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【感想】映画「うんこと死体の復権」
「うんこと死体の復権」をみた。衝撃だった。普通に生活していたらまず触れることのない世界。
監督はグレートジャーニーの関野吉晴さん。グレートジャーニー自体を知らず、ただの旅好きがひょんなことから「うんこと死体の復権」という文字をXにて発見し、何だかただものではないという気配を感じ取ったのがきっかけで映画館へ足を運んだ。
映画の内容をざっくりいうと「我々が毛嫌いするうんこも死体も結局自然にかえり循環する」ということ。日本では、うんこはトイレに流すし、死体は火葬するのが一般的だが、この当たり前が果たして本当に当たり前なのか。現代で声高に叫ばれるSDGsが茶番のようにみえてくる。
(もっとも私自身はSDGsを始めるとする政策等は茶番でしかないと思っており、なぜその現象が生じるのか?とその原因を遡ると結局のところ、資本主義社会で生活している人間が悪いのでは、という結論になってしまうひねくれた思考の持ち主だ。)
「人間が作り出す最も価値あるもの、それはうんこ」
なんということだろう。我々が現代でDXやら自動化やら叫んでいる中で、プログラミングやスマートフォンそれよりも価値のあるものはうんこなのだ。
伊沢 正名(いざわ まさな)は、自称糞土師。野糞を1974年より開始。屎尿処理場の建設に近隣住民が反対しているという世の中の事実を知り、自分の汚物を処理してもらいながら、反対するのは自分勝手。人様に迷惑かけないように生活するのであれば、野糞を自然循環させればよいという結論になったらしい。
我々が使うトイレットペーパーに代わるものは葉類で、この葉っぱはふわふわしている、柔らかい等葉っぱの感触をお尻目線で感じている。
自由に野糞ができるよう山の土地も購入したらしい。奥さんもいたが、野糞が原因で別れたとか。結局奥さんよりも野糞だったそうだ。
これだけでも十分インパクトがあるが、お察しのとおり、当然糞が映画の大画面に映る。他人の糞に虫が群がってるし、何なら糞をするためにしゃがんでいるシーンもある。
野糞を埋め、分解された後の土を食べる芸術家、伊沢さんに弟子入りしたのんちゃん(女性)、糞に群がる希少種の菌を発見して興奮冷めやらない大学教授等、カオスである。
ただ糞も時間が経てば土壌の養分になるという視点は忘れていた。日常生活ではあまりにも臭いが強烈で虫がたかってきた日にはもう白目ものであるが、自然の世界では違う。糞も虫にとっては、貴重な栄養源である。人間は糞を何の役にも立たない、まさに「糞」扱いしているわけだが、大昔に遡ればトイレなんてものは存在しない。そこら辺でしても成立していた時代が少なからずあった訳である。
となれば、このような自然の流れに逆らっている人間が食物連鎖等の自然な循環から道をはずれており、生態系へ悪影響を及ぼしていることになる。
究極のSDGsの形をみせてもらった。世の中のSDGsなんで上っ面の「糞」だ。伊沢さんの願いである土葬をして自然界への次のエネルギーとなることを切に願っている。
「糞は情報のカプセルでね。情報を出すんですよ、尻から」
高槻 成紀(たかつき せいき)。生態学が専門。生態系の乱れがどこからきているのか。生き物そのものを助けるよりはそのもっと奥底に眠る問題の解決に挑む。
その過程で使用されるのが糞である。この映画あるあるなのか分からないが、皆さん自分の糞を使いがちである。
糞の臭いを頼りに生活する昆虫。糞から出てきたものを分析した結果、いい匂いのするゴミを食べてしまっている狸。人間都合で切り倒してしまった木々の影響で変化する木を取り囲む生態系。
我々は見えている世界にだけ生きているわけではなく、様々なものと繋がりを持ちながら生きているということを忘れてはいけない。一過性のエゴが引き起こした世界がまさに今の現実なのだ。
「もうちょっと死ぬことをポジティブに考えていんじゃないか」
舘野 鴻(たての ひろし)。絵本作家。
生物画のリアルイラストの仕事が激減した際に、知人からかけてもらった「絵本作家やれば?」で絵本の世界へ。どうせなら誰も書きたがらない汚い世界を綺麗かいてやろうという想いを胸に、死体を喰う生き物を日々観察している。
冷凍されたねずみを仕掛け、どんな虫がかかっているのか。ウジ虫は映画の終盤までくれば見慣れたものだが、動物の糞を喰って生きている宝石のような輝きのコガネムシを見て少し印象が変わった。うねうねして気色悪い虫だけが汚いものに群がるのだとばっかりと思っていたが、この輝きを敵を遠ざけたり、異性へのアピールに繋がるらしい。
また、舘野さんは死ぬことは自然の連鎖からしたら当たり前で、我々は死というものに対して、恐れを持つ必要はないということを感じさせてくれた。
監督の関野さん自身はアマゾンの山奥で生活もしていたこともあるほどのサバイバル精神の持ち主であり、我々の生活のあり方に一石を投じる、非常に良質な映画だった。久しぶりにドキュメンタリーをみて感動した。ここまでお読みいただいた方の中で、また映画を見ていない方で少しでも興味を持った方がいればぜひ映画館に足を運んでほしい。
余談だが、映画館では「うんこと死体の復権を1枚….」と大の大人たちが、「うんこ」を連発する世界もカオスだ。
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