第14夜 出張時の「リーズナブルでうまいお店」探訪術
日が暮れていく。出張先の見知らぬ街で、どのようにしていい店(自分にとっての)を見つけ、うまい酒にありつくか。飲んべえにとっては旅を締めくくる上で、重要なミッションだ。
私が住む新潟市は酒どころである上、海山の食材が豊富。居酒屋のレベルはかなり高いと思う。観光地ではないので、勘定も大抵は地元客の懐に合った金額で済む。だが新潟県外、中でも著名な観光地のある自治体や、店がひしめく大都市部ではそうもいかないようだ。「手頃な値段で土地に根差す食と酒を楽しむ」という目的を果たすためには、事前の情報収集が必要になる。
よく言われるのが、「地元タクシーの運転手に聞け」というもの。私も以前はそうしていたが、運転手さんが必ずしも、地元の飲み屋に詳しくはないことに気付いた。観光客がよく行く店や、たびたびタクシーを呼んでくれる店については確かによく知っている。だが、料理や酒のメニューについて聞くと、「うーん」となることが多い。飲酒運転の取り締まりが厳しくなったこともあるのか、晩酌の習慣のない人が増えた。新型コロナウイルスの流行でお客が減り、外に飲みに行く機会が減っているのかもしれない。
どうやって店を探すか。コラムの名手だった先輩の手法はこうだ。夕方になったら、地元の役所に向かう。飲みに行くとおぼしき職員グループに付いていく。すると、値段が手ごろで、地元に愛されている店にたどり着けるのだとか。「なるほど」と感心したが、個人的な問題が一つ。酒飲みのくせに、私はモツや鶏料理が得意ではない。仕事上がりのサラリーマンが好むお店は、高確率で焼鳥屋なのだ。
そこで、私が取っているのは「浮世床作戦」。旅先で日中、1時間ほど時間があいたら理容店に行く。レディースシェーバー、顔そりをしてもらいながら、お薦めの店を聞く。自営業者は自分の店に来てもらう代わりに、地元の店を使う。雑談が仕事の一部でもある理容店の経営者は大体、飲み屋事情にも詳しい。
ポイントは、「サラリーマンの出張なので」と断っておくこと。観光客と思われると、価格高めの店を紹介されがちだ。じっくり話を聞いた後にお邪魔する店は、ほぼ外れたことがない。大阪の安いすし店で食べたクジラの尾の身、神奈川・真鶴(まなづる)で頬張ったキンメダイの煮付け、富山の居酒屋で出た地酒と白エビ…。どれもよかった。
手前みそではあるが、地方新聞社で知り合いがいたら、そちらに聞くのもお薦めだ。新聞社の人間はお酒好きが多く、店にも詳しい。ただ、相談すると、「待ってました」とばかりに、飲みに誘われるかもしれないので、ご用心。
(写真は長岡市の「角打ち+81カネセ商店」の壁に描かれた猫のイラスト。表情がいい。♥スキを押していただくと、わが家の猫おかみ安吾ちゃんがお礼を言います。下の記事では、「酒どころ新潟の角打ち」などを紹介しています)