1年間に発売されたライトノベルのタイトルを、AIテキストマイニングで分析してみた
『このラノ』アンケート始まってますね。ここ数年Webでの回答者数がどんどん増えていたのですが、今年はとんでもないスタートダッシュで5,000人以上がすでにアンケートに回答しています。なんてこった。
『このライトノベルがすごい!2021』のBESTライトノベルアンケートはこちらをチェック!
どうも、マイストリート岡田です。
現在『このラノ』のアンケートが始まってちょっと一息、というところなのですが、ライトノベルのタイトルに関することでこんなツイートをしました。
この段階では感覚的なものなので、ちゃんとライトノベルのタイトルがリストになっているものを使ったほうがいいだろう、ということで『このライトノベルがすごい!2021』のために作った、昨年9月から今年8月までのライトノベルリストを使用し、そこに頻出する単語を調べてみました。
手作業で調べるのも難しいので、ワードクラウド作成と解析ができる、こちらのユーザーローカルを使用しました。
ポンとタイトルのテキストを入れてできたのがこちら。
やっぱり「異世界」が最も多く含まれる単語でした。「最強」と「転生」も頻出するワードですね。今年のリストには女性向けも入っているのですが、「令嬢」もかなりの頻度で出てきています。
「異世界」「転生」「最強」は、男女どちら向けでも関係なく頻出するので、これだけ数が多くなっているようでした。
『名詞』の出現頻度の上位はこちら。
頻出する『動詞』
頻出する『形容詞』
こうやって並べてみると、読者に好まれるだろうというワードがよく見えてきます。
「スコア」という項目は“重要度”の指標で、ごく一般的な単語ではない特徴的なものを重要な単語として点数化しているとのこと。
この「スコア」で見ると「異世界」「令嬢」「転生」が特異なものとされていますね。動詞だと「成り上がる」のスコアが高いことになるほどな、と感じました。「異世界」に「転生」して「成り上がる」というのが、トレンドとして見えてきます。上昇志向系のタイトルですね。
逆に、名声や権力からは逃れた、「スローライフ」「生活」「暮らす」という方向性もあります。このあたりは競争から逃れた隠遁生活を目指す方向性です。「のんびり」も17作と多く見られます。
「勇者」と「魔王」が上位に入っていますが、勇者は専ら主人公を追い出す嫌なヤツの役回りになっているようです。傾向としては主人公は「勇者」ではなく「英雄」という称号で表されるようになっています。あとは「賢者」として知能や魔法を特化したり、「冒険者」としたり。
「魔王」はなんだか人情的で優しいやつが多い。
「令嬢」に関しては「悪役令嬢」という組み合わせが半数くらいを占め、他には「公爵/侯爵/伯爵令嬢」「転生令嬢」などが見られました。このほかには「聖女」が目立ちます。高潔で強い女性のイメージとして「聖女」が用いられているようです。
ゲーム的な用語である「スキル」「チート」「ダンジョン」も多く見られます。「無双」もゲームからの派生でしょうかね。「ゲーム」と入っている作品は22作でした。「VR」は13作。「Sランク」のような付け方は15作。「Fランク」は3作。
女性に関する言葉も多く「少女」「美少女」「娘」「妹」などが見られます。ラブコメは依然として「妹もの」が強いです。「姉妹」も含めると33作になります。「妹もの」の変化としては、自分の妹ではなくて、友達や彼女の妹が対象になっているのが、このところの傾向でしょうか。
「幼なじみ/幼馴染」も多くなってきているように思えてまだ12作。「女子高生/JK」は13作。「姉」だと7作。「お姉さん」となると8作です。
男性に関わる言葉は、「おっさん」が17作と目立ちます。「アラフォー」は6作。ちょっと自虐的な表現しかないのか、と思ったけれど、「王子」というのがありましたね。こちらは19作見つかりました。
人称に関わる言葉にも特徴がみられました。
「俺」105作 「オレ」3作
「僕」34作 「ぼく」5作
「私」44作 「わたし」4作
「お前」9作
「君」15作 「キミ」2作
一人称、漢字を開いているものは少ないですね。タイトルとしては「俺」が使われることが圧倒的に多いです。「君」という語を用いているタイトルは、エモいものが多かったですね
個人的にはこういったタイトルは詩的センスが光るので、とても好きです。
『君は死ねない灰かぶりの魔女』
『もう一度人生をやり直したとしても、また君を好きになる。』
『きのうの春で、君を待つ』
『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る』
