学校低学年くらいと小学校に入る前くらいの幼い二人。
お兄ちゃんと妹だったのか、お兄ちゃんと弟だったのか……。
上の子が男の子だったような気がするけれど……。
でも、そんなことはどちらでもいいのです。
すごいのは「よく分らんは自分」になったことと、私の心がみるみる軽くなったこと。
子どもって本当にすごい。
私の心をこんなにも軽くしたのに、
子どもたちには言葉遊びのほんのひとコマだったみたいで、
今はもう、何ごともなかったような顔で窓の外を見ている。
これが、熊野古道の帰り道だったからでしょうか。
昔話の「聞き耳ずきん」をふっと思い出しました。
その日、ずきん(頭巾)ならぬ帽子でもかぶっていれば、もっと「聞き耳ずきん」っぽいエピソードになりますが、その日の写真を見るかぎり、それらしきものはかぶっておらず、私はいつもの私でした。
あの時、離れて座っていた友人にも、あの遊び唄は届いていたのかな?
一一今度会ったら聞いてみよう!
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