こちらは各単語の出現パターンが似たものをつないだ「共起キーワード」です。
単語と単語がペアになって出てくるものを表しているのですが、もっとも繋がりが強いのが「悪役」と「令嬢」の58タイトルでした。
「悪役令嬢もの」としてひとつのジャンルになっていることがはっきりわかりますね。
特徴的なのは「勇者」に「追放」が繋がっていること。「追い出す」もありますね。これは、主人公が「勇者パーティーから追放されて」というタイトルが多いためです。「勇者パーティー追放もの」として、物語の切り口を示しています。
『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』
『「お前ごときが魔王に勝てると思うな」と勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい』
「勇者」という属性が、“選ばれし者”“血統がある”“世界を救う責任を負う”のようなイメージがあるので、ある種の成功者なんですよね。ライトノベルという分野では特に、「普通の主人公」が選ばれる傾向が続いてきましたが、いまは意図的に「メインのグループからハブられた存在」という、日陰者の主人公が、共感を呼ぶポジションとして確立しているのでしょうか。この傾向は、ファンタジーでもラブコメでも変わらないですね。
動詞では「始める/はじめる」が多くみられるのですが、これはWeb発小説のタイトルが、物語の起点を元に作られる傾向にあるからです。『○○から始める異世界○○』とか。
リストを調べてみると『(誰か人物)と始める○○生活』や『(何かスキルor場所)で始める○○暮らし』や『(何か職業)始めました』などが多く見られるようです。物語の基盤となる設定や、起点のシチュエーションがタイトルになっているんですね。「目指す」も同様です。
形容詞に関しては「可愛い/かわいい」が圧倒的ですね。「楽しい」というポジティブワードも目立ちます。「美味しい/おいしい」が上がってきているのも、料理系の作品の強さが伺えます。
このAIテキストマイニングには上がってこなかったのですが、Excelで調べてみて、特徴的だと思ったものも挙げていきます。
まず、文章系の言葉。
「ました」119作
「したい」28作
「ません」27作
「でした」21作
文章系で「~な件」「~だった件」などと締める作品は18作ありました。
「冷やし中華始めました」とか「甘栗むいちゃいました」とかタイトルっぽいものとして受け入れやすいのかなとも思います。
「もふもふ」も人気の一大ジャンルになっています。全体で21作。なぜか北欧神話の巨大狼フェンリルが人気。4作。もふもふはしていないけれどドラゴンは人気……といいつつ10作しかタイトルにはありませんでした。
「竜」となると多く、29作。「エルフ」は13作、「スライム」4作、「ゴブリン」3作、「オーク」2作でした。スライムとかゴブリンとか目立っている気がしたけれど、あまり頻出ではないのですね。
目立ってる気がする……というと、異世界に転生するやつ「田中」が多くないか? と思って調べてみると「田中」は3作。単純に自分の記憶に残っているだけでした。田中。
こうやってタイトルに頻出する単語を見てきたわけですが、じゃあ「頻出する単語を入れ込めば良いタイトル」というわけでは全くありません。
多くの読者の琴線に触れるワードであることは確かですが、よく見る単語の組み合わせだけでタイトルが作られてしまうと、「凡庸」「無個性」になってしまいます。
たとえば
「異世界に転生した俺は最強スキルで成り上がる」
「勇者パーティから追放されたけど、チートなスキルでスローライフ始めます」
「悪役令嬢に転生しても、もふもふに囲まれた田舎暮らしを目指します!」
など、頻出ワードの組み合わせでタイトルを作っても、その作品の「固有性」が生まれないのです。
(いや、自分で書いてみて「もふもふに囲まれた田舎暮らしを目指す悪役令嬢の話読みたいな?」ってなった)
何かしらの固有名ではなくとも、意外性のある組み合わせをタイトルに入れ込むのも良い手ですね。それがこれまでになかったもので、かつ「なんだそれ」と多くの人が感じてくれるようにするのです。
上に書いた「田中」のように、平凡なのに意外性のある言葉を入れてくると、記憶に残りやすいのかもしれません。
というわけで、ふと思い立って分析してみた、ライトノベルのタイトル頻出ワードでした。
お読みいただきありがとうございます。よろしければ「スキ」とフォローをお願いします。 サポートいただければ励みになります。編集者としての活動に活かしていきます。